第十三話 ていうか、無事に身体も全快! ようやく退院かと思ったら……。
『うぐ、ひっく……サーチさん、出来ましたよ……』
「……その様子だと……ちゃんと反省したみたいね……」
『ひっく……リジーとドナタちゃんの視線が……』
ありゃ、見つかっちゃったか。ご愁傷様。
「それより……今回は何も混ざってないでしょうね?」
『ああああ当たり前です! これ以上変態扱いされたくありません!』
「あら、半年くらい常に裸族、ってのも良かったのにね」
『良くありません! エイミア様にまで変態に思われたら……わ、私生きていけないいい!』
大丈夫よ、あの娘は極度の天然だから。
あとでエイミアに確かめてみたけど、やっぱり気がついてませんでした。良かったね、エカテル。
『ほいっと、これで転送完了だよ』
「ありがと、ソレイユ」
今ヴィーは刑の執行中のため、代わりにソレイユに薬を転送してもらった。
「そういえばソレイユ、ヴィーってナメクジ苦手だったのね」
『あらら、ついに最大の弱点を明かしたか。信頼しあってるね〜、サーチとへヴィーナは』
「……いや、偶然。そのときにヴィーが半狂乱で≪聖々弾≫を連発したのが、私のケガの原因」
『あっはっはっはっは! だから薬を作ってもらったんだ………あはははははははは!』
笑いすぎだよ。私にとっては笑い事じゃすまねえんだよ。
『ははは……ごめんごめん。でもその薬、少し触っただけで薬効がビリビリ伝わってきた。相当優秀な薬師だね、そのエカテルって娘』
「……普通の薬だった?」
『? 傷の治療と体力の回復に特化してたよ?』
よし、ソレイユのお墨付きなら大丈夫か。それじゃあ早速………ぶふぁ!?
「に、にっがああああ! み、水! 水水水!」
『そういえば、味は何故か強烈に苦味を強くしてあったよ〜ん』
は、早く言ええ! 近くの水桶へすっ飛び、水をがぶ飲み…………へ? すっ飛び?
「あ、あれ? もう治ってる……」
『いやはや、ぜひともアタシの手勢に欲しい逸材だよ』
良かったわね、エカテル。魔王様直々のスカウトよ。
「そうだ。ソレイユ、最近の魔神の動向は?」
『ああ、それがね、異様に大人しいんだよ。少し前まで嫌がらせのようにちょっかいを出してきてたのに』
それはね、からかう相手がソレイユから私達に変わったからだよ。
『……ん? からかう相手が変わったって?』
「……毎回言うけど人の心を勝手に読むな」
『それより! サーチ、魔神に心当たりがあるの!?』
ちなみにだけど、ソレイユには魔神関連の情報はだいたい流している。
「ん、これは確定事項じゃないんだけどね。だから確信するまではナイショ」
『…………サーチがそう言うって事は、アタシが知る誰かって事?』
「そうよ、不思議といろんな場所に出現する誰かさん……じゃあね、ソレイユ」
『え、ちょっ』
プツンッ
「…………あーもう。考えないようにしてたのに……」
正直言うと、私の中では……推測ではなく、確信へと変わっている。だから考えないようにしてたのだ。いろいろツラいから……。
ベッドに寝転がってボ〜……としていると、荒々しい足音が近づいてきた。これはエリザね。
ばたんっ!
「サーチん、ヴィーたんは?」
「今は出掛けてるわよ……って、何よヴィーたんって?」
「ん、新しい渾名や。ええ感じやろ?」
いや、絶対にイヤがるだろ。
「エリザって妙にアダ名や二つ名にこだわるわね?」
「……そういうつもりはあらへんけど?」
「そう? 今度からエリザのことは『エリりん』って呼ぼうと」
「止めい」
「自分のはイヤがるのかよ!」
「当たり前や! 何やエリりんって!? 趣味悪すぎやで!」
「サーチんはともかくヴィーたんは同レベルだよ!」
「ウチが必死で考えた渾名にケチつけるんやな!?」
必死に考えてそのレベルかよ! 私は結構サラッと考えたわよ!?
