第十話 ていうか、密談をするのなら露天風呂で裸の付き合いを……。
「それじゃあサーチ、お休みなさい……〜♪」
ギイイ……バタン
………………ホ、ホントに遠慮もクソもなかったわね……。
「あ、あ痛たた……こ、腰が……」
それに汗だくでベトベトして気持ち悪い……。
「……風呂へいってこよ」
小鹿のように震える足にムチ打って、下着の替えを探した。
じゃぶ……
「ふい〜……極楽極楽」
グリム達のアジトは元々は潰れた旅館だったそうで、お風呂は広々とした露天風呂だった。これだけはグリムを誉めてやってもいい。
「お湯の熱さもいいぐらいだし、誰が温泉の管理をしてるのかしら?」
「俺の部下の一人が旅館の息子でな、趣味と実益を兼ねて露天風呂を整備している」
「そ〜なんだ〜……ていうか、女が入ってる風呂に忍び込むって、あんまりいただけないわよ、グリム様?」
「……今の時間は男湯の時間だが?」
え、そうなの?
「それは失礼をしました。なら上がり「構わん、ゆっくりしてけ」…………えぇ〜……」
「せっかく好意で言ってやってるのに、何で嫌そうな声を出すんだ」
「これだけ堂々と覗き行為をされれば、誰だってイヤそうな声出すわよ」
「だったら前を隠すくらいの努力はしろよ!」
「湯船の中でバスタオルを巻くのはテレビ番組くらいなのよ!」
「言ってる意味がわからんのだが!?」
ぎゃあぎゃあ言いながらも少しずつ近寄ってくるグリム。
「……ちょっと、半径50m以内に近寄らないでよね」
「この建物自体に居場所がなくなる範囲だな!?」
「だからジロジロ見るなっつってんのよ!」
「さっきも言ったが隠せよ! 素っ裸のまま、堂々と立ち上がるなよ!」
とか何とか言いながら、ガン見してるから説得力0。
「……ていうかね、いい加減にしないと……最強魔術を唱えるわよ?」
「ほおう? 最強魔術? ≪偽物≫しかできないお前がか?」
「あんたにお前呼ばわりされたくないわね……ていうか、ホントに唱えるわよ? いいの?」
「出来るモノならやってみろ」
「ぎゃああああああ! チカンヘンタイゴーカンマーーーっ!! うっぎゃああああ「わかった! 悪かった! 止めてくれ!」……よかったわね、社会的に抹殺されなくて」
「な、何という悪辣な事を……」
「この攻撃にはあのクソジジィもタジタジだったからね」
「クソジジィって……まさか三つ子の早熟才子の……?」
「そうよ、知ってるの?」
「ああ。ジジイ殿は元は俺の上官だった方だ。引退して田舎に引っ込まれて以来だが……惜しい方を亡くしたモノだ」
「上官って……そんなに偉いさんだったの?」
「ああ。我が国の至宝と称えられた方だぞ?」
……あのクソジジィが国の至宝ねぇ……。
「ていうか、何気に私の隣まで来やがったわね!」
「別に問題は無いだろう?」
「私はありありなんですけど?」
「そう堅い事を言うな。俺とお前の仲ではないか」
「……チカンヘンタイゴーカン「わかった、離れる! 離れるから!」……たく、調子に乗ってんじゃないわよ」
2mくらい離れたのを確認して、私は警戒を解いた。
「で、何であんたがここにいるのよ?」
「朝風呂が趣味だからだが……それ以上にお前に用事があったからだ」
「私に?」
「お前達は竜の牙折りだろう?」
!?
「……何故それを知ってる?」
「それだけ身構えたって事は、図星だな」
「質問に答えろ。何故知っている?」
羽扇を引き寄せ、短剣を作り出す。
「その羽扇だ」
「……は?」
「その羽扇は統一王国に伝わっていた三宝器の一つ、〝邪換羽扇〟だろう? それを持って歩いている奴は強敵だ、と婆ちゃんから言われていた」
…………そういやこの羽扇、名前があったんだっけ。ていうか!
「あんたの婆さんって誰なのよ!?」
「灯台守りをしていた」
…………まさかゴーストメイドの!?
「しばらくアジトとして使っていた連中が、新大陸から来た竜の牙折りというパーティだと聞いたのでな」
そのときゴーストメイドは、私達が新大陸で起こした数々の英雄壇を聞かせてくれたそうだ。あのババア、余計なことを……。
「だからこそお前を信用して使うことにしたのだ」
「使うって……」
「この街には現在首謀者がいない。だからこそ今のうちに街を占拠し、城を抑える必要がある」
「……読めたわ。城を探索して、エイミアの権力を傘にして仕切ってたヤツをあぶり出すつもりなのね?」
「何らかの文書でも見つかれば、それだけで黒幕を暴ける」
「エイミアに対しての忠誠心で動いてた連中は、必ず行動を起こす……」
「その騒ぎに乗じて黒幕を暗殺するも良し、皇帝を崇拝する連中に粛清されるも良し」
「そうなれば連合王国軍が一気に有利になる……か。なかなか悪どいわね、あんたも」
「それを理解するお前もなかなかだが?」
やかましい。
「で、私達に頼みたいことってのは?」
「ズバリ、先攻して城内部を撹乱してほしい」
「……何でリファリスといい、あんたといい、私達に危険な役回りを押しつけてくるかな……」
「それだけ実力を評価されている、という事だ。光栄に思うべきではないか?」
「はいはい、コーエイコーエイ……報酬は弾んでもらうわよ?」
「無論」
「それと、エイミアを巻き込むことは……」
「わかっている。我が剣にかけて、その約束は守ろう」
「……なら引き受けるわ。いつから行動すればいい?」
「明日にでも。お前達のタイミングに合わせて、俺達も行動を起こす」
「あれ? 軍は帰したんじゃないの?」
「軍はな。だが俺の私設軍が残っている」
私設軍って……まあいいけどさ。
「その私設軍だけで城を陥落できるの?」
「この街までの防壁は知っているだろう? あれに頼りきっているせいか、この街の警備は手薄でな」
……確かに。首都とは思えないほど、警備に関してはザルだ。
「……わかったわ。明日中には動く……っていうか、近いわよ」
「近いだろうな。目の前なのだから」
グリムは私のアゴに手を添え、顔を引き寄せる。徐々に近寄ってくる唇がわかっていたのに、なぜか私は目を閉じてしまった。
その瞬間、ヴィーの悲しげな表情が過り……。
パシンッ
「……止めて。その気はない、って言ったはずでしょ」
「…………」
「あとはごゆっくり。私、あがるから」
そう言って露天風呂から去る私の背中に、グリムの鋭い視線が刺さってるのがわかった。
ガラガラ……ピシャッ
「あ、危なかった……! ヴィーに隙が多いって言われたけど、ホントに気をつけないと……!」
ゴーストメイドが暗躍中。




