第四話 ていうか、盗賊ギルドのギルマスとの交渉。うまくいく気がしなかったんだけど……?
「待たせたようですまなかった…………ん? お前らは……」
「あーーーー!! ジイちゃん、こいつら! こいつらだよ!」
やっぱり。
特に後者の反応は最悪だ……って当然か。
「……お前らかい? わざわざ道案内してやったうちの孫を、フルボッコにして簀巻きにしたあげく、このギルド近くの木にぶら下げたってのは?」
「多少齟齬はありますけど、大体その通りです」
「……何だ、齟齬ってのは?」
「二点。フルボッコにはしてません。まあ数発小突いたのは認めますが」
「ウソつくなよ! オレを取り囲んで、殴る蹴るのボーコーを加えたじゃないか!」
「いやいや、ホントにそうなら、あんたがピンピンしてるのは不自然ですから」
「……で、もう一点は?」
「小突かれたり吊るされたりしたのには、ちゃんとした理由があるってことです。あんたのお孫さん、私達が道案内を頼んだことをいいことに、ヴィーのお尻とナイアの胸を……」
「ちょっと待て待て待てえええ! オレ、そんなこと……」
「仕舞いには私の太ももに……」
「……お前……女に狼藉きを働くとは……そんな事を教えた覚えはねえぞ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよジイちゃん! オレの話を聞いてよ! オレ、そんなことやってねえよ!」
「…………」
「ジイちゃんはオレとあのクソババアと、どっちを信用するんだよ!?」
……ギルドマスターは私達をジロジロと見てから。
「……可愛い女の子を信用するに決まってるだろが」
ゴッ!
「いってええええええ!」
ギルドマスターの拳骨が炸裂した。
「……サーチ。私はあの子にお尻を触られていませんよ?」
「ワタクシもですわ。そのような目にあっていれば、自分で報復致しますし」
そりゃそうでしょ。私だって太ももを触られてないし。ていうか。
「私は『触られた』とは一言も言ってないから」
「……えげつないですわね」
「ていうかね、あれだけで信用されなくなる孫自身の素行が問題なのよ」
「……それ以上に『可愛い』という理由で孫を裏切る祖父も問題と思われ」
「ていうか、リジー! あんたどこへ行ってたのよ!?」
「ん? 盗品市」
盗品市!?
「この町に入った瞬間から、呪いの匂いがプンプンしてた。辿っていったら、そこは盗品市だった」
「…………」
「大量大量。いっっぱいコレクション増えた」
「……リジー。そのお金はどこから出したの? パーティ用の財布、メチャクチャ軽くなってるんだけど?」
「そ、それは……エヘヘヘヘ〜」
ゴッ!
「いったあああああい!」
……リジーの頭にも拳骨が炸裂した。
「すまなかったな、へっへっへ」
……あんたもその笑い方をしてる限り、イマイチ信用できない感ありありよ。
「俺も孫には厳しくしつけたつもりだったんだが……まだまだ足りなかったみたいでさぁ」
「……スリの修行もしつけの一環?」
「それだけじゃねえぜ。恐喝、詐欺、強盗、空き巣、カツアゲ等々英才教育を施してるところだ」
英才教育が斜め上すぎて全然ダメじゃん!
「そんな教育してるから、孫があーなるのよ!」
「何だと!? 俺の教育が間違ってるってのか!?」
「大いに問題あるわよ!」
「な、何だと………だから、だから一番下の娘はああなっちまったのか?」
……聞く限り、相当な極悪人になっちゃったのかな?
「その娘さんは何をされてますの?」
「……ゴールドサンでギルドマスターを」
めっちゃ立派じゃない……ていうか、ゴールドサン? ギルドマスター?
「……まさか……ツボネさん?」
「なっ!? なな何で娘の事を知ってやがる!?」
「ま、まさかの親子かよ……」
けど性格的には似通ってるわ……見た目は父親のほうが貧相だけど。
「元気なのか!?」
「ええ。普通にA級冒険者と引き分けるくらい元気よ」
「…………そ、そうか」
「ていうか、何で娘さんがゴールドサンのギルドマスターに?」
「知らん。喧嘩して家を飛び出してからは会ってねぇ。最近になってようやく行方がわかったくらいだ」
「……会いに行けば?」
「『念話しよう』と言って送った水晶が、粉々になって送り返されてきてもか?」
……あんたの頭も粉々にされるわね。
「そうだそうだ、話がすっかり逸れてたぜ、へっへっへ。俺に何かしてほしいのかい?」
「情報を買いたいのよ」
「何のだ?」
「リングナイの内情」
「……アントワナのクソビッチに喧嘩売る気か?」
「クソビッチって……嫌われてるわね〜」
「当たり前だ! あの女、うちの若いのを雇ったと思ったら、人間爆弾にして特攻させやがったんだ!」
「マ、マジで?」
「ああ。だから盗賊ギルドで賞金首になってるよ」
……これは……好都合かも。
「私達も狙いはアントワナの首なの」
「そ、そうですかい! なら話は早いですぜ、へっへっへ」
「そうね。だからありったけの情報をちょうだい。お金に糸目はつけないから」
「へっへっへ、それなら無用ですぜ」
……へ?
「さっき拳骨したお嬢さん、あんたの仲間だろ? 長年売れ残って困ってた呪われアイテムをゴッソリ言い値で買ってくれたんだ、情報くらいはサービスしますぜ」
リジー、あんたいくら使ったのよ……!
「と、砦の設計図に……町の警備態勢、兵力の配置図に秘密通路の地図まで……!」
よ、よく集めたわね。
「へっへっへ。俺達盗賊の一番大事な事は情報収集だ。それを怠る奴はすぐにお縄か、下手したら命を落とす」
「確かに。それはアサシンにも通じることだしね……ホントにお代はいいの?」
「いらねぇよ。ただ、どうしてもって言うなら……おい」
ん? スリモドキの孫じゃない。
「あ、あの! ワガママ言ってごめんなさい!」
「許さん」
「ひぇ!?」
「ちょっとサーチ……いいですわよ。今回は見逃して差し上げますわ」
「あ、ありがとう! あ、あの!」
「何ですの?」
「あ、あの……………一目惚れしました! 付き合ってください!」
「一昨日来やがれですわ」
「ふぇ!?」
瞬殺だったわね。
「だから言ったろうが。絶対に無理だって……」
……わかってたんなら、全力で止めてあげなさいよ……。
「まあいい。これも修行の一環だ」
あんたの教育方針はマジで理解不能だよ!
「言うだろが。獅子は己の子を谷に突き落とすって」
あんたのは谷どころか、煮えたぎるマグマに突き落としたようなもんだよ!
ギルドマスターの紹介で、この町で宿をとったんだけど……。
「更衣室に覗き穴がありますわね」
「食事に媚薬系の香りがします」
「この扉、細工がしてあると思われ」
「これ、外からカギが開けられる仕組みだわ」
……ろくな宿じゃなかった。翌日ギルマスに問い質したら、ギルマス直営の宿だそうで。
「へっへっへ。やっぱりお嬢さん達には通用しませんなぁ。ぜひ覗きたかったおぎょおお!」
……二つとも潰しておいた。
痛かったろうなぁ、ギルマス。




