第十四話 ていうか、急がれるアントワナ対策。
私はその日のうちにヴィーとグリム達に、アントワナの詳しい情報を伝えた。
「……統率者……ですか」
「しかも人間も操る事ができ、爆破もできるだと……!?」
「今わかっていることはこれくらい。けど人間を操るには相当な時間が必要らしいから、絶対数は少ないと思うわよ」
「……見分ける方法は!?」
「ない。爆発する寸前に身体が少し光るけど、そのときには手遅れだと思って」
「く……!」
「たださっきも言った通り、操るまでにはかなり時間がかかる以上、昔からの知り合いや部下は除外できるんじゃない?」
「そう……ですね。ならば忍び込んでくる間者に、そのような処置がされている可能性を考えておくべきですね。敵の中枢に忍び込ませて爆破、諜報作業中に敵に捕まった際に口封じとして爆破……用途は多岐に渡ります」
「そうね。私が遭遇した連中も、そういうのが一番多かったかな」
例外はエカテルくらい…………あ、そうだった!
「今すぐエイミアを呼び戻しましょう! あの娘、何故か≪統率≫を解く力があるみたいだから」
「ど、どういう事だ?」
「私達の仲間にエカテルってのがいるんだけど、その娘も元アサシンでアントワナに操られてたの。で、エイミアの周辺に潜り込んだ際に、エイミアに触れられたことがあって、そのときに……」
「術が解けた、と?」
「……それが本当なら有り難い話だが、そのエカテルとかいう娘の事は信用できるのか?」
「ついでに言うと、元敵軍ですから当然捕虜です。奴隷紋も刻まれてて、しかも主は私です」
「なら、奴隷紋の縛りで問い質したのか?」
「絶対命令で『ホントのこと言わないと往来で裸踊り』って言ってありますから、間違いないと思います」
「……ならば信用するか。急いでエイミア殿を呼び戻すとしよう」
「……サーチ」
ヴィーは静かに怒りを纏わせて、私に確認した。
「モンスターを操るのには制限がないのですね?」
「……意思の有る無しが大きいみたいよ。普通のモンスターなら短時間で≪統率≫できるらしいけど、意思があるモンスターは時間がかかるみたい」
「その情報はどこで?」
「仲間にドナタっていう娘がいたでしょ? 統率者なのよ」
「……ならばその娘も呼び寄せましょう」
「ドナタを?」
「統率者に被験者に解放者。実験をすれば、≪統率≫を解く手段が見つかるかもしれません」
ヴィー……あんた。
「自分を実験台に使うっての?」
「私はモンスターです。ならば最高の実験台となり得るえるでしょう」
「……ヴィー、あんた……いいの?」
「サーチ、あなたはドナタを信用するのでしょう?」
「当たり前」
「でしたら私も信用します。サーチが当たり前と言っているのです、私が信用しない理由はありません」
「……ヴィー……」
「はいはい、そこで二人だけの世界作ってるお二人さん。そういう事は他所でやってくれへん?」
「へ? あ、エリザか。あんたもリファリスとよくラブラブ状態になってるじゃない」
「じゃかあしい! ウチの事はええんや! それよりヴィーの覚悟、ウチは応援するで。全力でサポートしたる」
「エリザ……ありがとうございます」
…………はあ。仕方ないか。
「じゃあ私が念話するわ……ヴィー!」
「はい?」
「ムリしたら承知しないからね」
「…………はい」
「……あーあ、やってられへん。また二人だけの世界作ってるで」
『うん、わかった。えいみあといっしょにいく』
「ありがとう、ドナタ」
『でもどうやっていくの? いっぱいきょりがあるって、えいみあいってたよ』
「それは心配いらないわ。私の友達がそっちにいくから、その人が送ってくれるから」
『うん、わかったー』
一旦切り、もう一回他へ念話する。
「…………もしもし、ソレイユ?」
『ハーイ、サーチ。いよいよかしら?』
「ええ。魔王出陣の時間よ」
「あー、えりりんだー」
「……ドナタ? その呼び名、誰から聞いたん?」
「えー、えいみあだけどー?」
「…………」
「わ、私はサーチから聞いただけです!」
「…………」
「エイミア、人に罪を擦りつけてはいけないわよ」
「サーチ!?」
「エイミアん……ちょいとツラ貸せや」
「え、ちょっと、サーチ、助けてえええぇぇぇ」
ズルズルズル
……思わぬドナタの爆弾、巻き込まれずにすんだか。
「……ていうか、ちょい待ち。エリザ、あんたは向こうへ戻るのよ」
「へ? ウチが?」
「エイミアとドナタが抜けた戦力の補強、それとリファリスのバックアップが必要でしょ?」
「……そやな。なら戻らせてもらうわ。その前に」
べんっ! ばんっ! ぼこんっ!
「いた!」「わっ!」「あきゃ!」
「今後エリりん言うたらあかんで!!」
「「……はい」」
「ちょっと! 何で私まで!」
「うるさいわ、黒幕はサーチ以外におらへんやろが!」
……チッ、バレてたか。
「それじゃ行こうか。エリりん、行くわよ〜」
「だからエリりんやない言うてんねん!」
「あ゛あ゛!?」
「い、いえ。何でもございません」
「……よろしい。じゃあね、サーチ☆」
そう言ってソレイユとエリザは消えた。
「ま、まさか魔王様が直々に≪転移≫してくださるとは……」
「えー、あのおねえさん、まおうさまだったんだー。≪がばめんと≫すればよかったー」
止めい!
「あなたがドナタちゃんね。直接は初めまして、かな」
「えーっと……びー!」
「発音しにくいですか? ヴィーです」
「んーっと……びー!」
「構いません。びーで大丈夫です。よろしくね、ドナタちゃん」
「よろしく、びー!」
「それじゃあ実験を始めましょうか」
「サーチ、実験って?」
「あんたが触ったらエカテルの≪統率≫が解けたじゃない? だからドナタがヴィーに≪統率≫をかけて、エイミアが解除するっていう実験をするのよ」
「え……ええええええええええ!?」
「因みにですが、言い出しっぺは私です。サーチは反対の立場だった事を明言しておきます」
「……ぅぅ〜……ヴィ、ヴィーがそういうなら……」
「私はエイミアを全面的に信じてます」
「! ……わかりました。なら私は全力でヴィーの≪統率≫を解いてみせます!」
おお、二人の美しい友情。
「でしたらいきます! ≪蓄電池≫!」
え?
「ちょっとエイミア!? まずはヴィーに≪統率≫をかけないと」
バリバリバリ!
「あばばばばばばばばばば!? ……こほ……」
バタンッ
「ヴィー! ちょっと大丈夫!?」
「ケホケホ……だ、大丈夫です……」
「こんの……バカエイミア!」
ばごっ!
「あひゃい!」
「いきなり≪蓄電池≫放つバカがいるか! 何の実験かよく考えなさい!」
「ご、ごめんなさい……」
「サーチ、いいですよ。そこまでしなくても」
「ヴィー……ほら、エイミア。心が広いヴィーに感謝……「仕返しは自分でしますから」……広くなかったああ!?」
がぶっ! がぶがぶがぶ!
「痛い! いたたた………な、何をするんですか! ≪電壁の鎧≫!」
バリバリバリ!
「しびびびびび!? ま、まだまだです! ≪聖々弾≫!」
ずどおおおん!
「……ドナタ、巻き込まれないように退散しましょ」
「はーい」
……結局実験に移れたのは、翌日の昼間だった。
エイミア石化、ヴィーは痺れ状態でダウン。




