第一話 ていうか、リングナイへ向けて進軍開始!
「改めまして、ワタクシ今日から始まりの団に参加する事になりました、ナイア・ルナティクスと申します。どうぞ宜しくお願いいたしますわ」
「こちらこそお願いします。まあ大体知ってるだろうけど、改めまして、私がリーダーのサーチ。職業は重装戦士……兼アサシン。で、こちらが」
「昨日はどうもありがとうございました。私はへヴィーナ、通称ヴィー。メドゥーサの聖術士です……そしてサーチの正妻いったああああい!」
「余計なことは言わないように。はい、次」
「おほほほほほほ! ワタクシはナイア、良きに計らえですわ、おーっほほほほほほほ!」
「……何がしたいんですの、彼女は?」
「あ、リジーはふざけてたら、容赦なく殴っていいから」
「そうですの? では」
ずどがしゃあ!
「へぶぅ!」
へ!?
どごおおおん!
「ふびぃああ!」
なっ!?
ずしいいん! どしいいん! ずどんずどんずどん!
「ひぎゃ! ひぎゃ! ひぎゃああ!」
「ちょちょちょストップストップストップ! リジーが死ぬって死ぬって!」
「え? 容赦なく殴って良いのですよね?」
「程度ってモノがあるでしょうが! ハンマー型ホウキで地面がめり込むくらい殴り続けたら、普通は死ぬわよ!?」
「……そうですわね。なら、後一発だけ」
「だ・か・ら! 止めなさいっての!!」
「……リジー、大丈夫ですか? リジー?」
「こひゅ〜……こひゅ〜…………ぐふっ」
「マズいですマズいです魂が抜けかかってます! ≪完全回復≫!!」
……どうにか一命を取り止めたリジーを、私はキビしく叱っておいた。
「三時間正座!」
「ひえええええっ!?」
私達はナイアの指揮の下、アントワナが立てこもるリングナイに進軍している。兵力的には私達が有利だけど、強力な統率者であるアントワナは、モンスターを集めることでどれだけでも兵力が補填できる。兵力の差はすぐに有利に働くとは言いにくい。
「……というわけで、ナイアにその辺りの対策を聞きたいんだけど」
行軍中なので私達は馬車の中。今はヴィーが馭者の番だから、私とナイアと正座中のリジーのみだ。
「そうですわね。まだリングナイの状況も詳しくわかっていませんから、一概には言えませんが……一番有効な手段がありますわね」
「へえ……何か妙案があるの?」
「妙案と言うより、誰でも考え付く事ですわ」
「誰でもって……」
「簡単です。アントワナを暗殺してしまえば戦局は一気に好転します」
「あ、暗殺ぅ!? ……け、結構過激なのね、ナイアって……」
「そうですか? 多大な犠牲を払って正面突破を図るよりは、余程現実的だと思いますわよ?」
そ、そんなもんかな……。
「幸いサーチは凄腕のアサシンだと聞いてますから、この手は有効であると判断しますわ」
「ていうか、私っ!?」
「勿論サーチだけに押し付けたりしませんわ。ワタクシを始め、ヴィーさんやリジーもちゃんとフォロー致します。ね、リジー?」
「……はい」
リジーは完全にナイアに降伏しました。
「そ、それなら……ていうか、ナイアがこの軍を動かしてるのよ! そのあんたがどうやって私のフォローをするのよ!」
「勿論、直接ですわ」
「ちょ、直接?」
「ワタクシ達は軍と別行動をし、アントワナの首を狙います」
「はああああああ!? ワタクシ達って……ナイアも別行動するっての!?」
「はい」
「はいって……さっきも言ったけど、ナイアがこの軍の指揮してんのよ? そのあんたが軍を離れたら、誰が軍を指揮するのよ!?」
「あぁ、その事ですか。でしたらすでに解決済みですわ」
……へ?
「ワタクシ以上に軍を指揮するのにうってつけの御方がいらっしゃいましたから」
御方って……ま、まさか。
「皇帝親征ですと士気もうなぎ登りですわよ」
エ、エイミアァァァ!?
「わ、私に力を貸してくださあああい!」
「「「うおおおおおおおっ!」」」
「ほら。人を惹き付ける力は、やはり持って生まれた天賦の才ですわ」
いやいや、あれは惹き付けるんじゃなくて、危なっかしくて放っておけないだけですから。
「わ、私はまだまだ未熟者で……その……」
「大丈夫です! 我等が付いております!」
「大船に乗ったつもりで、悠然と構えていてください!」
「我等、皇帝陛下に絶対の忠誠を誓います!」
「えっと……(ナイアさん、後はどうすれば?)」
「(ならば威風堂々と前進あるのみ。行け、我が同志よ……とくらいに言ってください)」
「な、奈良はY○○oo! ゴーゴーと変身あるのみ! 逝け! 我が子牛よ!」
何を言ってんのか意味不明すぎるわよ!
「「「お………おお?」」」
スゲえ! 全軍に疑問系を使わせたよ!
「と、とにかく前進あるのみ! 進めええええっ!」
おお、グリムがうまくフォローしてくれた。そういえばグリムがいるんだから、指揮は問題ないか。
「グリムはワタクシの派閥に所属していますから、ワタクシの指示通りに動いてくれますわ」
いつの間にかナイア派ができてるし!
「というわけで、何の問題もなくワタクシは別行動できますわ」
「ちょっと待って。軍の規模は確かに大きいけど、アントワナがモンスターの大群でも送り込んできたら、状況は一変するわ。グリムは確かに有能だけど、モンスターの大群との戦闘経験なんて皆無でしょ」
ていうか、そんな戦闘経験がある人なんてほとんどいないわよ。
「対モンスターに関しては冒険者の領分よ。その私達が離れるのはちょっと危険じゃない?」
「大丈夫ですわ、モンスターを以てモンスターを制すれば良いのです………いらっしゃい、ドナタ!」
「よばれてとびでてじゃじゃじゃじゃじゃーん!」
「「「ド、ドナタ!?」」」
「ワタクシは元々ドナタとは顔見知りですの」
「ねー?」
す、すっかり忘れてた……。
「さーちん、わたしのことをわすれてたでしょ!」
「え〜。全然忘れてなかったわよ〜」
「……ぜったいにうそだよね」
やべえ。バレてる。
「兎に角、これでアントワナに対抗できますわ。何と言ってもドナタは、早熟才子の統率者なんですから」
……う〜ん……確かに。
「というわけで、何の問題もなくワタクシは別行動できますわ」
「……そうだけど……」
「念には念を込めて、サーチのお友達の……ソレイユ様でしたっけ? そちらにも救援を依頼しましょう」
「え? ま、まあ、いいけど……」
「というわけで、何の問題もなくワタクシは別行動できますわ」
「ていうか、ナイアはそこまでして自由な旅をしたいわけ?」
「当たり前ですわ! 自由になったばかりで、何故軍に縛られなければならないのですの!?」
ナイア、めっちゃ自己チュー!?
まあ結局、ナイアの手回しの良さに押しきられる形となり、私とヴィーとリジー、それとナイアが別行動することになった。
「わ、私の意思は……びええええええっ!」
……エイミアだけ被害を受けて。
ナイア、自己中心派?




