第八話 ていうか、エイミア達はまだまだ来ないー。だから観光に邁進する…………あれ?
あっという間に五日間が過ぎた。けどエイミア達が来る気配は一向にない。
『どうなさいますか?』
「ん〜……とりあえずまた五日間延長で」
『ありがとうございます〜!!』
今さら他の旅館に移る気はしない。料理サービス温泉そろって☆☆☆☆☆だ。
「でもホントにこの料金でいいの? ヘタしたら大赤字じゃない?」
『大丈夫です。うちの場合は人件費が一切かかりませんから』
……確かに。幽霊には食事も睡眠もいらないし。
「じゃ、じゃあ、全員タダ働き!?」
『というより、この旅館は趣味の範囲内ですね』
趣味!?
『一応ほとんどの従業員には本職がありますから』
「ほ、本職って……?」
『私は地縛霊ですが、他はこの町の住人の守護霊の皆様なんです』
た、確かに本職だわ。
「……もしかして、悪霊の類いも……?」
『まさか! 私共は健全な旅館ですから! 悪霊など一人もおりません!』
……幽霊が趣味でやってる旅館ってだけで、健全とは程遠いと思うけど……。
「それにしても軍が動いてるって話すら届かないわね〜……」
「一応大軍と言える人数ですから、何かしら噂は立つと思うのですが……」
本日はソークラウドの共同浴場に出張。地元の人達との裸の付き合いで、何かしら情報を引き出せないか、と思ったんだけど……。
「やっぱり街道から離れてるから、最新の情報が入ってくるのは遅いみたいね」
ここで聞けた情報は『アントワナがリングナイに籠ってる間に、肝心な帝都が陥落しちゃった』というのが一番新しい状態。連合王国軍が迫ってるって話は、一切聞くことはなかった。
「そう思うと、ここって平和な場所ですわね」
そうね〜。もし街道沿いだったりしたら、こんな平穏な空気は漂ってないわよね〜。
「サーチ姉、エイミア姉とは連絡とれないの?」
「ずっと圏外のまま。もしかしたら念源を切ってるのかもしれない」
念源ってのは、電源のことだ。
「切らなければならない状況だとしたら、エイミアも大変ですね……」
「あの、エイミアさんは大丈夫ですの? こんな情勢です、下克上もあり得るのでは?」
「あー大丈夫大丈夫。あの娘も元勇者は伊達じゃないから」
「………………はい? 勇者?」
……その頃……。
「皇帝陛下! お覚悟ぉぉぉぉ!」
バリバリバリ! ズドォォォォン!
「しびびびびびびびびぃ! ぐはあっ!」
バタッ
「はぁぁ……また下克上ですかぁ? 寝る時くらいは勘弁してくださいよぉ〜……」
「えいみあ、またきてるよ〜」
「ありがとうドナタちゃん」
……下克上されまくりでなかなか進軍できずにいた。
まだまだ暇なので、今度はビッグスノー連峰を観に行くことにした。とはいえ、温泉街から少しだけ歩く程度ではあるが。
「もう少し歩けば見えてくるみたいよ〜……あった!」
「お、お〜!」
「雄大な景色ですわ」
「白いと思われ」
……リジーはどういう場合に感動するのやら……。
「リジー、白くて当たり前だから。ていうか、この絶景を観て何とも思わないの?」
「う〜ん………………遥か上空からのブランコ、何故か乗れる雲……」
待て。なぜそれを知っている?
「そして迫り来る白い霧……」
「……ん? あの歌の歌詞には、白い霧なんて……」
……ドドドドドドドドド……
ん? 地響き?
「サ、サーチ!」
「逃げますわよ!」
に、逃げるって……まさか……!?
ドドドドドドドドド!
「な、雪崩だああああああああ!」
すでに逃げ始めているヴィー達を追って、私は全速力で駆け出した。
「何で!? 何で雪がない平原に、雪崩が届くわけ!?」
「サーチ姉、ビッグスノー連峰の中腹」
中腹が何よ!?
「地獄の雪男が手を叩いて喜んでる」
またあいつかあああああああ!
「リジー、逃げながらでいいから矢を一発ぶっ放して!」
「おーらい」
リジーは走りながら適当に矢を射る。すると矢は突然方向を変え、ソニックブームを発生させつつ飛んでいった。
「……前足の爪と皮膚の間を狙った」
ナーイス深爪。
「……何て言ってる間に、背後に雪崩がああああああ!」
ドドドドドドドドドドドド!!
ヤ、ヤバい! 雪崩のほうが早い……!
がしぃ!
「きゃっ!?」
何かに左腕を掴まれて……う、浮いてる!?
「大丈夫ですか、サーチ!?」
「ヴィー! ……とナイアか」
ホウキに跨がったナイアと、しがみつくヴィーの蛇によって助けられた。
「助けてあげましたのに、ワタクシはついで扱いですの!?」
「ごめんごめん。ナイアが魔女だって意識してなかったから」
「何だと思ってたんですの!?」
「破壊戦士」
「酷!?」
破壊戦士ってのは、ハンマーやこん棒をぶん回す、破壊に特化した職業。いわゆる攻撃バカ。
「取り消してくださいまし! ワタクシ、そのような単細胞ではありませんわ!」
「……ナイア、全国の破壊戦士に謝りなさいよ」
「それよりリジーは!?」
……あ。
「リジー! リジー、どこいったの!?」
「……ここですよ〜」
あ、返事があった。よかった……。
「梯子に飛び乗りジャジャジャジャ〜ン!」
「は、梯子! 空飛ぶ梯子ですの!?」
……そういや最近ご無沙汰だったけど、リジーには自立支援型の呪われ梯子があったっけ。
「あろは〜おえ〜」
「……?」
「な、何か変な踊りを始めましたけど?」
…………。
「雪崩に巻き込まれかけて、ちょっと混乱してるらしいわね……まあいいわ。このまま町まで………いや、ちょっと手前の草原に降りて」
「わかりましたわ」
「リジーもいい?」
「はい!」
…………。
「……よいしょっと。皆無事ですわね」
「ええ。ありがと、ナイア」
「どういたしまして。それより、リジーも飛べたのですわね」
「そうですね。あの梯子にそんな活用法があったとは」
…………。
「ねえ、リジー」
「はい」
「その梯子、ずいぶん久々ね?」
「はい。咄嗟にこの使用法を思いつきまして」
「ふ〜ん……それよりさ」
「はい?」
ズドムッ!
「かはっ!?」
「あんた……何者?」
突然の私の凶行に、ヴィーとナイアが驚愕する。
「サ、サーチ! 何をしているのですか!」
「みんな、戦闘準備! こいつ……リジーじゃない!」
「え!?」
踞っていたリジーは、ユラユラと立ち上がり……私を見た。
「……フフ……いつ気づいた?」
「最初からよ。あんたのことだから、私の仲間に似せたコマを紛れ込ませるんじゃないかって、ずっと警戒してたのよ」
「…………」
「入れ替わったのは雪崩のときね。矢を放ったとこまでは、間違いなくリジーだったから」
あの雪崩も、≪統率≫した地獄の雪男にムリヤリ起こさせたんでしょうよ。
「……フフフ……よくぞ気付いたものだ。どうやって見分けたのだ?」
私は偽リジーの胸を指差し。
「リジーはそこまで大きくない!」
「「見分け方、そこかよ!」」
ヴィーとナイアのつっこみをスルーして、私は短剣を作り出す。
「今回は逃がさないわよ……アントワナ!」
その頃。
ゴソゴソ
「……ぶはあ! ……ここはいずこ?」
……リジーは地上に這い出ていた。
黒幕参上?




