第十七話 ていうか、エリザが耐えている間に、チクチクと人狼達を叩く。
アウ? クゥゥン?
ガリガリガリ
「結界の効果は人狼のみが対象の、物理的な干渉への防御。今の私は最高値に近い防御力だから、ちょっとやそっとじゃ破れません」
そう言って現れたエリザは、ミスリル製のプレートアーマーにフルフェイスメット、両手と背中に巨大なタワーシールドという装い。そりゃ確かに防御力も最高値だわな。
「……ねえ、エリザ」
「何ですか、サーチ様」
「……暑くない?」
「………………暑いに決まっとるやろ」
あ、素のエリザが出た。リファリスの前なのに珍しい。
ガリガリガリ
ドオン! ドオン!
グルルルル……
「あらら、かなり気が立ってると思われ」
結界の外で荒れる人狼を見渡して、リジーがニヤッと笑う。そして。
「ここまでおいで。ワンコちゃん、ペンペン♪」
ウガアアアアアア!!
ガリガリガリガリガリィ!!
ズドズドドスゥゥン!
「うぐぐぅ! だ、誰かあの馬鹿を止めてぃや!」
「バカリジィィィィィィ!!」
ズドゴッ!
「ぎゃひん!」
ライトニングソーサラー鳩尾バージョンが炸裂し、リジーは「く」の字の状態で吹っ飛んだ。
「エリザに余計な負担をかけるなっての!」
「ブクブクブク……」
「……サーチ……失神してますよ……」
し、しまった。加減するの忘れてた。
「ご、ごめん、ヴィー。一応戦力だから……」
「はいはい、回復させますよ」
ヴィーの≪回復≫によって、すぐに意識を回復するリジー。私を見るなり真っ青になって頭を下げ、再び結界間近へ走っていった。
「余計なことをすんじゃないわよー!」
「わかってるー! もう蹴られたくないと思われー!」
そう言って介錯の妖刀を抜き放つと。
ズバッ!
ギャイーン!
結界に取りついていた人狼を斬り捨て……ってええええ!?
「リ、リジー!? あんた、結界も一緒に斬っちゃったの!?」
「違う違う。サーチ姉、よく見てて」
ゴオオオ!
ギャンギャン!
リジーが≪火炎放射≫を放つと、結界をすり抜けて人狼にのみ当たった。
ウオオオン!
ドンドンドン!
無傷の連中が反撃してくるけど……結界に阻まれている。や、破られてない?
「サーチ姉、この結界は人狼にのみ反応する。つまり私達は攻撃し放題」
リジーは再び妖刀を振るい、結界間近にいた人狼を斬り捨てた。
「ほら。だから攻撃して人狼を遠ざけた方が、エリザの負担減と思われ」
な、なるほど。確かに。
「そういう事でしたら遠慮はいりませんね!」
ヴィーが聖術を連発する。それに倣うかのように弓兵も攻撃を開始した。
ズドオオオン!
ヒュンヒュン! ビシビシ!
だけど真正面から直撃を受けてもなお、倒れる者はいなかった。
「……あまり効果はありませんね。流石、魔術耐性が高いだけはあります」
「矢もあまり効果がありませんな」
ヴィーも弓兵の隊長も人狼の頑丈さにはため息まじりだ。
「仕方ない……お手本を見せてあげるわ!」
警戒して距離を取っていた人狼の喉元に、投げナイフを投てきする。
ザクッ!
ギャウ!? ゴボ……
「……狙うならここ、ね。わかった?」
「「「無茶言うな!!」」」
……ムチャかな?
「……そんなことができるのは、≪急所攻撃≫持ちのサーチくらいですからね?」
あ、そっか。
「なら長柄の武器で攻撃したほうがいいわね」
結果、槍を持った部隊が前に出て、近づいてくる人狼を突いて遠ざける作戦になった。
「えいえい」
ドスドスッ
ギャイーン!
