第二十話 ていうか、またもやアントワナの策略!
人狼達の反応は様々だった。
「いつか、いつか殺してやるからな……!」
大半はこんな感じ。町を占領された上に力を封印されたのだから、恨むのは当然だろう。
一方、少数派の反応としては。
「いやぁ〜、私の負けでございます。これを献上致しますので、どうか私だけでも封印を解いていただけませんか?」
とにかく下手に出る者。賄賂を持ってきたヤツは、その場で取り押さえて逮捕となった。
「も、もうダメ……もうダメだ……ブツブツ」
精神的におかしくなっちゃうヤツ。こうなっちゃうと、魔術でも治しようがないそうだ。
だけど、ホントに一握りだけど。
「ありがとうございました。これで私達家族はこの町を出ていけます」
「いつ見つかるか、それだけが恐怖でした……」
「父ちゃん、母ちゃん。オレ、もう隠さなくていいんだよね!」
家族に『出来損ない』がいることを必死に隠し、守り抜いていた人達がいたのだ。見つかれば自分達の命も危ないことをわかっていながら、だ。
「そうだぞ、みーんな『出来損ない』になっちゃったんだから、隠す必要なんてないんだぞ!」
「やったー! みんな一緒なんだね!」
この家族は他の国へ移住し、普通の開拓民として新たな人生をスタートさせるそうだ。
「この町に未練はないの?」
「未練がないと言えば嘘になりますが……この町で子供を育てたいとは思えなくて」
……確かに。周りは敵ばかり、という環境だったろうし、『出来損ない』に対する風当たりはしばらく変わらないだろうし。
「ならエリーミャ様の元へ一緒に行ったら?」
「……よろしいのでしょうか……」
フランさんに話してみたところ、大歓迎だそうだ。どうやらこの家族、フランさんとはもともと交流があったらしい。
「最悪見つかった場合、子供を預かってもらう段取りでした」
相当な覚悟の上で家族を守ってきたんだろうな。その尊き思いに敬礼。
……そして……ナイアの父親、フィリツは……。
「……私にはこの町を治める責務がある。例え力を無くしたとしても」
「お父様……」
「お前が勝ったのだ。お前が治めても良いのだぞ?」
「お断りします。と言うより、こちらから願い下げですわ」
「……だろうな。だったらお前は勘当だ。好きなところへ行って野垂れ死ぬがいい」
「ありがとうございます。この町と共にお父様が朽ちていく事をお祈りいたします」
……結局袂を別つことになったそうだ。ま、当然っちゃ当然だけどね。
「でもホントにこれでいいの?」
「いいのですわ。あの情けない顔を見たら、殺す気も失せました。それに……月の魔女になった時から、過去の拘りは捨てました故」
父親への愛情はカケラもないらしい。これは離れたほうがお互いのためだわな。
そんなこんなで事後処理も滞りなく進んでいき、数日内には出発できそうになった頃。その凶報は新大陸からもたらされた。
「リファリス様! リファリス様あああああ!」
エリザが血相を変えて部屋に飛び込んできた。談笑していた私とリファリスはビックリだ。
「な、何? どうしたの。何があったの?」
「リ、リファリス様。一大事でございます! 本国が攻撃されている模様です!」
「!! ……まさか、例の貴族が?」
「はい。何十匹もの大王炎亀を使役しているそうで、苦戦を強いられていると」
「……クソアントワナ……! あの貴族と手を結んだわね……!」
「どう致しますか?」
「どうって……戻るしかないじゃない! さーちゃん!」
「わかってる。ゴールドサンから対大王炎亀用の大砲も届き始めてるから、できるだけリファリスに渡すね」
「ありがと」
ていうか、お金払ったのはリファリスだからね? 本来はあんたのモノだからね?
「それと……途中で脱落しちゃうけど」
「仕方ないわよ。こっちは私達でがんばるから、気にしないで」
こうしてリファリスは緊急帰国することになった。念話水晶でソレイユを呼び出し、リファリスの送迎を頼み込む。
『構わないけどさ……アタシを便利屋か何かと思ってない?』
「え〜? 思ってないよ〜?」
『……おもいっきり目が泳いでるじゃない。まあいいわ。そのうち身体で払ってもらうんだから!』
「……私はソレイユを恋愛対象として見てないわよ?」
『わかってるわよっ!』
ソレイユが快く引き受けてくれたので、リファリスはその日のうちに出立することになった。いやはや、ドタバタな展開。
「連合王国軍には『リファリスは別行動中』って言っておく?」
「必要ないわ。どうせアントワナが『リファリスが逃げた』という情報を流すだろうから」
「なら対抗してアントワナの悪口をいっっぱい流しておくわ」
「お願い。それよりさーちゃん、何かアントワナと因縁があるみたいだけど、どうか冷静さだけは失わないようにね?」
「わかってる。その言葉はリファリスにそっくりお返しするわ」
「……そうね、気を付ける」
……あれ? しんみりしだした? うーん、私とリファリスはこんな雰囲気になる間柄ではないんだけどなぁ。
「リファリス様」
「あ、エリザ。あんたも準備できたのね」
リファリスの副官を務めるエリザも一緒に帰ることになった。そして。
「わ、私も準備万端です!」
エカテルもリファリス組に加わることになった。
「ホントにいいの、エカテル?」
「はい。どのみちリファリス様にお仕えするつもりでしたから、それが少し早くなっただけの事です」
「……エイミアには?」
「先程。泣いておられましたが、快く送り出していただきました」
「そう……ホントにいいのね?」
「はい。エイミア様にはすでに心に決めた方がいらっしゃるようですし、その方の側にいた方がお幸せそうですし……」
……なぜ私をチラチラ見る。
「それに私、新たな目標も発見しましたから」
そう言ってエリザを見つめるエカテル。
「……ま、がんばんなさい」
……たぶんムリだと思うけど。
「はい。サーチさんも……お元気で」
「…………命令、エカテル!」
「は、はい!」
「リファリスに絶対服従すること! そして………絶対にまた私達と再会すること。以上、この二つは絶対に守りなさい!」
「……はい!」
サヨナラのハグをしてエカテルから離れる。するとエリザが私の前に来た。
「……サーチん、ウチもこれでお別れや」
「お別れって……何言ってんのよ」
「は?」
「あんた達を始まりの団から外した覚えは無いわよ。また必ず戻ってきなさい」
「……せやな」
「だから……死ぬんじゃないわよ」
「サーチんもな」
ギュ……みしみし
……ち、力入れすぎだっての。痛い痛い!
悲鳴をあげる寸前でエリザは離れた。だけど……絶対アザになるわ、手の痕。
「じゃね、さーちゃん」
「じゃね、リファ姉」
「……あー! 今リファ姉って言った! リファ姉って言ったよね!」
「言ったわよ。だから何だってのよ」
「うふふー、さーちゃんがデレたわ。かーわいいおぐぶぉ!?」
「さっさといけっての!」
……こうして、リファリス、エリザ、エカテルの三人が始まりの団から一時的に離脱し、そして……ナイアがフランさん達と共に旅立つ日も近づいていた。
明日はナイアとの別れ?




