第十一話 ていうか、城での妨害工作開始なんだけど、何だかんだ言ってヴィーって蛇っぽい。
次の日、早速行動を開始した。
「今回の妨害工作は、物理的なヤツと情報面からの妨害を同時進行で行います」
「情報面の妨害っちゅーんはわかるけど、物理的な妨害? まさか城内に忍び込んで罠でも仕掛けるん?」
「まあ罠を自分達の本拠地に仕掛けられるだけでも、精神的に追い込めるからね」
想像してみよう。自宅に知らないうちに罠を仕掛けられたりしたら、相当なショックを受けること間違いない……と思わない?
「確かにショックやろうけど、そのために城に侵入する方が大変ちゃうか?」
「一度忍び込んでますが何か?」
「……そうやったな。それでエイミアを盗んできたんやもんな」
「私も案外楽に忍び込めましたよ」
「……ならサーチんとヴィーに任せるわ。ウチは街中に色んな情報を流すさかい」
「あら? エリザには苦手な作業に思えたけど?」
「そうでもないで。リファリス様も情報戦は重要視してみえるから、そっちの方の経験も豊富や」
「……わかったわ。情報面はエリザに任せる。できるだけ敵の戦意を挫くヤツをお願いね」
「わかったで。ついでにリファリス様の素晴らしさも広めて回るで!」
……まあいいけど……ほどほどにね。
「で、私達は何をすればいいのですか?」
「罠も仕掛けるけどね、何より敵に精神的なダメージを与えることが重要かな」
「敵に精神的ダメージ……皇帝を拐っただけでも、相当なダメージでは?」
「ついでに敵の幹部を石化してきたわね……」
改めて何かする必要はない気もするけど……まあ念には念をってことで。
「ではどのような罠を? 私の≪石化魔眼≫で片っ端から兵士を石にしましょうか?」
「それ罠じゃないから! 単なる怪奇現象だから!」
「……あ、そうですね。でしたら……落とし穴の底にいっぱいのナメクジとか?」
「確かに罠だけど! そのために穴いっぱいになるくらい、ナメクジ集めるなんてイヤだからね!」
「そ、そうですね…………でしたら召喚魔術で」
「そんな魔力のムダ遣い、誰がやってくれるのよ!?」
「そ、そこは雇って」
「金のムダ遣いだよっ!! ていうかナメクジから離れろ!」
あかん。ヴィーは罠に関しては素人すぎる!
「第一に城内に落とし穴って時点で非常識でしょ?」
「? ………………何故です?」
「……城の床は大体が石畳でしょうが」
「イシダタミ??」
あ、違うか。
「その……石が敷き詰めてあるでしょ? そんなとこに落とし穴掘れる?」
「……無理ですね」
理解してくれてありがとう。
「ならどうするのですか?」
「そこはね、私の長年の罠ノウハウがモノを言うのよ」
「はあ……ノウハウですか……。でしたら私はサーチの指示に従います」
「ありがと。ヴィーには目一杯働いてもらうから、そのつもりで」
「……お手柔らかに」
以前に忍び込んだとはいえ、城の内部全てを網羅しているわけではない。
「まずは城内の見取り図かな」
「何処にあるのですか?」
「ん〜……まちまちなんだけど……とりあえず警備隊の待機室を見てみましょ」
「はい」
天井裏を這いずりながら進む。
ズリズリ
すーっ すーっ
「…………」
「……何か?」
「いや……さすがに這うのがうまいな、と……」
「どういう意味ですか!? メデューサだからって、何もかも蛇の特性があるわけじゃないですからね!?」
「あーごめんごめん……でもマジで這うのうまいわよ?」
「え……」
「さっきから何も音がしてないわよ。やっぱり蛇の特性じゃない?」
「う………そ、そんな事はありません!!」
ヴィーは怒って先に行ってしまった。だけど音はしない。やっぱり蛇の特性じゃね?
「……この下が待機室よ」
天井の隙間から下を覗くと、数人の警備兵がダベっていた。
「……うん、緊張感なんてカケラもないわね。これなら簡単に処理できるかな」
「殺すのですか?」
「いえ、少し眠ってもらうだけよ。単なる職務怠慢で処理しましょ……ぶふぅーっ」
隙間に口をあて、眠り毒を部屋に注入する。しばらくすると。
……バタッ バタバタ
「……寝たわね。下に降りるわよ」
ガコッ
「あれ?」
ガコッ ガコッ
「こ、これ以上開かない……」
「どうしました? 抉じ開けましょうか?」
「あ、力ずくはダメ。侵入した形跡は基本残しちゃダメ」
「ならこの細い隙間を通るしかないですね」
「ええ!? 一番細い私でもムリよ!?」
「大丈夫です。えい」
ゴキィ!
「!!?」
「では失礼します」
コキ! ゴキゴキゴキィ!
スルスル……ストン!
「さて、外した関節を戻して……」
ゴキゴキコキ!
「サーチ、どの辺りにあるのですか?」
「…………」
「サーチ?」
「……え、あ、ごめん。たぶん壁に貼ってないかな?」
「えっと……ありました。これを頂戴しますか?」
「いえ、何かに写して。≪転写≫はできるわよね?」
「はい。お任せ下さい」
……身体中の関節を外せるって……やっぱり蛇の特性よね……。
「ヴィー、その石を持ち上げて」
「はい」
「…………よし、これでOK。下ろしていいわよ」
「はい」
ズシンッ!
「ちょ!? ヴィー、もっと静かに!」
「す、すみません!」
……ダダダダ!
「マズい、誰が来た!」
「こ、この物置に隠れましょう!」
ガチャ ゴソゴソ
……ふう、間に合った。
「……何だ、今の物音は?」
「かなり大きな音だったが……」
(ヴィー!)
(す、すみません……)
「……この物置じゃないか?」
ぎくぅ!
「そうだな……一応調べてみるか……」
ぎくぎくぅ! ヤ、ヤバい………ん?
ヌチャ
な、何これ…………うひゃあ!?
(うわああ……ナメクジが大量発生してるじゃない)
(へ!?)
(うっわああ……ヌルヌル……)
(ナ、ナメナメナメナメ……ナメクジ?)
(……? ヴィー?)
「……イヤ……」
「へ?」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! ≪聖々弾≫×10!!」
「え!? ちょっ」
ずどおおおおおおおおん!!
「サ、サーチ、本当にすみませんでした」
……ヴィーの暴走によって半死半生の目に会わされた私は、アジトで絶対安静の状態になった。
「……忍び込めとは言ったが、城を半壊させろとは言わなかったんだが……」
「本当に申し訳ありませんでした!」
ヴィーがひたすらグリムに謝罪する。
「いいじゃない、あんたが望む書類はゲットしてきたんだから」
崩れた城から爆風で飛ばされた紙の中に、グリムが探していた書類があったのだ。部下総出で回収して回り、ほぼ集めることができたらしい。
「結果論だ。もし書類が見つからなければ目も当てられなかったぞ」
コンコンと続くグリムの説教を聞き流しながら、私はヴィーに小声で聞いた。
「……ナメクジ、苦手なの?」
「…………はい、死ぬほど」
……なるほど。
三すくみって……ホントなのね。
実際は蛇はナメクジに弱いということはないみたいです。