リジーは呪われコレクションの一つと思われる槍を振るい、次々と人狼を倒していく。最近目立ってなかったぶん、必死に挽回中の模様。
「≪偽物≫! くらえ、鋼のムチ!」
槍は苦手なのでムチを作って振り回す。重さがあるので、適当に振って当てるだけでも威力はある。
バシィィン!
ギャン!
ビシィィ!
ギャウン!
……思わず「女王様とお呼び!」と言いたくなるのは何故だろう。
アォォォォォォォォォォォン!!
……ズドオオオン!
「ぐぅぅ!?」
「な、何!? どうしたの!?」
「サーチ姉! 一部の人狼が集団で集中攻撃してる!」
ちぃ! 向こうにも頭の回るヤツがいたか!
「エリザ、あの集中攻撃には耐えられる!?」
「一箇所なら大丈夫や! ただ多方面で同時にやられると……!」
耐え切れない、か。
「サーチ! 中央にいる銀狼が指示を出しています!」
ヴィーの指摘した狼は周りよりも一回り大きい。ただ人狼ではなさそうだけど……?
「……お父様……」
お父様!?
「あれは人狼を統率する者、銀背狼です」
ゴリラかよ!
「つまりあれがいる限り、人狼は集団として機能するわけね!?」
「ある程度は。やはり本能剥き出しには変わりありませんが」
「なら銀背狼を集中攻撃!」
私の声に反応してヴィーの聖術が、リジーと弓兵の矢が一気に放たれる。
が。
アォォォン!!
ズバシィ!
「は、弾かれた!?」
「気を付けてください! お父様は≪王者の叫び≫という遠吠えを出して攻撃できますわ!」
遠吠えによる超音波攻撃か!
「……ていうか、ナイア? 詠唱はもういいの?」
「ええ。もう終わってますわ」
「……………………なら早く魔術を発動させなさい!」
「ああ、忘れてましたわ……≪真月・満の欠け≫」
……ィィィイイイン!
アォォォ…………
「……くっ! な、何だ!? 何が起きた!」
「フィ、フィリツ様! 満月が! 満月が消えています!」
「な、何故だ!?」
「今が好機! 一気に叩き潰すぞ!」
「「「おおっ!」」」
周りを取り囲んでいたリファリス軍が一斉に襲いかかり、変身が解けた人狼達を血祭りにあげていく。
「うぎゃあ!」
「ぐああ!」
「ま、待って! 命だけは……きゃああ!」
男だろうが女だろうが関係無し。人狼の恐怖を知っているだけに、一切容赦はなかった。人狼達も善戦するものの、やはり数に圧されていく。
やがて。
「ぐぶ……フィリツ様、どうかご無事で……」
最後に残ったのは白髪混じりの巨漢、フィリツだった。
「……お父様」
「!? ……お前は……ナイアか?」
「はい……まさかこのような形で再会するとは……」
「……ふふ……皮肉なモノだな。血筋を第一に考えて袂を分かったのに、一番残ってほしかった我々の方が見下される立場となるとは……」
「……どういうこと?」
「……ワタクシが死亡する事は……すでに決定事項だったのですわ」
……やっぱりか。
「ナイア、あんたは何らかの工作を行うために、私達の軍に参加したのね」
「……そうですわ」
「そして……真の目的は、父親への復讐だったのね」
「……そうですわ。ワタクシ一人では、どう足掻いても人狼には勝てませんもの」
「ど、どういう事だ!? ナイア、何故お前は私達を裏切ったのだ!」
「何故!? 何故ですって!?」
ナイアはフィリツを睨みつける。
「貴方は一度でもワタクシを娘として見てくれましたか!? 他の者達も、一度でも同胞として扱ってくれましたか!?」
「な、何を! 出来損ないが刃向かうか!」
「問答無用! 貴方を親だと思った事は一度もありませんし、母やワタクシに対する仕打ちを忘れた事はありませんよ!」
ナイアはホウキを振り上げる。
「貴方に弄ばれて死んだ母の恨み、ここで晴らして「待って!」……リ、リファリス様!?」
フィリツとナイアの間に割り込んだのは……何とリファリスだった。
ナイア、なかなかダークな過去があります。




