第一話 ていうか、進め〜リングナイへ♪
カッポカッポカッポカッポ
ガラガラガラガラ
……久々にこのセキト音を堪能しながら、後ろの姦しい会話を聞いていた。
「そ、それではサーチ姉は昔から露出好きだったの?」
「そうよ〜。いくら十歳とはいえ、やんちゃな男の子達に混じって水浴びって、なかなか出来ないわよ」
「うふふ、サーチらしいですね」
ビュビュ! ダン! ダン! ダン!
「きゃ!」「ひゃ!?」「うひょい!?」
「……全部聞こえてるっつーの。今度私の昔の話を始めたら、その三本のナイフがリファリスの頭にいくからね?」
「「「すいませんでした!」」」
……たく。大体何でリファリスが私達の馬車に乗ってんのよ。
「サーチ、そんなに気にする事でもないのでは?」
自分達の前に突き立ったナイフをわざわざ回収してくれたヴィーが、私が座ってる馭者席の後ろに腰掛けた。
「気にするわよ。誰だって自分の恥ずかしい過去を、暴露されたいわけないじゃない」
「そうですか? 少なくとも私はサーチの過去には興味津々ですよ?」
ナイフを受け取りながら、ヴィーを半目で睨む。
「私もヴィーの実年齢には興味津々なのよ」
「っ! ひ、人には知られたくない事がありますよね! 私はいつでもサーチの味方ですよ!」
……見事な掌返しだこと。
「エリザ、次の町までどれくらい?」
「そうですね、このままですと半日程で到着致します」
久々にメイドフォルムと化しているエリザを、ドナタがまじまじと見つめて。
「さーちん! えりざがへんだよ!?」
……どっちもエリザの標準だから大丈夫よ。
「それにしてもエイミアは大丈夫でしょうか?」
「エカテルも付いてるからね。よっぽど大丈夫でしょうよ」
私はセキトの手綱を操作しながら、ヴィーの疑問に答えた。
首都を占領したことによって、私達は反乱軍ではなく帝国の正規軍となった。アントワナが皇帝印章を置いていってくれたので、帝国の公式文書が作り放題だ。
なので。
「この書類に判子押せばいいんですか?」
「そう」
勢いよくエイミアがババンと捺した書類には。
『帝国を裏切り、他国へと侵攻せんと企てたアントワナを朝敵と認定し、これを討つ。その際には皇帝自ら指揮するであろう』
朝敵アントワナ討伐のために軍を興す、ということが書かれていた。その日のうちに皇帝エイミアの詔として発表され、アントワナとその一党は公式に敵と認定されたのである。これで堂々と進軍できるし、帝国配下の貴族達もエイミア側に味方するだろう。
ただし。
「わ、私が軍を率いなくちゃならないんですかぁ!?」
エイミアが軍の先頭に立って行動することになり、私達から離れることになった。
「嫌です、嫌ですぅぅぅ! またサーチと離れるなんてぇぇぇ!」
嫌がるエイミアをどうにか宥め。で。
「流石にエイミア様お一人では気の毒ですので、私は残ってお供致します」
エカテルが側にいることとなって、ようやくエイミアは納得した。
「この戦いが終わったら、ずぇぇぇぇっっったいに、サーチと旅しますからね!」
「わかった、わかったわよ」
未練たらたらで連行されていくエイミアに手を振りながら、私達は帝国軍と別行動をとることになった。
「詔で大半の貴族はエイミアに味方するでしょうけど、不安な有力貴族がいるのよ。それを味方に引き込むために、あたし達は裏工作に回るわよ」
……で、私達のパーティに潜り込んできたリファリスと共に、私達の新たな旅が始まったのだ。
今回は私とヴィーとリジー、それにリファリスとエリザ、おまけにドナタと今までで一番の大所帯となっている。この大陸に来たときが三人だったから、一気に戦力は倍増したわけだ。
これにエイミアとエカテル、離脱中のリルとマーシャンが加われば、一個大隊相手でも完封できるだろう。
え? ルーデルとフリドリ? 野郎は戦力に数えないよ。
「リファリス、その有力貴族ってのはアントワナ派なの?」
「いや、中立になるわね。今までの戦争にも全く関わってなかったから」
中立って……。
「いくら有力貴族だからって、戦争に参加しないってありなの?」
「ありよ。だって公爵家だもん」
「……また公爵家かよ……」
この世界の公爵って、ろくなヤツがいないのかしら。
「今の公爵が統一王国の王家の血を引いているんだって」
「へ!? エ、エイミアの親戚!?」
「微妙みたい。大体公爵には鬼人族の特徴である角がないみたいだから」
「……偽物?」
「何とも言えないわね。古人族の血が強く出てるのかもしれないし」
……ん〜……古人族の血が……。
「……ってことは、平和的に話が進むことはなさそうね」
「……確かに。でも万が一味方にできれば、アントワナには強力な牽制ができるよ」
……まあ……買わない宝くじは当たらない、とも言うし。
「やるだけやっておきましょうか」
「そーだよ。味方はしてもらえなくても、敵にならないっていう確約が貰えるだけでも儲けモノだよ」
……確かに。証拠になる文書がもらえればさらに良しだし。
「じゃあ交渉のメンツはどうするの? リファリスに任せちゃっていいのかな?」
「勿の論。その為にあたしは来たんだし」
……となると、エリザは補佐官として同伴するから……。
「ヴィー、あなたもリファリスと一緒に行きなさいよ」
「私がですか?」
「あ、いいかも。交渉の場を体験する機会ってなかなか無いし」
「あ、そうですね。ではリファリス様、勉強させていただきます」
あとはリジーとドナタか……ま、何とかなるでしょ。
「残った二人は私を手伝ってくれる?」
「いーよ。さーちん、なにをすればいいの?」
「ドナタ、このパターンの場合は忍び込んで工作活動と思われ」
「ビンゴー! よくわかってるじゃない」
「大体サーチ姉の行動パターンは理解している」
「ていうかね、これは定石。向こうだってこっちに潜り込んでたんだから……あ、リファリス。二人ほど始末しといたけど……良かった?」
「……何かしゃべった?」
「軽ーく拷問しといたけど、ただ金で雇われてただけだったから殺ったよ」
「そう……目的は?」
「ズバリ、エイミアの動向」
「……わっかりやっす〜……」
「……ねえ、サーチ姉。ならエイミア姉危なくない?」
「大丈夫よ。エイミアには四六時中≪電糸網≫張っとけって言ってあるから」
あれを張られたら、私でもエイミアに接近するのは難しいだろう。
「それにエカテルもいますから。彼女は元アサシンだそうですし」
……ほぼ最低クラスの腕前だったそうだけどね。
「それじゃリファリス、私達は次の町から別行動するから、この馬車使ってくれていいからね」
「いいの〜? ありがと」
「ヴィー、エリザ、リファリスを頼んだわよ」
「お任せください」
「元よりそれが私の使命です」
「ドナタ、少し歩くことになるけど大丈夫?」
「え、あるくの?」
「? そうだけど……」
「ともだちにのせてもらうようたのんだよ?」
「「へ?」」
アンギャアアアアア!
ズシィィィン! ズシィィィン!
うん、絶対にヤバいヤツだ!
「ドナタ、丁重に帰ってもらいなさい」
「え〜」
題名の元ネタがわかったあなたはマニア。




