第七話 ていうか、リファリス達が重要な会議をしている間、私は温泉で気の合うお嬢様と友達になる♪
ヴィーの案がそのまま採用され、私も交渉の席につく予定となった。
え? 何で予定なんだって? だってほら、一応警備の名目だから「人払いを!」とか要求されたら、私は応じないとマズいわけだし。
「言い方がサーチには悪くて申し訳ないのですが、今回はサーチがいるだけで、私達には有利な展開になり得ますから」
「……ま、私が提案したことだったからね。そんなのは気にしないわよ……ていうか、はい」
リファリスに書類の束を渡す。
「これは?」
「読んでみればわかるけど、交渉の材料として使えると思うわよ」
パラパラと書類に目を通していたリファリスは。
「……ビキニアーマー案より、この書類を使っての脅迫の方が、よっぽど現実的に思えるけど?」
…………かもしんない。
「よし、ヴィー。この書類を使って、会談のシミュレーションをしてみよ?」
「わかりました」
……こうなったら、私がいる必要はないわね。
「だったら私は失礼しま〜す」
「え? さーちゃんも居ればいいじゃない?」
「護衛の私が口を出すなんてあり得ないでしょ? だったら私は立ってるだけの役だから、リファリス達のシミュレーションに参加する意味がないじゃない」
「そう言わずに、サーチ様も参加していただけませんか? シミュレーションをするのなら、敵役も必要ですし」
敵役……ね。
「……わかったわ。なら情報で得たフィリツとかいう貴族の印象を加味して、私なりに演じてみるわ」
「協力を感謝致します、サーチ様」
……とは言ったモノの、私の知ってる限りだと……。
「……それでは交渉を開始させていただきます。フィリツ殿、よろしくお願いいたします」
「ビ、ビキニアーマー……ハアハア」
「…………で、では、私達がこの場を設けさせていただきました理由について……」
「ビキニアーマー……ハアハア」
「……あの、さーちゃん? もう少し真面目にやってくんないかな?」
「いや、館の侍女達の話だと、リアルにこんな感じらしいのよ」
「………………まあいいわ。なら少し話を飛ばして、書類をフィリツに指し示した時のシミュレーションね」
「わかったわ」
「ならいくわよ………ヴィー、例の書類を」
「畏まりました」
バサッ
「この書類が何なのかわかりますよね、フィリツ殿?」
「そ、それは……!」
「これが公になっては、貴方は立場上マズいのではないですか?」
「く、くぅぅ…………ビキニアーマーさいこぉぉぉぉぉ!」
「だーかーらー! さーちゃん、真面目にやってよ!」
「え、だって、館の侍女達が『追い詰められたら現実逃避する』って言ってたから」
「……もうやだ。フィリツって何なのよ……単なる変態じゃない」
その通り、単なる変態です。
「さーちゃん、もういいわ。後はあたし達だけでシミュレーションする」
「え、いいの?」
「さーちゃんの情報通りだとすると、フィリツってヤツには特別な対策は必要なさそうだから、そんな変態君主を支える家臣達を対象としての、まともな会話をシミュレーションするわ」
「そうね。だったら私がいる必要はないってことか……なら私は温泉に行ってくるから♪」
ガラッ ピシャン
ダダダダ……
「……ヴィー、さーちゃんの言ってる事は信用できる?」
「サーチはいい加減な面もありますけど、依頼された事は完璧に遂行します。その辺りの事は、リファリス達もご存知では?」
「そう……なんだけどね……。エリザ、あなたが聞いた情報とは真逆なのね?」
「はい。私は街の方から聞いたのですが、フィリツ様は思慮深い有能な君主だ、と専らの評判のようでした」
「う〜ん……エリザの情報収集能力も確かなのよね……」
「リファリス様、私が側で見ていた限りでも、へヴィーナ様のご意見に賛同できます。サーチ様のお仕事は確かです」
「……なら……両方正しいと考えれば……」
「極端な二面性を持っているか……フィリツは二人いるか……ですよね……」
「……ふはぁ〜♪ マジでいいお湯だわ♪」
効能とかは見てないけど、疲れをとるには最高の温泉ね!
ガタッ スルスル
「……ん? 衣擦れの音? 誰か入ってきたみたいね」
気配からすると……若い女性か。
スタスタ……ガラッ
「あら……先客がいらしたのですね」
「ど〜も〜♪ とっってもいい湯加減ですよ〜♪」
「そうですか。ではごめんあそばせ」
チャプ……
「あら、本当に良い湯加減だこと」
ジャバ……バシャア
「ふう……では失礼致します」
……入り方から言葉遣いまで、全ての動きが洗練されてる。どこかの貴族のお嬢様かな。
「こちらへは旅行で?」
「いえ。わたくしはこの町の者ですのよ」
「へ? じゃあこの温泉にはよく?」
「いえ。色々と難しい立場故に、なかなか来る事も出来ませぬ」
やっぱり貴族か。普通は一般の人が入るような温泉には来ないからね。
「てことは、ここにくるのは気晴らし?」
「ええ。本来なら許される事ではありませぬが、この開放感は格別ですからね」
「わかるわかる! 室内の温泉も悪くないんだけどね、この露天風呂の開放感ってのは、何よりも最高なのよ!」
「あら、話のわかる方とお知り合いになれたようですね」
「そうね。ていうか、あんた……」
「……何か?」
ぷにっ
「いい胸ねぇ……おっきいし、形もいいし……」
「……貴女に言われると、嫌味にしか聞こえませんわよ?」
「形は自信あるけど、やっぱ大きさが今一つでさ。もうちょっとサイズが欲しいのよね〜」
「そうですか? わたくしは貴女くらいがちょうど良いのですが」
……うん、話も合う。
「……私はサーチ。始まりの団っていうパーティのリーダーをしてるの。あなたは?」
「わたくしはナイア。姓は……聞かないでいただけると……」
「別にいいわよ。私達は温泉を通じての友達。それでいいじゃない」
「そう……ですね。この際は割り切って考えましょう」
「そうそう。ねえ、ナイアって念話水晶持ってる?」
「ありますよ。ならば繋ぎましょうか?」
「そうしよそうしよ♪」
今でいう……メアド交換かな。
それから私達は一時間くらい温泉談義で盛り上がり、また念話する約束をして別れた。今までで最速の友情成立だったわ。
部屋に戻ると、ヴィーが待っていた。
「あら、もう会議は終わったの?」
「ええ。サーチはお風呂ですか」
「うん。いい湯加減だったわよ〜♪」
「私も入ってきますね…………ん?」
ヴィーは私の近くにくると、鼻をひくつかせた。
「クンクン……私の知らない女性の匂いがしますね」
怖っ!
「ナイアっていうお嬢様と一緒だったのよ。温泉友達になったわ」
「成程………浮気ではないですね」
「ん? 何か言った?」
「いえ。ではお風呂へいってきます」
……?
「……ただいま帰りました」
「ナイアお嬢様! どちらへ行かれていたのですか!?」
「……何かありましたか?」
「我が町に反乱軍の首魁が来ているのです。確か……リファリスとか」
「……いよいよですか……」
……ナイア・フィリツの名にかけて、この町を守りきってみせます。
よくある展開。




