第九話 ていうか、私とナイアだけの会談。その場でナイアは、壮絶な覚悟を語る……。
私……監禁されました。
「サーチ、今すごく失礼な事を考えてなくて?」
い、いえ。ていうか、読心術でも使えるの?
「顔に出てましてよ? ご友人に指摘される事は?」
よくよくございます。
「……ていうか、私を交渉の場に入れないのは納得だけど、それにナイアが付き合う必要はないんじゃない?」
「何故です? 我が一族の事情によって、貴女を交渉から外させてしまったのです。ならそれに等しい対価を支払うべきではなくて?」
「……それがナイアの欠席ってこと? 対価としては大きすぎるんじゃ?」
「それはそちらも同じでしょう? 貴女を外してほしい、と言われた時のお仲間の顔、全員が沈痛でしたわよ?」
それは私じゃなくて、ビキニアーマー的問題よ。
「……まあいいわ。で、ナイアはどうするの?」
「わたくしですか? この部屋は第二の交渉の場となりますので、わたくしはそれに全力投球するまでです」
おいおい、ちょっと待て。
「第二の交渉の場って……まさメンツは、私とナイアの二人だけ!?」
「その通りですが」
「わ、私にそんな重大な役回りを押しつけないでくれる!?」
「? ……何故です? サーチは護衛としてではなく、交渉要員の一人としてここにいらしたのではなくて?」
「そ、そうだけど……」
「でしたら逆に絶好のチャンスですわよ? 百戦錬磨の父ではなく、尻の青い小娘が相手の方が交渉しやすくてよ?」
「ちょーっと待ってよ。いくら私でも、あんたにナメてかかるようなマネをする気はないわよ?」
「あら、買い被りですわ」
「いやいや、あんたこそ私を過大評価してるわよ」
「「…………」」
……やっぱりナイア、相当頭が切れるわ。なら、流れに逆らうのは不可能か。
「……ふう。わかったわ。今回はナイアの誘いに乗るわ。だけど、そう簡単にはあんたの策には乗らないわよ?」
「そうですか。ならば期待させていただきます」
さてさて……最初から圧倒的に不利よね、私。
「それじゃ仕切り直して、と。まずは私からの提案……っていうか、お願い……ていうか、要求?」
「……最初にそれを言ってしまっては、元も子も無いですわよ?」
た、確かに。
「お、おほん! ……と、とにかく私から。私達連合王国側の依頼は、ラインミリオフ神聖帝国を見限って私達に味方してほしい……ってとこかしら?」
「サーチ、あまり難しく考えず、簡単な言葉にまとめた方が良いですわよ?」
「そ、そう? なら……こっち側に味方して」
「はい、わかりました」
「そうよね、そんなに簡単には……………え?」
「わかりました、と申し上げましたわ」
「え………ええええええええええ!?」
そんなにあっさりと!?
「今現在の戦況を考えれば、当然の判断だと思いますわよ?」
「そ、そうなの?」
「同盟を結ぶ際にまず考慮しなければならないのは、どちら側に分があるか、です。我が一族が味方して戦況をひっくり返せるならば不利な陣営に味方しますが、敗戦続きで首都まで陥落させられては、勝敗は必然的でしょう」
「……今何気に不利な陣営に味方する可能性に言及してたわね? それって恩を売ることで自分達の立場を強固にするってこと?」
「その通りですわ。何より一番に考えるべきは、自身が治める領の民の安寧です。その為に多少の毒を食らうなど、結果を考えれば些細な事です」
「……あはは……些細なことね……」
さすがは事実上の領主。手段を選ばない怖さはあるけど、ちゃんと守るべきモノは心得ているわね。
「……また何か失礼な事を考えてましたね?」
「いーえ。今回はナイアを誉めてたのよ」
「でしたら先程はわたくしに対するマイナスイメージを抱いていたのですね?」
ぐっ! し、しまった!
「うぅ…………ここは甘いモノでお目こぼしを!」
「……お汁粉で我慢しましょう」
おお、意外と和風?
「……ケーキとかは?」
「甘ければ大丈夫です。甘味は女の子の心の拠り所ですから」
おおお! 意外と話がわかる!?
「ふふ……アンコはいける?」
「大好物です」
おおおお! 心の友よ!
「そうよね、やっぱり女の子はアンコが好きよね!」
「やはりつぶあんは最高ですから」
…………………………はい?
「な、何言ってんのよ。こしあんに決まってるじゃない」
「…………はい?」
……バチバチィ!
「……や、止めましょう、この話題は」
「そ、そうね。永遠に交わることのないテーマだしね……」
……タケノコとキノコ並みに不毛な争いになるとこだったわ。
「そ、それより話を戻しましょ。ナイアは私達に味方してくれるつもりなのね?」
「ええ。わたくしは」
「……つまり、あんたのお父さんは違う意見……ってわけ?」
「はい。父は忠誠心に溢れるコッテコテの保守派ですので、絶対に帝国を裏切らないでしょう」
「あ、その点は大丈夫よ。皇帝は私達に憑いてるから」
「……憑いている?」
「あ、違う違う。とにかく私達の仲間だから」
「……それでも父は是としないでしょう。保守派は『皇帝陛下が拐われた』と騒いでいる以上、陛下を取り戻す為の戦いはしても、貴女方に肩入れする事は無いと思います」
「……そっか……じゃあナイアはどうするの?」
ナイアは少し表情を曇らせてから、私をまっすぐに見つめた。
「父がアントワナに味方するなら、それは仕方ないです」
「……じゃあナイアもアントワナに?」
「いえ。先程も申し上げた通り、わたくしは貴女方に味方します」
「……ま、まさか、分裂するつもり!?」
「家を守る為です。どちらかが生き残れば、再びこの地を治める事が出来ます」
……真田親子と同じ手を使うっての……!?
「これは私達親子の間で話し合って決めた事。父も承知しております」
……止められない……か。
「……わかったわ。私から話は通しておく」
「感謝致しますわ。それと、わたくしが味方させていただく上で、一つ条件がございます」
「フィリツ領の民の安全保障……でしょ?」
「その通りです。どうか、どうか、よろしくお願い致します」
「わかったわ」
……たく。どこかの世界の政治家達に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわね。
ナイアとの会話通り、フィリツとリファリスの交渉は決裂。敵対することが決定的となった。ただ交渉の場で相手を害しようとしなかった辺りは、お互いに清廉だっと言える。
「それじゃ、娘さんはあたし達に合流すると?」
「ええ。どちらが勝っても血筋を残すための苦肉の策みたいよ」
それを聞いたヴィーが難しい顔をする。
「……モンスターの私には理解しかねます。何故そこまでして、血筋を守る事に固執するのでしょうか?」
「……ま、貴族なんてそんなもんよ。ナイアの場合は血筋よりも大事なモノがわかってるみたいだから、普通の貴族と同列に考えない方がいいわね」
そんな会話をしていると、兵士が駆け込んできた。
「〝血塗れの淑女〟様、申し上げます。ただいまナイア・フィリツと名乗る女性が参られました」
お、来たわね。
「丁重にお連れしなさい。あ、共に来た者達も同様にね」
「……それが……その……」
……?
「あ、あんた一人で来てどうするのよ!?」
何とナイア、誰も連れず、たった一人でやってきた。
「し、仕方ありませんわ! 誰一人としてわたくしの意見に賛成しなかったのですから!」
…………つまり。
「ボッチかよ」
「そ、それは言わないでくださいまし!」
ナイア、ボッチ。




