閑話 戦勝会での後始末
「皆のおかげで首都オキロを陥落させ、憎きアントワナを北の要塞リングナイに追い詰める事ができました。この戦いももう少しで終わりです。その時に再びこのメンバーで飲みたいと思います」
パチパチパチパチッ
「では……乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
リファリスの本隊と合流した夜、今回の戦いの戦勝会が大々的に行われた。
ぐびぐびぐびぐび
あーおいし。
「お、さーちゃんはもう飲んでるね」
当たり前です。ついでに言っちゃえば、フライングで三杯ほどいってます。
「リファリスも麦芽酒でいい?」
「最初はね。しばらくしたら米酒に変えるけど」
なぬ、日本酒か。
「……すいませーん、次はにほ……米酒くださーい」
「へい!」
「大ジョッキに並々と冷のままでね」
「へい! ……へいい!?」
「さ、さーちゃん、マジ?」
「私は熱燗より冷が好きだから」
「そ、そう……」
……リファリスの顔が少し強ばってるのは何でだろう。
しばらくはリファリスとサシで飲んで、昔話やリングナイの攻略の話に花を咲かせた。リファリスが軍の展開について話を始めたころ、私が何気なく見やった先に、エイミアとヴィーの姿があった。
「でね、左翼が………さーちゃん、話聞いてる?」
「ん、ちゃんと聞いてるよ。でもちょっとあの二人が気になってさ」
「んん? ……ああ、エイミアちゃんとヴィーちゃんか……じゅるり」
「…………おい」
「うふふ、冗談だよぉ……さーちゃんのすてでぃを盗ったりしないって」
ステディって……ちょっと違う意味になっちゃうわよ?
「なーにを話してるのかしらねー」
「……さあ……」
「気にならなーい?」
そりゃあ……まあ……。
「気にならないって方がウソになるわね」
「なら聞くぞーいぇい!」
「……ちょっとリファリス。飲みすぎじゃない?」
「いいのだいいのだ♪ 盗み聞きするぞー、さーちゃん♪」
……たく。
ヴィー達の近くまで寄ってみたけど、全く気づかれることはなかった。
……ていうか……。
「さあ飲みましょ飲みましょ!」
「さま飲まれましょ飲まれましょ!」
……すっかりできあがってるし。かなりピッチも早いな。
「でもエイミアも大変だったんですね。ずーっと城内に閉じ込められてたんですよね?」
「はい。でも衣食住の心配もなく、ある意味平和には過ごさせてもらいました」
「平和に、ですか……私は目の回るような日々でしたが」
「ヴィーは政治家を目指してるんですよね?」
「ええ。必死になって頑張っていたら、周りから『休む事も仕事のうちだ』と言われ、最終的には強制的に休暇を取らされました」
……そういえばソレイユにムリヤリ転移されてきたんだっけ、ヴィーは。
「まだやりかけの仕事もあったのですが、そのおかげでサーチと……♪ うふ、うふふ♪」
「あーーー! ヴィーが抜け駆けしてるぅぅぅ! 卑怯です卑怯です秘境でぇーすぅー!」
エイミア、途中で何か変だったよ。
「卑怯ではありませんよ。これは私とサーチとの絆なのですから」
うん、大体はあんたの酔った勢いだけどね。
「きぃーー! サーチとの付き合いなら、私の方が長いですーっ!」
「ですが濃密さでしたら私の方が上です」
「むっきぃぃぃぃ!」
あ、エイミアが帯電し始めてる。
「リファリス、もうすぐエイミアが暴発するから、今のうちに避難しましょ」
「そうねー、ちょっと外の空気を吸ってこようか」
……私達が宴会場を出て一分後。
バリバリバリ! ずっどおおおおおん!
轟音が響き渡る。で、安全を確認してから戻ってみると……。
「み、皆さんすいませぇぇん! 大丈夫ですかぁ!?」
その場にいた半数の酔っ払いが、黒焦げになって転がっていた。
「エイミア、八つ当たりはいけませんよ……≪回復≫」
「エイミア様、時と場所を考えて発電なさってください……ふぅーっ」
ケガ人をヴィーとエカテルが治療して回っていた。
「お疲れ様。またエイミアが暴発したのね」
「……サーチさん、他人事みたいに言ってますけど、こっそり逃げてたの見てましたからね?」
「……ていうか、エカテルはよく無事だったわね。エイミア達の隣じゃなかった?」
「ちょうど隣にいたリジーが避雷針になってくれましたので」
エカテルの足元には、黒焦げになったリジーが伸びていた。
「……大丈夫?」
「感電して気絶してるだけですから」
……そういえば、一番近くにいたヴィーはぴんぴんしてるわね。
「ヴィーはどうやって防いだの?」
「咄嗟に結界を張りまして」
「魔術結界で防ぎ切ったの!?」
「いえ、地属性の聖術で珪石のドームを」
「……あ、絶縁体か。よく知ってたわね」
「伊達に長生きしてませんから」
「…………何歳なの?」
「それは秘密です」
ちょっと待て。なぜヴィーがある神官の口癖を知ってる?
「私は猫が好きなのですが」
そっちかよ!
「……まあいいわ。ヴィーも悪くないわけじゃないんだから、ちゃんと治療しといてよ」
「み、見てたのですか!?」
「……ていうか、丸聞こえだったわよ」
こっそり聞いてましたとは言えません。
「サーチさん! 逃げた事に対する弁明「命令、忘れて」……はい」
「ま、飲むのもいいけどほどほどにね……それとヴィー」
「はい?」
「今日は私の部屋に来るのは禁止」
「えええっ!?」
「ドアには罠も仕掛けとくから、そのつもりで」
ガックリと項垂れるヴィー。やっぱ突撃するつもりだったな。
「…………あああ、もう! こうなったら潰れるまで飲みます!」
ごきゅごきゅごきゅ!
「あ、それはアルコール度数95%の……!」
「うぐ……ごほげほがぼ! の、喉が焼け……げほげほげほ!」
「……何をしてんだか。ほら、水飲みなさい」
「あ、ありがとうございます……」
ごきゅごきゅごきゅ……ぶぴぃぃ!
うわ、汚な!?
「ぶべへぇ! の、喉が! 胃が焼けるぅぅ!」
……あれ?
「くんくん……あ、これアブサンだった」
「ヴィ、ヴィーさん! 大丈夫ですか!?」
「喉が痛い〜ぐるぐるぅ〜〜……胃が焼ける〜ぐるぐるぅ〜……」
な、何か収拾がつかない事態に陥ってるような……。
「こりゃダメね。私が部屋へ連れてってるわ」
「サーチさん、すいませんけどお願いしま〜す」
……このとき、ヴィーがエカテルにウィンクしたことに気づくことはなかった。
ガラ……ピシャリ
「……ヴィ、ヴィーさん……まさか、わざと……?」
ドサッ
どうにかヴィーをベッドに横たえると、私も座り込んで一息ついた。力が抜けきった人を寝かせるのは大変なのだ。
「……ふう……」
しゅるるっ
「うぐっ!? へ、蛇!?」
「……サーチぃ〜……」
「な、何で起きてるのよ!? あんた、酔い潰れてたんじゃ……」
「さあ、一緒にゴートゥーヘヴンしましょう!」
し、したくねえっての! ちょ、ちょっとおおおお!?
「……あれ? サーチとヴィーは?」
「……知りません」
……このあと、エカテルはずっとエイミアに付き合わされたそうです。
夜は更けていったけど……私の夜は……まだまだ長そうです。
その頃エリザは、酔ったリファリスにお持ち帰りされてました。




