第十九話 ていうか、人狼達の後始末。ナイアに過酷な仕打ちをしてきたんだから、相応の罰を受けてもらうんですよね!
二度目の人狼の町への訪問は、明らかに歓迎ムードではなかった。なんせ私達の先頭には、ロープでグルグル巻きにされたフィリツがいるから。
「フィ、フィリツ様!? ま、まさか……」
「……何も言うな。とにかく通してくれ」
「……は、はい……」
門番は自分達の敗北を悟ったらしく、悔しげな視線を私達にぶつけてきた。
「……ナイア、大丈夫?」
「ええ。『ざまあみろ』と考えられる程に落ちぶれてはいませんが……何故か悪い気分ではありませんわ」
「そう。それで、町へ戻ってどうするの?」
フィリツへの処分を言い渡したあと、町への帰還を望んだのはナイアだった。
「どうしても連れていきたい子達がいるんです。このまま町に残しても、良い事は何もありません故」
ナイアに案内されて着いたのは、ちょっと広めの一戸建てだった。門にはナイアの名前が刻まれている。
「……ここは?」
「唯一ワタクシの願いが聞き届けられ、設立する事ができた学校ですわ。生徒や教員は全て『出来損ない』です」
……なるほど。
「あー、ナイア様だー…………あれ?」
「ナイア様……だよね?」
「かみのけとめのいろがちがうー?」
ちっちゃい子達が騒ぎ出す中、私達より年上であろう女性が飛び出してきた。
「ナ、ナイア様!? そのお姿は一体……」
「ただいまですわ、フラン。しばらく留守にしててごめんなさいね」
「いえ、滅相もない……そ、それより。どうなされたのですか!?」
「長い話になりますから、それは後で。それよりも」
ドン! ズザァ
「ぐぅっ!」
「え!? フィリツ……様?」
「フラン、ワタクシは勝ったのよ」
「勝ったって……まさか人狼を!?」
「そう。もうワタクシ達が見下される事はありませんわ。ワタクシ達は……勝ったんですのよ!」
しばらく沈黙したあと……。
「「やったあああ!」」
最初にナイアの言葉を理解した子達が歓声をあげた。それに釣られて、小さい子達も喜び飛び跳ねる。
「ナ、ナイア様……よ、よくぞ……私達の願いを……!」
「ええ……ええ! ワタクシ達が……勝ったんですのよ……!」
ナイアにフランと呼ばれた女性は、涙を流しながらナイアを抱き締めた。
「……フラン……」
ナイアも同様にして返す。目に光るモノが見えたのは、気のせいではないと思う。
ナイアの説明によって、学校にいた子達全員の旅の準備が始まった。
「……みんな、嫌がらないのね」
「それは、まあ……どの子も辛酸を舐めてきてますから」
全く未練はないってか。
「この子達の親は?」
「皆捨て子ですわ。あるいは殺される寸前だった子です」
「殺されるって……そこまでするのですか!?」
「ええ。この町ではそれを黙認していたのです」
「っ……!!」
ヴィーは一瞬だけ顔を歪めるけど、すぐに笑顔に戻り。
「……フランさん、私にも手伝える事はありますか?」
「あ、ありがとうございます! よろしいのですか?」
「はい。何でも言ってください」
ヴィーはフランさんの指示の元、重い荷物の運搬を始めた。
「……ヴィーさん……」
「ヴィーもいろいろあったみたいだから……好きなようにさせてあげて」
「……わかりましたわ。ご厚意に甘えさせていただきます」
ヴィーに釣られてリジーとエリザも手伝い始め、結局みんなで引っ越しの準備を進めた。
「あ、あたしも……」
「「「駄目です!」」」
途中で参加しようとしたリファリスはエリザ、ヴィー、エカテルの三人に全力で阻まれ、しばらく地面に『の』の字を書いていたのはご愛敬。
「さあ、これで準備万端ですわ」
最後の荷物を魔法の袋に放り込み、ナイアは一息ついた。
「でもこれからどうするの? 当てはあるの?」
「エリーミャ様が受け入れを承諾してくださいましたので、そちらでお世話になろうかと」
……………………?
「サーチ姉、エイミア姉のお婆さん」
「あ……ああ、そうね! そうよね! 私も今言おうと思ってたのよ!」
「絶対に忘れてたと思われうぐぅっふぉ!?」
「エ、エリーミャさんなら安心だわね! オホホホホ!」
「あ、あの。リジーさんは大丈夫ですの?」
「いつもの事ですから」
「は、はあ……」
そう言ってリジーの治療を始めるヴィー。これもいつもの事だ。
「さて……後は人狼達の処分だな」
町に住んでいる人狼達はナイアの命令によって徐々に集まってきている。どいつもこいつも抵抗できない悔しさに歯ぎしりしながら、目を血走らせていた。
「明らかに私達には敵意しか向けてこないわね」
「サーチ姉、いっそ全員に徹底的に恥をかかせては?」
「復活早いな! ていうか、何するつもり?」
「ナイア姉、私の言葉を復唱」
「ナ、ナイア姉?」
「ほら早く」
「わ、わかりましたわ」
「では……全員三回回ってワン!」
「全員三回回ってワン……って、ええ!?」
ぐるぐるぐる
「「「……ワン!」」」
命令通り行動してから、人狼達は屈辱のあまり地団駄を踏んだ。
「チクショオオオ!」
「殺す! ぶっ殺す!」
……なんかますます収拾がつかなくなったような……。
「あのね、リジー。それよりももっと簡単な方法があるでしょ」
一冊の本を取り出し、ある月魔術が載っているページをナイアに示す。
「これを人狼にかけてやって」
「……これは……一体何の為に?」
「いいからいいから」
「はあ……」
ナイアは首を傾げながらも、詠唱を始める。
「月よ月夜に月見頃、月並みに踊れや。月の魔術を無に還せ。≪月隠れ≫」
……ィィィイイイン!
ナイアから発せられた光が、人狼達を包み込んだ。
「……な、何だ?」
「何もなっていないじゃないか」
ザワザワとする人狼達に、私は止めの一言を放った。
「ナイアの月魔術によって、変身能力は封印されました。つまりあんた達は……ただの人です」
「な……何だとおおおお!?」
「う、嘘だ!」
「……ぐっ! ホ、ホントに変身できねぇ!」
「そ、そんなあ!」
「ど、どういう事ですの?」
「人狼達は月から変身能力を授かったんでしょ? 要は月魔術と同じことじゃない。それに月魔術の効果を無効にする魔術をかけたら……」
「……成程。変身できなくなりますわね」
役に立たない魔術だと思って仕舞ってたけど、意外な場面で役に立ったもんだわ。
「そ、そんな……俺達、これからどうすれば……」
「変身できない……できなあああい!」
「うわああああ! 変身能力を返せえええ!」
あらら。プチパニック。
「どうする、ナイア。これで溜飲が下がったのなら、許してあげてもいいんじゃない?」
変身能力を失って泣き叫ぶ元同胞を見回して、ナイアは苦笑いした。
「そうですわね。変身という強力な力を失ったわけですし、大変な未来が待ち受けているでしょうし……」
そう呟いてナイアはフィリツの前に立った。
「お父様……貴方はこれから、力を失った民衆を背負って生きなさい」
「貴様……貴様ぁぁ! 満足か!? 地に伏して絶望する父の姿を見れて、それで満足なのかぁぁ!!」
父親の絶叫に少し困った顔をしたナイアは、少し笑ってから。
「はい、満足ですわ」
と言い切った。それを聞いたフィリツはガクリと項垂れた。
リアルに月に代わってお仕置きよ!




