第六話 ていうか、ハクミんと一緒に潜入するのだ!
「お城の詳しすぎる情報は手に入ったから、今から行くわよ」
「い、今からって……ちょっと近所へ買い物へ行く、くらいの乗り」
お、うまい例えね。
「そんなようなもんよ。ここまで詳しい情報があれば、ご近所での買い物レベルの話だわ」
「ねーねー、どうやってじょーほーをげっとしたの?」
「……教えてもいいけど、ドナタが夜寝られなくなっても知らないわよ?」
「え」
「それはね、白い髪をした女の人か、床を這いずりまわって……」
「ひえ……」
「『悪い子はいねえかあ!? 言う事を聞かない悪い子は』「うぐ………うわあああああああん! こわいよおおおお!」……ご、ごめん。冗談だからね?」
視線でリジーに助けを求めると「何やってんだか……」と呆れたように呟いていた。ごめんよう。
「ドナタ……『もしもし、赤○です。え、また言う事を聞かないんですか? ……チッ。今からそっちに行きま』「ぴぎゃああああああ! こわいよおおおお!」あ、あれ? いつもはうまくいくおぼおっ!」
「火に油を注いでどうするのよ! ていうか、何でアプリネタを知ってるのよ!」
結局リジーはドナタをあやすために残ることになり、私一人だけで潜入することになった。
「あ、そうだ。ハクミんを借りてくわよ」
チュチュウ!
町全体を見渡せる丘に登ってから、近衛兵がゲロッた情報を確認する。
「……うん、確かに城らしきモノはないわね」
……遠くに見えるラブホ以外は。灯りがたくさん見えるってことは、今日も繁盛しているのだろう。
「……ヴィーに知られたら『サーチ、一緒に行きましょう』って絶対に言われるわよね……」
一人呟きながら、情報通りの場所を確認し、そこへ向かった。
「……まさか警備隊の詰所が、貴族の屋敷の入口を兼ねているとは……」
近衛兵の話だと、警備隊詰所を通り抜けた先に門がある、とのことだった。丘から確認してみたが、確かに詰所奥に立派な屋敷があった。
「入口は警備隊が詰め、周りは壁でグルッと囲み、要所要所に見張り台を取り付ける。これだけ厳重な警備態勢なら、当然魔力的な罠も仕掛けられてるか……」
考えられる限りの最高レベルの警備ね。ふふふ、燃えるわ……。
「だけど私にはハクミんがいる。いろいろとお願いね?」
チュウ!
……よし、今回は最高の相棒がいる。楽勝ね。
第一関門、警備隊詰所。
ここをわざわざ正面突破するバカはいない。ていうか、そんなことしたら相手の警戒レベルを上げるだけ。
「ならどうするか。セオリー通りに天井裏へ」
チュチュウ!
ハクミんの案内で、天井裏に潜り込めそうな箇所を探し出し、どうにか潜入する。いやあ〜、こんなときはスリムな体型が役立つわ。
「……こんなときにつっかえる胸が欲しいんだけどね……」
チュチュウ?
「何でもない。先に進むわよ」
? ……チュウ!
ハクミんは途中で出会う普通のネズミとチュウチュウ会話しながら情報を集め、より安全な天井裏を進んでいく。いやはや……ネズミの情報網なんて、侵入するには最高よね。
チュチュ! チュチュチュチュウチュチュウ!
「うん。何て言ってるかサッパリだから、直接案内してくれる?」
さすがに長文をジェスチャーで理解するのはムリだ。
チュチュ!
チュチュチュウウウ!
な、何かネズミがいっぱい出てきたんですけど!?
チューチュ! チューチュ! チューチュ!
ネ、ネズミが一匹ずつ立って、棒切れを振って……………ああ! 誘導してるのか!
チューチュ! チューチュ! チューチュ!
「あ、ありがと。ありがと……」
よく天井裏に潜るからネズミには慣れてるけど……これだけズラッと並ばれると、慣れを通り越してしまうわね………ちょっと怖いかも。
チュチュ!
最後の一匹が示す場所には通気孔のフタがあって、灯りが見えていた。
「あ、ありがと〜」
チュチュチュ!!
ザザッ!
背後のネズミ達に手を振ると、一斉に敬礼をして応える。
チュチュウ!
ハクミんが偉そうに返答すると、ネズミ達は足並みを揃えて退場していった………って軍隊かよっ!
「……はぁぁ……たまにこの世界はファンタジーなんだってことを忘れてるわ……」
チュチュ?
「何でもないわ。ここが安全だって言いたいのね?」
チュウ!
「なら降りましょう」
慎重にフタを外し、私は音もなく室内に降り立った。
ちょうど窓の近くで、向こう側に立派な館が見える。あれが目的地である、フィリツとかいう貴族の館だ。
「……よし、ここまで来れば情報はバッチリ。まずは館の台所にいくわよ」
私は窓を越えて、館の裏庭へと回り込んだ。
「この辺りを巡回するのは、まだあとのはずだから……時間はあるわね」
いやあ、さすがは勤勉な近衛兵。情報も正確だわ。そのまま台所に潜り込み、廊下に出る……っとっと。
「危ない危ない。侍女さん達がダベってるわ」
どうやら雇い主であるフィリツに対する愚痴らしい。これは意外と優良情報が聞けるかも?
「ほんと嫌になっちゃうわよねー」
「ねー」
「人の胸をチラチラ見てさー。セクハラよねー」
「ねー」
ふむふむ……フィリツはおっぱい星人。
「私の制服さー、たまたま一番上のボタン取れてたのよー」
「ねー」
「そしたら谷間が見えてたみたいでさー、ずっとガン見なのよー。サイテーよねー」
「ねー」
しかも谷間が大好物っと。
「私さー、たまたまフィリツの部屋を掃除してたらさー」
「ねー」
「スケベな念写集が出てきたのよー。それってさー、ビキニアーマーの特集だったのよー。サイテーよねー」
「ねー」
何を言う。ビキニアーマー愛好家に悪人はいないぞよ。
「ビキニアーマーなんてー、フシダラよねー」
「ハレンチよねー」
「露出狂よねー」
…………コロス。
私は侍女達の背後にまわると。
メコベキバキドゴガンガンガンズドグシャアアアア!!
「「「ぎゃああああああ!」」」
……成敗した。そのままメイド服をひん剥いて、台所に吊るしておいた。
「……よし、交渉するにあたっては、胸の谷間を強調しまくったビキニアーマーでいけば万全ね。リファリス辺りが装備すれば問題ないでしょ……あとはいくつか重要書類を失敬してから退散しますか」
チュ!
長居は無用。さすがに侍女さん達が見つかるとヤバいし。
数日後、リファリス達と合流した私は、ビキニアーマー案をプレゼンした。
「……というわけで、交渉の席にはビキニアーマーを着たリファリスが」
「嫌よ」
何でっ。
「じゃあエリザが」
「お断り致します」
どうしてっ。
「じゃ、じゃあヴィー?」
「……構いませんけど……今から準備しても、とても間に合いませんよ?」
……ぐあ、そうだった! ビキニアーマーは基本的に特注だから、時間的に間に合わない!
「し、しまったああ……どうすれば」
「あの……サーチが護衛として混じれば早いのでは?」
…………あ。
チューチュ! チューチュ! チューチュ!




