第二十一話 ていうか、新たな仲間を加えて、新生始まりの団の始まり始まり〜!
「…………」
「ナイア様」
「ん!? な、何ですの!?」
「何をソワソワしているのですか?」
「……フランには敵いませんわね。ええ、今のワタクシは自分でも落ち着けない事を自覚しています」
「……サーチ様ですね」
ビクゥ!
「いいい一体何の事ですの!? サーチの事はもういいのですわすわ!」
「……一緒に旅に出てみたいのでは?」
ドッキンビビクゥ!
「ままままだ見た事がない世界を見たいだなんてこれっぽっちもあうあうあう」
「行ってらっしゃいませ」
「あうあうあう……え?」
「行ってらっしゃいませ、と申し上げました」
「で、でもフランが……」
「私達は大丈夫です。幸いサーチ様のお友達がエリーミャ様の元へ送ってくださるそうですから、危険はありません」
「……いいんですの?」
「今まで抑圧された生活を送ってみえたのです。もうご自由になさいませ」
……困った。
「ですから、このまま進んでいただかないと」
「知った事ではないわ! 〝血塗れの淑女〟様が居られぬ今、お前達の指図など受けぬわ!」
「何を言っておる! 〝血塗れの淑女〟様はへヴィーナ殿に従うよう、我々に指示を出されていったではないか!」
「居らぬ者に従う謂われはないわ!」
連戦連勝で調子に乗ってる上、リファリスという重石がなくなったもんだから、一気に軍の統率が乱れてしまったのだ。もともとよそ者のリファリスに反感を抱いていた連中は、まるでヴィーの指示を聞こうとしなかった。
「落ち着いてください! ここでバラバラに行動したって、敵の思うつぼなのですよ!」
「うるさい! 貴様の指示には従う気はないわ! あれだけ弱体化した賊軍など、我々だけで十分だ!」
……こいつ、全然戦争をわかってない。軍を分割しちゃえば、百戦錬磨のアントワナに敵うわけがない。
「……エイミア、何か言ってやってよ」
「ええ!? えっと………争いは駄目ですよ?」
「ご安心を、皇帝陛下。御身に関しましては、我々が必ずお守り致します故、ご安心してご同行ください」
「ふぇ!?」
おいおい、エイミアを連れていくつもりかよ。
「それはダーメ。エイミアは私達の仲間なんだから、勝手に連れてくのは許さないわよ」
「サーチぃ!」
「何を言うか! この御方は皇帝陛下でいらっしゃるぞ。個人的な友情なぞ挟み込んでもらっては、陛下のご判断に悪影響なだけ。即刻パーティから離脱していただく!」
……ブチッ
「…………はぁ? あんた殺されたいわけ?」
「サーチ姉落ち着いて!」
相手も私の殺気を感じて剣に手をかける。最悪な展開になろうとしたとき、不意に救いの手が差し伸べられた。
「皆、静まりなさい!」
へ? ナ、ナイア?
「……ナイア殿……」
「そのように両者で争うのでしたら、ワタクシが指揮を執りますわ」
「!? ……はぁ……ナイア殿、冗談も時と場合によりますぞ。敵軍であったフィリツの娘という立場をお忘れか?」
「左様です。命があるだけマシと思って、新天地で土いじりでもしていた方が身の為ですぞ」
ナイアを嘲笑すると、その一派は揃って笑った。明らかにナイアを辱しめている。
「……≪月よ≫」
ヴヴン!
「ぐおっ!?」「がっ!?」「ぎゃあ!」
「か、身体が重い……!?」
ナイアを嘲笑していた連中は、揃って地面に這いつくばった。
「黙りなさい、下賤な者共よ。ワタクシはもはや逆賊のフィリツの娘ではありません」
「ぐぅぅ……な、何……だと!?」
「ワタクシはナイア。月の魔女、ナイア・ルナティクスですわ」
「ル、ルナティクスだと!?」
「ま、まさか……月の魔女が存在したというのか!?」
「な、何を言っている? ナイア殿が月の魔女だという証拠は、どこにもないではないか」
「た、確かに。そのような事、何とでも言える」
証拠かぁ……何かあるかな?
「ありますわよ。ワタクシが月の魔女である証拠は……天に」
天?
「月よ月夜に月見頃。月並みに踊れや……≪真月≫!」
……ィィィイイイン!
「て、天だと………な、何ぃ!?」
「ま、満月……! しかも三つの月が同時にだと!?」
ああ、そうか。こいつらは前の戦闘に参加してなかったヤツらか。
「今は下弦の月でしょう? それが突然満月になるなど、月魔術意外にあり得まして?」
「そ、それは……」
「で、では、先日の戦いで起きた『新月の奇跡』も……」
「ワタクシが起こした事ですわ……さて、まだワタクシを疑う者は居りまして?」
さっきまでの勢いはどこに行ったのやら。やたら威勢のよかった連中は全員膝をつき、ナイアに向かって頭を垂れた。
「へ? ナイアってそんなに偉いの?」
私は顔見知りの兵士に聞いた。
「この大陸では、月の魔女の逸話は有名です。何せ大陸を滅ぼすほどの力を持ってますからね、どの国の王族も『月の魔女が現れた場合は、王族の待遇を持ってもてなすように』という口伝が残っているくらいです」
……なーるほど。だからナイアは自ら月の魔女だと名乗って、事態の鎮静化に動いたのね。
「それから現皇帝を始め、始まりの団の皆さんはワタクシの大切な友人です。それに見合った待遇をしてくださいまし」
「「「は、ははぁー!」」」
「それで。ワタクシを罪人の娘と罵ってくださった方々は……何方でしたかしら?」
「「「…………」」」
「……まあいいでしょう。先程騒いでいた方々全員と見なし、次回の戦いでは最前線で奮闘していただきましょう」
うわあ、前線送りか。ほとんど死刑宣告じゃない。
「そ、そんな!」
「我々が!?」
「そうですわ。あ、言い忘れましたが前線送りは貴方達だけです。身軽な状態で個々の武勇を発揮していただきます」
……つまり、部下を誰も連れていってはいけない、一人だけで最前線へ……と? 討死確定ね。
「な……!」
「貴方達と話す事は何もありません。もし異論があるのでしたら、ワタクシが全力でお相手してあげますわよ?」
「! ……い、いえ。ご命令に従います……」
「そうですか。また生きてお会いできる事を楽しみにしております」
……絶望を顔に浮かべた連中は、スゴスゴと引き下がっていった。本当に最前線に立つか、夜のうちに逃げ出すかは、個人個人の判断かな。
「……ナイア、とっってもありがたかったけど……フランさん達はいいの?」
「そのフランから『好きなように生きてください』と言われましたの」
あ、そうなの。
「ワタクシは父や民衆に見放された瞬間から、貴族としての誇りと責務は捨てました。そして月の魔女となって自由の身になった以上、ワタクシはワタクシの為に生きていきたいのです。この広い世界を見てみたいのです」
「……」
「そして……それは初めての友達といえる、サーチ達と共に成したいと思うのです。ですからサーチ、どうかワタクシを」
「賛成です」
「賛成と思われ」
「私も異議なし。全会一致でナイア・ルナティクスの始まりの団加入が決定しました」
「……!」
「……というわけで。ようこそ、始まりの団へ!」
「これからよろしくお願いいたします」
「よろしくでござーる」
「! …………は、はい! よろしくお願いいたしますわ!」
こうして。
私達に新しい仲間が増えました。
「……私……忘れられてますよね……びえええええええっ!!」
……エイミアを思い出したのは、翌日でした。ごめんなさい。
閑話をはさんで新章です。




