第四話 ていうか、ドナタが連れてきた汚いネズミをキレイにしたら……!
ラブホを離れ、私達は町へと向かった。たぶんホントの城は町の中心だろう。
「あー恥ずかし。人生最大の勘違いだわ」
「確かに。世の中広いけど、城とラブホテルを間違えた間抜けはそうそういないおぐぅへ!?」
「マヌケで悪かったわねっ!!」
「……ぶくぶくぶく……」
「りじぃせんせえ、あわふいてるよ?」
「放っておきなさい! 行くわよ!」
「はぁ〜い」
チュチュウ!
……ん?
「……今、私達以外の何かの鳴き声がしなかった?」
「え〜? きのせいだよ〜?」
チュチュ〜?
…………頭の上に乗ってるじゃないの。それはそれは立派なネズミが。
「……殺鼠」
チュチュ!?
「まってまって! これはわたしのともだちだから!」
「……≪統率≫したの?」
「うん!」
そう……だけど≪統率≫したとはいえ、ネズミはネズミ。
「……殺菌」
ハンカチ越しにネズミを掴むと、すぐに近くの水路に向かった。
ジャボン!
チューーーーー!!
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ!
ヂュヂュヂュウウウウウ!!
ガシゴシガシッ! ゴシャシャシャシャシャ!
ヂュウウウウウウウウウウウウ!!
ジャボン! ごっしゃごっしゃごっしゃ!
ヂュブクブクブクブクブクブク!!
ジャバア!
「……よし。かなりキレイになったわね」
洗剤に漂白剤に殺菌殺虫剤で毛穴の中まで徹底的に洗った。あとは……。
ポンッ
「ほら、飲みなさい」
チュ…………がぼごぼぼごくごくごく!
「さーちん! ねずみくんがしんじゃうよおおお!」
「待ってなさい! こんな病原菌のカタマりの状態じゃ、あんたが病気になっちゃうんだから!」
お腹の中にある毒素や悪いモノを全て分解する、高級エカテル印殺菌ポーションよ!
ヂュ………ヂュウウウウウウウウウ!!
ぴかあああ!
「あ、あれ? ネズミが光りだした!?」
「……あ〜あ……せっかくのぽいずんどくどくねずみがぁ……」
「な、何よそれ?」
「ようじんあんさつようのもんすたー」
どういうモンスターだよ!
ぴかあああぁぁぁ……
……あ、光が消えていく…………あれ?
……チュチュウ……
ガックリと項垂れたネズミは……それはそれは見事に真っ白になっていた。
「あ、あれ? こいつって白かったの?」
『……つまり、ポイズンどくどくネズミの毒を、全て洗い流しちゃったんですね?』
何故か真っ白になったネズミを尻尾を持って念話水晶でヴィーに見せたところ、そのような返事が返ってきた。まだ何も説明してないのに……。
「わ、わかるの?」
『それは聖白鼠。毒消しという試練を乗り越えたネズミだけが到達できる、ネズミモンスターの最上位種です』
「…………は?」
『ポイズンどくどくネズミを洗ったり殺菌したりすれば、普通は死んでしまいます』
そ、そうなの?
『ただ稀に自分の身体が一から作り直される衝撃に耐えられる個体がいます。それが全ての毒と菌を排出し、代わりに殺菌成分を取り込んだ姿……それが聖白鼠なのです』
「…………それって聞く限りだと、めちゃくちゃ稀少なモンスターなんじゃない?」
『その通りです。旧ランデイル帝国でも絶滅危惧種に指定されてたくらいですから』
モンスターにも絶滅危惧種っているんだ!
「でも絶滅危惧種に指定さるてるってことは、そこまで危険はないってことよね?」
『まあ……町を吹っ飛ばすとか、山を一つ削るとか、物理的な危険はありませんね』
「そう、物理的な危険はない………………ちょい待ち。なら精神的な危険はあるっての?」
『はい。聖白鼠には強力な種族スキルがあります。それが≪祝福の吐息≫です』
「祝福って……それ、闇属性に致命的なダメージを与えるってこと?」
何故か闇属性の私、ヤバいじゃん。
『いえ、致命的なダメージを与えるのではなく、強制的に聖属性にされます』
…………はい?
「ぞ、属性変更? そんなことが可能なの?」
『はい。ですから闇属性のモンスターは聖白鼠を見かけたら、全速力で逃げますよ』
「……闇竜でも?」
『はい。リアルドラまたです』
待て。なぜにそれを知ってる?
「あ、だめだよねずみちゃん!」
ん?
チュウウウウ!
ブワアアアア!!
『サ、サーチ! それが≪祝福の吐息≫……!』
マ、マジっすかああああぁぁぁぁ……!
「…………あれ?」
わ、私、生きてるよね?
「何があったの!? …………え!? サ、サーチ姉ぇ!?」
「な、何よ。私、何か変?」
「か、髪の毛が……」
髪の毛? まさか………あ、あるじゃない!
「ビックリさせないでよ。髪の毛ならちゃんとあるじゃない。ただ白いだけで……………………え゛」
「か、髪の毛が白くなってるって言おうと思った」
え………ええええええええええええええ!?
ヴィーによると。
『サーチの髪が白くなった理由は、闇属性の魔力が黒いからですよ』
私の……魔力の色が黒いい!?
「何か、めっちゃ複雑なんですけど……」
『話は急に変わりますが、サーチ自身気付いているでしょうけど、黒髪は比較的珍しいんでしょう?』
「え? あ、そ、そうね」
た、確かに。私も自分以外で黒髪はあまり会ったことがない。
『髪の毛が黒い理由は、闇属性の魔力の影響だと言われています。ですから闇属性の魔力を持っいてる人は基本的に黒いです。まずは髪の毛が聖属性への変換をされたのでしょうね』
「……それで髪が白く……」
『……まあサーチの場合は≪魔法の素質(弱)≫の≪偽物≫固定でしたよね。なら属性は全然関係ありませんね』
「あ、そっか。金属作り出すだけなら、属性もクソもないもんね……ていうことは、ヴィーは聖属性なの?」
『いえ、私は決まった属性はありません。そもそも魔力に属性を持っているのは、かなり珍しいことなんですよ?』
「そ、そうなの?」
『ですから≪祝福の吐息≫はほとんどの敵に効果がありません。せいぜい……』
「……せいぜい?」
『闇属性の魔力を含んだモノを白くするくらいでしょうか』
……めっちゃ微妙な性能なのね……。
「ていうか、この髪の色、元に戻るわよね!?」
『黒い魔力が循環すればまた色は戻りますから、一晩経てば元通りですよ』
よ、良かった……。
「サーチ姉、似合うよ……ぷぷ」
「……含み笑いがなければ、素直に誉め言葉だと受け取れたんだけどね……」
チュ!? チュウウ!
「あ、だめ! こんどはりじぃせんせえにぶれすを……!」
……今度はリジーのコレクションが白くなるのかしら?
「ひぃええええええ! お助けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
あ、あれ? リジーが一目散に逃げていく?
『……呪剣士に直撃したら……呪われアイテムは全滅ですね』
リジー、がんばって逃げなさいよ〜!
サーチ、白くなる。




