第三話 ていうか、お城に忍び込んだはいいんだけど、何か様子がおかしいんですが……?
「ありがとね〜〜! ばいばい〜〜!」
ギャギャア!
……ドドドドドドドド……
……虫食いザウルス達のおかげで、どうにかリファリス達より先に敵の城へ着くことができた。
「はあ……お尻が痛い……」
流石に野生の竜に乗りっぱなしはツラい。うわ、真っ赤になってる。
「神様、ありがとうございます……助かりました……さんきゅー……さんくす……しぇーしぇー……」
「りじぃせんせえ、どうしたのー?」
天に向かって祈りを捧げるリジーに話し掛けようとするドナタを、私は無言で制止した。大人にはツラいことがたくさんあるんだよ……。
「着いたは着いたけど、日程的にリファリス達が到着するまであと三日。急いで場内に潜り込みましょう」
「町で聞き込みしないの?」
「あとからね。妙に町から離れてるのよね、この城……」
普通は城を中心にして、町が広がっているモノだ。酷い表現だけど、町そのモノも城を守る防壁の役割を担う。
「確かに。山城でもないし、堀に囲まれてもない。落としてください、と言っていると同様」
リジーの言う通り。防御するつもりが一切ないんじゃないか、という感じの城だ。
「誰も住んでないってわけじゃなさそうね。一応明かりが点いてるし」
人影もチラチラしてるから、やっぱり誰かしらはいるわ。
「……よし、とにかく忍び込みましょう。こんな警戒心0の城、リジーも簡単に入れるでしょ?」
「うぃ。伊達にサーチ姉にコキ使われてない」
「……へえ……なら今回はリジーを泣くまでコキ使ってやろうかしら?」
「ごめんなさいすいませんそーりー」
……たく。だんだんと口が悪くなっていくんだから。
「それじゃ二手に分かれるわ。私は表門、リジーは裏門ね。ドナタ、あんたは小動物を≪統率≫して辺りの警戒ね」
「わかった」
「わかりました〜」
……このときドナタを城の中に連れていかなかった判断、私的には大英断だったと思う。
「……ホントに警戒心のカケラもないわね。見張りすらあの体たらく」
入口付近で椅子に座って寝てるし。
「この調子なら廊下を進んでいけそうね………ん?」
そのまま廊下を進んでいくと、なぜかいっぱいドアがあった。
「?? な、何でこんなにドアが……?」
この城を作ったヤツのコンセプトがイマイチわからん。
「……ん? 奥から三番目の部屋、誰かいるわね……」
気配を感じ天井裏に潜り込み、該当する部屋の上まで移動した。
「……何か……激しい運動を……?」
リズミカルな声と、たまーに激しい声。何かがぶつかり合う音と、木が軋む音………………っておい!
「一体何をしてんのよ! ていうか、ナニしてるんだけど……」
いわゆる……ギシギシアンアンってヤツ? 全く、仕事中だろうに……不真面目というか、大胆というか……。
「……ヘタに動かれても厄介だから、一応眠らせとくか」
口内で眠り毒を分泌し、穴から………待てよ。
「ちょっとだけ待って、ちょうどクライマックスなタイミングで……」
………………よし、今だ。
「ぶふぅーっ」
即効性がある毒だから、ギシギシアンアンの二人はまさにクライマックスで眠りこけた。
「……よし。一応部屋の中を捜索しておくか」
独特の匂いが充満する部屋に降り、ザッとだけど調べてみる……が。
「……何にもないか……」
見事なほどに何もない。警戒心が薄い割には、情報管理が徹底してるわね。
「仕方ない、他の部屋を見てみるか」
幸せそうに寝ているお二人さんをチラ見してから、私は天井裏に戻った。
「……どういうこと? 同じ構造の部屋ばかりじゃない……」
他の部屋は無人だったけど、似たようなデザインの部屋ばかりだった。これだけ徹底されてると、異常さを感じる。
「……もしかしたら、とんでもないモノを隠している……?」
部屋を似たようなデザインで統一する、というのも防犯対策としてはありだ。どこかの部屋に重要なモノを隠せば、他の部屋はカムフラージュになる。
「ただ生活観が全く感じられないのよね……」
もしかしたら、この区画自体がお宝を隠すためだけの……? なら普段は人がこないだろうから、さっきのギシギシアンアンも可能ってことか。
「……とはいえ、あまり時間がないし。とりあえず他をあたりましょ」
私は二階へと足を向けた。
「【R指定】! 【18禁】! 【魂の叫びー】!!」
ま、またかよ……!
一階よりは豪華な調度になったけど、やっぱり同じ部屋ばかりで、人がいてもヤってる連中ばかり。
「……とりあえず部屋の中は探索しておくか……」
カップルさんには全員クライマックス睡眠を施し、探索をするが……やっぱり何もない。
こ、ここってまさか……!
「……最上階へ行けばハッキリするかも……!」
最上階である三階へ潜り込んでみると、部屋は四つあった。どれも未使用だったけど、王族が住んでるような超豪華絢爛な内装だった。
ただし。
回るベッド。
鏡張りの室内。
そして、ピンクに溢れる目が痛い部屋。これって……!
「何でこっちの世界にラブホがあるんだよおおおおおおおお!!」
……少しあとで町で聞き込んでわかったんだけど、あの城は数年前に強度不足を理由に放棄された廃城だったらしい。それを業者が買い取って改装し、お城型のラブホテルとして開業した……ということらしい。
「……だから同じ構造の部屋ばかりだったのね……」
部屋に情報源があるわけないわな。客に貸すんだから、ヘタなモノが置いてあるはずがない。
「……よくよく見てみれば、門にデカデカと看板がついてるし……」
壁を越えて侵入したから、看板に気がつかなかった。ていうか。
「……最初のお二人さん辺りで気づけよ、私……」
……ただただ自己嫌悪に陥るだけだった。
「サーチ姉、落ち込まないで。私は言われるまで気付かなかったから」
「……それはそれで問題よね……」
「ねーねー、なかになにがあったのー?」
ぶっ!
「な、何もないわよ! ドナタが気にするようなモノは、なーんにもないわよ! ね、リジー!」
「そうよドナタ。あの中では大人の男女が組んず解れつふぐっほぅ!」
「余計なことを言うんじゃない!」
「なーにー? きになるきになるー!」
「ななな何でもないわよ!」
リジーめ……! 余計なことを言いやがって……!
このラブホに私達が忍び込んだ日に泊まっていたカップルが、何故か妊娠したらしいが……私のイタズラのせいだろう。
ドナタ、君には早いよ。




