第十二話 ていうか、退屈な入院生活、傍らにいるのはヴィー。
私とヴィーの活躍? によって、無事に証拠になり得る書類をゲットしたグリム達は、早速宣伝工作を開始した……らしい。
曰く、皇帝エイミアは強行派の部下達に騙され、ムリヤリ従わされていた。
曰く、強行派は古人族の選民意識を煽って、意味のない戦争を起こしている。
一つ目のことに関する書類が出てきたけど、二つ目のことは単なる推測。だけど宣伝次第で古人族の分断を狙えるだろう。
「古人族って結構選民意識が高いのね」
『そうですね。名前の通り最古の民族ですから、全ての文化の発祥は自分達だって思っている人は多いです』
魔神に関する記述を辿っていくと、どうもそれは違うらしいけど……古人族の強行派がどう思おうと知ったことじゃないけどね。
『こちらは一進一退って感じですね。敵も主力を投入してきたみたいで、リファリス様も苦労してるみたいです』
リファリス達も数日前から戦闘状態に入ってるらしい。エカテルが言った通り敵も精鋭部隊を投入してきたらしく、流石のリファリスも苦戦してるようだ。
『ひえ!? そそそそれじゃあ、薬の調合が完了したら連絡しますすす!』
「……はいはーい」
シャリシャリシャリ
「……エカテルさんも随分と拙速ですね。急いては事を仕損じると思いますが」
リンゴの皮を剥きながらヴィーが呟く。
「いやいや、念話水晶越しにあんたをチラチラ見てたから」
「……?」
「だから。ヴィーが怖いんだって」
「へえ? 何故でしょうか?」
「……あんた、ギリギリ念話水晶から見える位置で、蛇をチラチラさせてたでしょ?」
「ひゅ、ひゅ〜ひゅひゅ〜ひゅ〜……ぷすーっ」
「だから鳴らない口笛で誤魔化すな」
ズキィン!
「!! ……い、いったあああああ……」
「あらあら、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですか、じゃないわよ……いったたた……」
まだ絶対安静の私。その理由はヴィーにある。
「本当にすみませんでした、サーチ。思わず私が≪聖々弾≫を放ったせいで……」
ヴィーが得意とする聖属性は、魔の属性の対象に致命的なダメージを与える。一度聖属性で焼かれた身体は、回復魔術であっても治療できないのだ。当然、回復聖術であっても同じ。
「ただし、それは魔属性を持っている人に限るはずなのですが……」
「……何で私が魔属性なのよ……」
「少なくとも聖属性ではありませんね」
ポカッ!
「痛!」
「悪かったわね! どうせ私は魔属性よ!」
「じ、自覚はあったんですね……」
「あんただって聖属性とは言えないでしょ!?」
「それはそうです。私はメドゥーサですから」
開き直りやがった!
「とりあえず傷を治す薬はエカテルに頼んだから、その時は転送をお願いね?」
「勿論です。私の責任ですから、きちんと対処します」
そう言ってヴィーは切り終わったリンゴを差し出した……ていうか……。
「……実より皮が分厚いじゃないの」
「し、仕方ないじゃないですか! ≪怪力≫の制御は難しいんです!」
そりゃそうなんだろうけど。
「生まれつきのスキルでしょ? いい加減に慣れなさいよ」
「そ、それは………………そ、そう! 大は小を兼ねると言うじゃありませんか!」
「…………大は小を兼ねる、ね。大すぎて小が潰れちゃ意味ないと思うけど」
「うっ!」
「回復してから、ヴィーには力加減の訓練を徹底するからね」
「…………はい」
……ムリそうね。やっぱり杖を探すほうが先か。
……ていうか、暇だ。
「……前世だったらテレビもネットもあったけど……流石この世界には無いしね……」
グリムの個人的な蔵書を借りて読んだりしてたけど……。
「……何でエロ本ばっかなんだよ……」
しかもヘタッピィな。こんなの読んで盛り上がるのかしらね、男って。
「はぁ〜……暇だ暇だ暇だ暇だ」
「だから話相手に来てるんじゃないですか」
「……ヴィーにも飽きた」
「え……」
「……ちょっと、冗談だからね。ショック受けるな、涙ぐむな!」
「……サーチ……」
「で、どさくさに紛れて抱き着いてくるな! 痛い痛い!」
「あら、ごめんあそばせ。少しサーチ分を補充しようと」
何だよサーチ分って!?
「……お願いだから力加減は考えてね。ヴィーのハグのおかげで入院期間が延びたんだから」
あばら骨が三本折れました。
「す、すみません……」
「今度奢ってもらうからね」
ブルブルブル、ブルブルブル
念話水晶のバイブだ。えっと………エカテル?
「……はいはーい。はろはろ〜♪」
『あ、サーチさん。薬が完成しました』
「あ、やっとできたんだ」
やりぃ。これで入院生活ともおさらばだぜい!
「早速転送してもらうから」
『ちょっと待ってください』
「? 何よ」
『実は薬なんですが、今回は急いだ事もあって、強烈な副作用が起きます』
「ふ、副作用!?」
『はい、その………………とってもエッチな気分になっちゃうという……』
「………………ほぉう?」
ヴィーに視線を向けると……鳴らない口笛を吹いてる。
「エカテルさあ、最近ヴィーと念話をよくしてたわね?」
『ぎくぅ!? な、何の事でしゅか!?』
「命令。洗いざらい吐け」
『ひぐぅ!? わ、私はへヴィーナさんに頼まれて媚薬を混入しましたぁ!』
…………ほほぅ。
「…………ヴィー?」
「あ、それはエカテルの忖度です」
「……どうなの、エカテル?」
『ひ、ひぃ!? そ、それは……』
「命令、事実をしゃべれ」
『は、はぃぃ! へヴィーナさんから貴重な薬草を提供していただきましたぁ!』
「…………有罪。絶対命令、往来で二時間裸踊り」
『い、いやあああああ』
ブツンッ
「……さて、ヴィー。申し開きはある?」
「……………………ひゅ〜ひゅひゅ〜♪」
「だから鳴らない口笛は止めろっての!? 自分の罪を認めるのね!?」
「はい、すみませんでした!」
「…………有罪。サソリ固めの…………ん、待てよ……」
このケガの状態だから、ムリはできない。何より軟体のヴィーに効くかどうか……。
「……よし、ならヴィーには違う罰ね」
「違う……罰?」
「今からギルドにいって、あるモンスターの討伐依頼を請けてもらう。それが罰よ」
「……へ? そ、そんな事でいいのですか?」
「もちろん罰だから、敵は相当手強いわよ?」
「いえ、罰ですからそれくらいは当然です」
……あからさまにホッとしてるわね。ただ、私は甘くないわよ。
「ヴィーに請けてもらう依頼は『ビッグスラッグの駆除』よ」
「ビッグ……スラッグですか? あまり聞かないモンスターですね」
「ほら、早く行った行った」
「は、はい。行ってきます……?」
おそらく現場にいったヴィーは、半泣きで逃げ回るだろう。
なんてったって大ナメクジだから。
ヴィーさん、泣く。




