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第十八話 ていうか、温泉のち激闘、温泉のち激闘、温泉のち………ダイエット?

 ブルルル!


 緊急の念話が飛び込んできたのは、私がお風呂入る準備をしてるときだった。


「ん? 何だろ………緊急!? これは……リジーだわ!」


 急いで赤く光る念話水晶を取り出す。ちなみに水晶が赤いときは、緊急回線が使われた合図だ。


「もしもし! どうしたの!?」

『サーチ姉! 一大事すぎて二大事か三大事か迷うくらい一大事!』

「落ち着けええ! 文章として成り立ってない!」


『あ、そうでござった。めんごめんご』


 さ、最初の緊張感が台無しだよ……!


「で? 一体何があったのよ?」


『あ、そうだった。こちら側にヒルダさんが現れた』


 !! …………ついに、か。


「……で?」


『私は奇襲中だったから会わなかったけど、本陣近くでエリザが遭遇した』


 エ、エリザが!?


「エリザは!? エリザは無事なの!?」


『……落ち着いて聞いてね、サーチ姉。エリザは善戦したんだけど、何しろ相手が悪くて』


 …………。


『……身体に数十本ブーメランが刺さった状態で発見されて』


 !!?


『すぐに≪完全回復≫(フルリカバリー)されて助かった』


 ………………はい?


「……えっと……つまり?」


『私の隣で豪快に爆睡中』


「……お、思わせ振りな言いかたをするなぁぁぁっ!! エリザに何かあったかと思ったじゃない!」


『怪我はした。何かあった事には間違いない』


 …………ぶちっ。


「エカテル、エカテルはいる!?」


『ふぇ!? な、何ですか?』


 リジーと一緒にいたのか。ならちょうどいい。


「絶対命令! リジーをひん剥いて、旅館の外に吊るしておきなさい!」


『『ええーーーーーっ!?』』


「ついでにエカテルは往来でヌードショーしてきなさい!」


『な、何でですかあああああ!!』


「うっさい! あんた私が飲む薬をメチャクチャ苦くしたでしょ! ソレイユから聞いて知ってるんだからね!」


『うぐっ』


「はい、スタート!!」


『うきゃあああああ! 止め、止めて……いやああああああ!』

『止められない、止められないんですぅぅぅ!』


 ……少しはスッキリした私は、そこで念話を切った。


「危機に陥っていたエリザが爆睡してるんなら、たぶんソレイユが助けてくれたのよね」


 あの不器用な愛情表現しかできない魔王様は、私からの頼みに難色を示していたけど、ちゃんと動いてくれたようだ。

 いわゆる、ツンデレ。


「……それにしても、仲間であるエリザを手にかけようとしたんだから、やっぱ目的はリファリスと私か……」


 ……院長先生……。


「……お願いだから……昔の優しい院長先生に戻ってよ……! 院長先生に剣を向けるなんて……訓練以外は御免だからね……!」


 親の愛情を知らずに育った私にとって、院長先生は実の親も同然だ。戦う覚悟は決めたつもりだった。けど…………まだ覚悟が足りなかったみたいだ。



 ギギイン! ガギッ!


「あらあら、更に腕を上げたようですね、ソレイユ」


「あんたも見事なブーメランの配置ね。まさかこの後四本も飛んでくるとは、私かサーチくらいじゃないとわからなかったかもしれないよ」


「あらぁ〜? バレバレ〜?」


「……! 危な!」


 ……どんっ!


 ズブリッ! シュンシュンシュン……


「私を貫通してブーメランがくる事もわかっちゃってたの〜?」


「ふ、普通は自分のお腹を貫通させる事を前提でブーメランを投げたりはしないよ!?」


「そうなの〜? でも私は死なないから〜」


 スゥ……


「……ね?」


「な、何でお腹撫でただけで傷が塞がるのかな!?」


「日頃の行いよ〜」


「……なら……日頃の行いが追い付かないくらい、バッラバラに斬り刻めばいいわけね!」


 ジャキィン!


「あらあら……死神の大鎌(デスサイズ)を出したという事は……本気なのかしら? ……なら」


 ガチャッ


「! へえ……嘆きの刃(ローレライ)を出したって事は……あんたも本気なんだ?」


「当たり前です。リファリスとさーちゃんを手に入れる為なら、どんな悪手でも使いましょう」


「……昔のよしみで教えてあげるけどね……そういうのをストーカーっていうのよ! はああああああ!」


「……ふぅぅぅ!」


 ギャギイイイィィィン!!



 ……今ごろ院長先生とソレイユは、切り札を出して死闘してるんだろうな……。


「サーチ? 空を見上げて何をしているのですか?」


「いや、別に……」


 前世のお正月限定で流れてた、「箱根の云々」っていうCMを思い出してただけです。


「ま、露天風呂おなじシチュエーションだから仕方ないんだけどね」


「???」


「あ、ごめんごめん。ヴィーは気にしないで」


「は、はあ……それよりも、エイミアは大丈夫でしょうか?」


「へ? 何が?」


「蕩けきって沈んでますが」


 だ、だいじょばない!


「ちょっとエイミア!? ヴィー、足を持って足を!」


「何でしたら私が放り投げましょうか?」


「ダメダメ! あんたが放り投げたら、エイミアがどこ飛んでくかわかんないじゃない!」


「わ、私はそこまでノーコンではありませんよ!?」


「私が言ってるのはコントロールの話じゃなくて、力加減の話よ!」


「………………それは反論できません」


 ……早く反論できるくらいになろうね。


「というより、エイミア相手には余分に力が込められるかも」


 だから止めたんだよ!


「ほら、早く足持って!」


「はい」


 ザバア


「は、はらほれひれはれ〜……」


 ブルンッ


「……くそ。また胸が大きくなりやがったな……」


「サーチ、やはり沈めたままで」


「ダメに決まってるじゃない!」


 少し考えちゃったけど!


「冗談ですよ、冗談」


「……ヴィーの冗談は冗談に聞こえないのよ……」


 結局エイミアの介抱のため、私達は風呂を出ることになった。



「いけ、飛剣三の太刀!」


「何くそ、≪聖々弾≫(ホリホリだま)!」


 ずどおおおん!


「や、やりますね……はあ、はあ……」


「な、何よ、あんた、息、上がって、るじゃない……」


「いや、ソレイユも上がってますよね? やせ我慢してもわかりますからね?」


「や、やせ我慢なんか、してないわよ……グウウウ」


「……ちょっと待って下さい。今の『グウウウ』は何ですか?」


「ななな何でもないわよ! ちょっとダイエット中でお腹が空いただけよ!」


「な、何ですって!? あなたほどの体型で、ダイエットが必要だというのですか!?」


「あーそうよそうよ! 最近〝繁茂〟のバカが『腹に肉が』とか言い出してさ! それで必死にダイエットしてんだよコンチクショウ!」


「……そうですか。実は私も二の腕が弛み始めまして……」


「「…………」」


「……ねえ。本気でバトればさあ、かなりのカロリー消費が見込めないかな?」


「それは……否定しません。戦いは当然ながら有酸素運動でしょうから」


「「…………」」


「……行きますよ、ソレイユ!」

「ドンとこいやあ! ヒルダ!」


 ガギイン! ギンギン! ずどん! どごおおおん!!


「……何や、あの二人……戦いの目的がズレてんちゃうか……?」



「はあ〜……いい湯だなあ♪」


 エイミアの介抱をヴィーに押しつけて、私は再び温泉♪


「奇遇だな。また一緒になるとは」


「…………何でまたグリム(あんた)がいるんだよおお! 秘剣≪竹蜻蛉≫!!」


「ぐっはあ!?」



 翌朝。露天風呂に浮かぶグリムが発見された。南無。

院長先生、目的がズレる。

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