第十話 ていうか、アントワナの正体が暴かれる、その時!
「そ、そんな……」
「……まさか……」
小一時間説明をされても、ヴィーとナイアは半信半疑のようだ。
「……それで彼女は重要な会議からは外していたのですね……」
「その間はハクミんに見ててもらったけど……どうだった?」
チュチュ! チュウ!
「……何だかんだ言って会議中の私達の近くにいたそうです」
やっぱり聞き耳を立ててたか。
「最初は何か怪しいって程度の疑惑だったんだけど、それが確信に変わったのは……アーラン攻略戦のときね」
「……アントワナと遭遇したという?」
「そ。あのときから……常に一挙手一投足を観察した。するとおかしい点ばかりがクローズアップされたわ」
「……」
「さて、最終確認といきましょうか……あんたもおかしいと感じてたんでしょ?」
背後でビクッと震える気配を感じる。
「だからなるべく側にいたんでしょ? リジー」
……名前を呼ばれたリジーは、観念した様子で出てきた。
「…………ごめんなさい」
「何を謝る必要があるのよ」
「だって……おかしいと思ってた。最初から変だった。でも……それがわかってても、サーチ姉達に言う事ができなかったから……」
「それは私も一緒よ。一人で抱え込まずにみんなに話していたら、少しは違う展開になっていたかもしれない……」
……私は決心すると、みんなに向き直った。
「全て話すわ。アントワナのことを。私との因縁を」
「サーチとの因縁って………ま、まさか、アントワナも……?」
「そうよ。私とアントワナとの因縁は……前世に遡るわ」
「ぜ、前世ですって!? な、ならサーチは……他の世界からの転生者ですの!!?」
…………あ。
「そっか。ナイアにはそこから話さないといけないんだっけ……」
……再び小一時間話し込むことになった。
「成程……ではお互いを殺し合った因縁が、この世界に来ても続いているわけなんですの……」
「まさか……サーチ以外に転生者がいたなんて……」
「ま、アントワナは自分が転生者だってことを理解したのは、私よりずっとあとだったみたいだけどね」
私は生まれてから数日後には自覚してました。だからちっちゃい頃から訓練できたんだけど。
「……リアルに見た目は子供、中身は大人むぐぐぐ」
待て待て。そのキャッチフレーズはマズい。
「……どうします? 早めに手を打たないと」
「大丈夫。リファリスもソレイユも知ってることだから」
「「……は?」」
「知ってるって言うより、自力で気づいたらしいわ。ソレイユなんか会ったその日に『サーチ、あの娘……妙な魔力を感じる』って感じだったわよ」
「そ、それでリファリス様も急ぎ気味で帰国されたのですか」
ま、アントワナを泳がせるために半分演技、だけど国が心配で半分本気って感じだろうけどね。
「とにかくあの二人がすでに動いてる以上、リングナイ以外のことは一切心配いらないわ」
「エ、エイミア姉とエカテル姉! あの二人にも知らせないと!」
「大丈夫だって。もうソレイユが手を回してるから」
「そ、そうなの?」
「リファリスが戦場を離れるって好機を、アントワナが見逃すはずがない。必ず動きはある……って言って、魔王様自ら張りついてる」
「マ、マジっすか」
「念のためにリルとマーシャンにも知らせとくわ。あの二人が警戒すれば、まずは問題ないし…………って、しまった。リルは妊娠中だったっけ」
「「え」」
「流石に戦うのはムリだろうから……マーシャンにガードをお願いするか」
「ちょちょちょっと待ってください! 今何気に爆弾を落としましたね!?」
「妊娠!? リル姉が!? 口から卵を生む!?」
「ヴィーはともかく、リジー、めちゃくちゃ失礼だからね!?」
口から卵って……。
「……ごめん。そういえば言ってなかったわね。もう安定期は過ぎたんじゃないかな?」
「リ、リルが……出産」
「そ、想像できない」
「ま、最初はそんなもんよ。自分でも自分から子供が生まれるなんて、まるで想像がつかないからね」
「……まるで経験者みたいな言い方ですね」
「みたいなって……経験者だから言ってるんだけど」
びきぃ!
……ん? 三人とも凍りついた?
「け……経験者?」
「ま、まさか、サーチ姉……」
「こ、子供を……生んだ事があるんですの!?」
「うん」
どっかあああん!
?? 三人が何故か吹っ飛んだ?
「だだだだだだだだ誰の子供なんですか!?」
「誰のって……私の子に決まってんじゃない」
「だからからからからから!」
「ちょっとヴィー、落ち着きなさいよ」
「ここここここれが落ち着いていられますか!」
「前世の話よ? 今はどうでもよくない?」
「…………前世のお話なのですか?」
「そうよ。前世で女の子を出産したわ。相方は死んじゃったから片親で可哀想だった……ってなんでヴィーは○| ̄|_になってるの?」
「…………ヴィーさん、毎回振り回されてますの?」
「……たまに」
「心から同情致しますわ……にゅ!?」
……めっちゃバカにされてる気がする。
「いひゃいひゃにょーーーーんんん!」
「…………」
「にょにょーーーーんんん!」
「……サーチ姉、ナイア姉の魔力が危険水準まで高まってる」
……そうね。止めときましょう。
パチンッ!
「痛! …………サァァァァチィィィィ!!」
ぶおんっ ずどおおおん!
「うひゃい! あ、危な……あんた殺す気!?」
「このような恥辱を味わわせた事、後悔させてあげますわあああああ!」
「ちょ、ちょっとおおおお!?」
ずどおおおん!
……私の意識は暗転した……がくっ。
「…………う、ぅぅん……」
「あ、気がつきましたか、サーチ?」
「ん………ってあれ?」
ここは……亜気館?
「怒ったナイアにぺしゃんこにされたのは覚えてます?」
「…………うん。よく私生きてるわね」
「すぐに≪完全回復≫を連発しましたから」
「……ナイアは?」
「素っ裸に剥いて、旅館の軒先に吊るしてあります」
私に似てきたな、おい!?
「……なるべく早く下ろしてあげてね」
「善処します」
善処って……。
「……驚きました。まさかサーチが出産経験者だったとは」
「ん? まーね。父親は早くに死んじゃったから、私が一人で育てることになったんだけど……」
「……けど?」
「その頃から組織に命を狙われててね。一緒に逃げられないから親友に預けたのよ。それっきりかな」
「そう……なのですか」
「こうして転生してからも、たまに思い出しちゃうのよ……もうどうにもならないのにね」
「……サーチ……」
「ふふ。もう涙も渇れちゃったからね。泣かないわよ」
「……また……会えますよ」
「……そうね。また……いつか……」
……ヴィーの膝枕がちょっぴり濡れたのは、たぶん汗だ。
サーチ、まさかの子持ち。




