第二話 ていうか、ここに始まるは蝕の宴! 獲物となるのは……?
「ねーねー、さーちん」
「何?」
「かなたとそなたはつれてかないの?」
「…………!」
私の驚愕の視線を見て、リジーは呆れた視線を返してきた。
「……サーチ姉、忘れてたでしょ」
も、申し訳ない。すっかりばっちりカケラほども覚えてませんでした。
「……はあ……二人は私の剣の腕をあっさりと通り越して、正統王国軍の最強剣士をあっさりと打ち破るまでに成長した」
……マジで。
「今は剣と槍の指南役として兵士に教える立場」
たった一年で!? 私達が教え始めてから!?
「二人揃って新しい流派を立ち上げた」
「…………な、何なのよ、早熟才子って……」
「わ、私も自信が無くなりかけた。特に二人に『りじぃせんせー』って言われた時」
……とっくに自分を超えた弟子だって生涯『師匠』って呼ぶんだから、そこは我慢しなさいよ……気持ちはわかるけど。
ドナタの呼び寄せたエンペラーサウルスさんには帰ってもらい、私達はひたすら歩いて先を進んだ。リファリス達は他にいくつか寄る町があるそうなので、少し前の町で別れた。
「サーチ姉、徒歩でどれくらい?」
「ん〜……エリザの話だと道沿いで約一週間だって」
「一週間……リファリス達の到着予定と重なる恐れ」
そうなのよね……早く着かないと十分に調査ができない。最低でも三日は欲しいところだ。
「いざとなったら音速地竜を借りて……」
「サーチ姉、それは嫌」
「リジー、何を言ってるの? 拒否権なんかないわよ?」
「……ノオオオ……」
いいじゃない。大体あんたは走り始めで気絶するんだから。
「……あれ? 一時期『気持ち良い! 最高!』とか言ってなかった?」
「……違うと……思われ?」
何で疑問系?
「そにっくらんどらごんね、わかったー」
「「……へ?」」
気づいたときには、ドナタは指揮棒を振り下ろしていた。
「もんすたーさん、いらっしゃ〜い」
どっかで聞いた決めセリフだな!
…………ドドドド
「……あ、きた」
来ちゃったの? 野生のヤツって乗れるのかな?
……ドドドドドドドド……
ちょ、ちょっと。数が多くない?
「サ、サーチ姉」
「うん。スゴい数ね」
「ち、違う。そこじゃなくて」
何よ。
「普通のと色が違う」
……へ?
「た、確かに……今回のは少し赤みがかってるような……」
「それに少し大きいと思われ」
「ていうか……角の数も多いわね」
ドドドドドドドドドドドド! キキキィィィィ! ズザッ!
ギャア!
「いまとうちゃくしました! だって」
……器用に敬礼してやがる……。やっぱりコイツらは音速地竜の上位種か。
「いらっしゃい、そにっくらんどらごん・いくりぷす!」
ぶふぅ!
「? サーチ姉?」
「けほけほ……ド、ドナタ? 今音速地竜・蝕とか言わなかった?」
「うん。このこたちがそう」
マ、マジっすか……。
「サーチ姉、知ってるの?」
「……ていうか、あんたは知らないの?」
「知らない。ルーデルの記憶にもない」
……ルーデルのヤツ、勉強サボってたわね……仕方ない、私が説明してあげるか。
音速地竜・蝕。私達がいた大陸や新大陸ではとっくに絶滅した、B級にランクされていたモンスターである。
見た目がやや赤みがかってるのと角の本数や体型に違いはみられる以外は、至って普通の音速地竜と変わらない。しかし、この竜には恐ろしい一面があるのだ。
「それが名前にもある『蝕』……つまり食欲ね」
とにかく食べる。何でも食べる。普通の動植物は当然のこと、人間なんかも普通に襲う。お腹が空いてたら自分の天敵であろうと向かっていく。
果てには、猛毒を持っている相手であろうと食らう。当然毒にやられて死ぬけど、腹が減るくらいなら毒を食って死ぬ……ということらしい。
「群れで遭遇したら全力で逃げろ、ってのが当時の冒険者の常識だったらしいわ」
「でも絶滅したって……」
「ええ。お腹が空きすぎて共食いしまくったらしいから」
「…………食欲って限度がないと、そうなっちゃうのね……」
「これがホントの暴食よね。でも何で暗黒大陸では生き残ってるのかしら?」
「さーちん、きいてみる?」
「聞いてみるって……聞けるの?」
「もーまんちゃい」
……無問題って言いたいのね。
そう言ってドナタは音速地竜・蝕に、ギャアギャアと話し始めた。
「サーチ姉、もしこの竜達が本物の音速地竜・蝕なら、私達はとっくに襲われてるんじゃ?」
「でしょうね。ドナタの≪統率≫が強力なんでしょうよ」
しばらくギャアギャア言い合っていたドナタは、納得した顔で私達に。
「のせてやるからついてこい、って」
……爆弾を落とした。主にリジーに。
ドドドドドドドド!
「うっぎゃあああああああああ! 速いよ落ちるよ怖いよー!!」
「きゃははははは! おもしろいおもしろいー!」
……かたや泣き叫んで音速地竜・蝕の首にしがみつくリジー。かたやニッコニコの超笑顔ではしゃぐドナタ。器の違いってヤツかな?
「でも普通の音速地竜より速いわね。もしかして蝕とは違う種類なのかしら?」
そのまま拓けた場所へ進んでいき、目の前に何か光るモノが見えてきた。
「……何あれ」
ホタルんに魔力を送り、強力なライトで照らしてもらう。
ギャギャ! ギャアギャア!
「さーちん、えものがにげるから、らいとをけせって」
「獲物? 獲物ってまさか……」
ばくばくっ!
通り抜ける際に大口を開け、光って飛んでいる何かを食べた。
「な、何なのこれ……」
何となく光るモノを掴んで見てみると………!!!
「うっぎゃあああああああああ! 蜘蛛蜘蛛蜘蛛ーーー!!!」
「……む、虫が主食!?」
「うん。このむれのみんな、むしがだいすきなんだって」
さっきの光ってたヤツは、自ら発光して獲物を誘い出す蜘蛛の一種だったらしい。
年中真っ暗な暗黒大陸の虫は、かなりの種類が発光するそうだ。だから光があるところ、虫がいる……ということらしい。
「じゃあ他には何を食べるの?」
「えーっと……」
ドナタの通訳によると、虫以外は不味くて食べられたモノじゃない……らしい。
「……つまりこの音速地竜・蝕は、極端な偏食が幸いして生き延びたわけね……」
虫といってもかなり巨大な種類もいる。飢える心配もなかったわけだ。
一生懸命光る蜘蛛を食べていた竜達は、数分もかからずに全て食べ尽くしてしまった。いやはや、スゴい食欲だ。
「……乗せてってくれるのはありがたいんだけど……」
この調子なら三日くらいで着きそうだ。
ブ〜ン……
「……いちいち虫の群れに突っ込んでくのは、止めてくんないかな………」
ポトッ
「ん? ……うきゃあああああああ! また蜘蛛だあああああ!」
偏食が絶滅を防ぐ……こともある。




