第四話 ていうか、化け狐のこそ泥。
パンドラーネへの峠は険しいとは聞いていた。当然、それなりの覚悟もしていた。
だけど……。
「……なんでこんなにモンスターと盗賊ばっかり出てくるかな!?」
「サーチ、盗賊だけど呼び名は山賊の方」
「ん・な・こ・と・はどうでもいいでしょ!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……お前ら疲れるからやめろ」
「……全くじゃ」
「何度も言うけど、浮いてるマーシャンには言われたくない!」
「何を言うか! 体力の消費は無いがMPは消費しとる。それなりに疲れてはおるわい!」
……自分でそれなりって認めたよ、この人……。
「ハイエルフの種族スキルは≪森の恩恵≫よね?」
「ギクッ!」
「確か……森にいる場合は自動HP回復と自動MP回復が付与される……」
「ギクギクッ!」
「……いっっくら浮遊してたってMP大丈夫なんじゃないのー?」
「ギクッギクギクッ! そ、そんなことはないのじゃ!」
「口でギクギクッ言ってるヤツが信用できるかあ!!」
「いだいいだいいだいアイアンクローはやめでええええええ!」
「い・い・か・げ・ん・にしろおおおおおお!!」
ぱかんっ!
「はぎゃっ!?」
「いったーい!」
「全員疲れてるんだ! さっさと野営の準備するぞ!」
「……はあ〜い」
そう言って私は簡易テントと聖杭を取り出した。
峠に入って二日目。
急なアップダウンと、度重なるモンスターと、盗……山賊の襲撃に苦労していた。モンスターは聖杭の魔除け効果でなんとかできるけど、山賊はそうはいかない。一応端から見れば、か弱い女性しかいないパーティだ。山賊は「これは占めた」と良からぬ妄想を抱いて襲ってくる。ヤることはヤってから売り飛ばせばいい、と目論んで。
……当然世の中そんなには甘くないが。
「で? 男が十数人も包囲してナニをするつもりだったのかしら?」
ちょうど私の見張りの時に襲撃してきたのでヒマ潰しにはなった。皆も起こさずにすんだし。
「な、なんでだよ!? いつの間に俺以外を」
「闇に紛れて≪気配遮断≫と≪忍び足≫で近づいて、一人ずつ殺すなんて朝飯前よ」
一応アサシンだしね。元だけど。
「さてと。あんたには選ばせてあげる」
首根っこにリングブレードを当てて笑う。
「ひっ……!」
「ここを人生の終着点にするか? それとも次の町まで食うものもなく歩かされて、犯罪奴隷として売り飛ばされるか?」
怯えながらも考える盗賊。
「それとも正体をあらわすか」
「……は?」
「あんたね、バレバレよ。斬られても血が全く出ない人間なんているわけないでしょ?」
表情を変えない盗賊。
すると。
にょき! にょきにょき!
頭から耳が、お尻から尻尾が元気よく飛び出し。
ぽんっ!
むさい盗賊は可愛いキツネの獣人へと変わった。
「……いつから気づいた」
「最初からよ」
キツネ獣人が目を見張った。ていうか、リルが「キツネ臭いな……」と言っていたから、なんだけどね……。
「……うかつだった」
「ていうかこれって何? 魔術?」
キツネ獣人がコテンっと首を傾げる。可愛い。
「……知らなかった?」
何? その微妙な過去形。
「狐の一族の種族スキル≪化かし騙し≫だった」
だからなんで過去形?
「……目的は?」
「最近卑劣なことばかりする山賊住み着いた。だから退治したくて化かした」
化かして退治できるの!?
「で? どうする?」
「敵対する気はなかった」
「なんで過去形!? じゃあ敵対するの?」
「違った」
か、会話が成り立たない。強引だけど話を戻そう。
「その山賊って変なおかっぱ頭と痩せギスの?」
「そうだった」
……つっこまない、つっこまない……。
「なら私達が退治したわよ」
「本当だった?」
「本当だった」
真似したら少しムッとしたらしく。
「……助かったけど少し嫌な感じだった」
す、拗ねてる。めちゃくちゃ可愛い。
「ごめんなさい。あなたの住んでる村は近いの?」
「…………誰もいなくなった」
わ、これは聞いてはいけない話題だったか……多分あの盗賊に……。
「過疎化でいなくなった」
リアリティありすぎな理由だな!
「でも私も決心がついた。村を出ることにした」
さいですか。
「パンドラーネに出て一旗あげた」
だから何で過去形なのよ! ツッコミつかれたわよ!
「……うるせえな。静かにしてくれよ……」
しまった。騒ぎ過ぎたみたいでリルが起きちゃった。
「ごめ〜ん。ちょっとこの子が……」
「子じゃなかった!」
……? ……ああ、子じゃない! って怒ったのか……。
「ん? ……リディアじゃないか?」
え?
「リルだった!」
え?
……知り合い?
「てめえ! ホーンピグの肉返しやがれ!」
「……やばかった!」
リディアが私の後ろに隠れる。
「わっとと……話を聞く限りだとリルは悪い方面で知り合いみたいね」
「つーか元のパーティメンバーだよ!」
「でもスライム飴とられた仕返しだった!」
リル〜!
「それはお前が大根盗んだからだろが!」
どっちもどっちじゃない!
「うるさいのぅ〜」
あーあ、今度はマーシャンが起きてきた。
「あ、お主は!」
「あ、サーシャ・マーシャだった!」
は!?
「ワシのコカトリスの照り焼きを返せ!」
「やばかった!」
何よこの怒涛の展開は!?
「何ですかー、この騒ぎ……」
今度はエイミア!?
「あ、あなた!」
まさか……エイミアまで……?
「か、か、かわいい〜!」
「ぶっ!? く、苦しかった!」
……エイミア……。
さすがのKYだわ……。
「ぶはあ! 助けてだった!」
わ! また私の後ろに まわってきた!?
「……と言いつついただきだった!」
え!?
いつの間に!?
ビキニアーマーのトップ盗られた!
「さよならだった!」
ちょっと待てい!
びいん!
「んぎゃあ!」
あんたみたいに手癖悪そうなヤツ、そのままにしとくわけないでしょ!
そのまま仕掛けておいたロープを木にぶら下げる。
「や、やられた……!」
「たく、手癖の悪い……」
「サーチ。いつの間にあいつの足にロープを?」
「え? あの子が来てからすぐに罠仕掛けたわよ?」
「…………呆れた……お前の方がよっぽど手癖悪いじゃねえか……」
失礼な。
「ていうか子狐! さっさとトップ返しなさい!」
いつまでトップレスにさせとくつもりよ!
「いっつも裸じゃないですかいひゃい! いひゃい! いひゃいー!」
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