「と・に・か・く! 絶対にヴィーはイヤがるから止めときなさい!」
「…………わーったよ。なら次はもっとええヤツを」
「ていうか、アダ名から離れろ。何の用なのよ?」
「あ、あああ! そうやった! 大変なんや!」
「だから何が!?」
「ヴィ、ヴィーのお仲間が現れて大暴れしてるんや!」
「ヴィーのお仲間って……まさかメドゥーサが!?」
「そうや! 辺り一面を焼き払っとるんや!」
………………ん?
「それってまさか……ヴィー本人なんじゃないの?」
「ヴィー本人やて!?」
「ちょっとした罰として、大ナメクジ退治をさせてたから」
「? ……何でそんなんが罰なんや?」
「ナメクジ苦手なのよ、あの娘」
「…………子供の嫌がらせレベルやん」
「その子供の嫌がらせレベルで、私は大ケガをしたんですが何か?」
「マ、マジかいな……」
「……仕方ない、私達で止めましょう」
「ああ、サーチ! 大変なんです!」
………………あれ?
「ヴィー?」
「はい」
「…………ごめん、あんたが暴れてると思ってたのよ」
「いえ、私でも流石にあれは無理です」
そう言ってヴィーが指差す先には。
キシャアアアアアアアアア!!
ずしーん! ずしーん!
「……どこをどう見たらメドゥーサなのよ。共通点は蛇だけじゃない」
……蛇の固まりみたいなのが歩いてた。しかも、メチャクチャでかいヤツ。
「……あれは……メドゥーサの失敗例です……」
「……は?」
「私達メドゥーサは、生まれた時からこの姿というわけではありません。最初の頃は人間と変わらない外見をしています」
「そ、そうなの?」
「第二形態がメドゥーサボールと呼ばれる、蛇の固まりのような外見。ある程度成長すると身体中の毛髪が蛇に変化し、そのような外見になります」
「……あれ、みたいな?」
巨大な蛇怪獣を指差す。
「はい。そして最終形態。蛇の支配に成功すると、身体中の蛇は頭にだけ集中し……この姿になります」
「……読めた。なりそこないって言ったわね? つまりあれは、蛇を支配するのに失敗したメドゥーサの成れの果て?」
「…………その通りです。あれだけ巨大化しているという事は、失敗例になってから相当経っているのでしょう」
「きょ、巨大化してくの?」
「意思は消えてますから、食欲に突き動かされて何でも食らいます」
め、めっちゃ厄介じゃない!
「放っておくわけにはいかないか。ヴィー、倒してもいい?」
ヴィーは悲しげな目をしたけど、やがて視線を逸らし。
「……このまま惨めな姿を晒すのは本意ではないでしょう。滅ぼしてあげて下さい」
「……わかったわ。でも…………どうやって?」
あんなデカいの、斬りようがないんだけど。
「方法はあります。けど…………私にはできない! できません!」
「……そうよね、同族を殺すのは抵抗あるわよね……」
「あ、いえ。そういう事ではなく」
「?」
「失敗例を倒すには…………アレが必要なのです」
イヤそうに指差す先には………………ああ、なるほど。
エリザと一緒に、ヒモでぐるぐる巻きにした大ナメクジを引き摺っていき。
「「せーの」」
ぽいっ
なりそこないの身体に投げつけた。すると。
キ、キシャ!? キシャアアアアアアアアア!!
身体がドロドロと溶けていき、やがて。
ガラガラ……ズズゥン!
骨だけが辺り一面に散らばった。
「……ホントにナメクジが弱点だったのね……。ごめん、ヴィー。私、知らなくて」
「い、いえ。大丈夫です。最終形態までいけば、ナメクジも弱点ではなくなりますから」
「そ、そうなの?」
「ただ幼少からの弱点意識だけは残ってて、メドゥーサって基本的にナメクジが苦手なんですよね……」
……なるほど。
「サーチん、それよりや。このタイミングでこんなん出てくるっちゅー事は……」
「ええ。操られていた、と見るべきね」
「! では……!」
間違いなく、アントワナが来てる。
アントワナ、再来。




