第九話 ていうか、使者殿への不手際の罰として、グリムの魔の手が私に……!
「ヴィー、悪いけどグリムを呼んできてもらえない?」
「わかりました」
「エリザは……手が空いたらアジトへ来てくれない? いろいろ手伝ってほしいし」
「ええで。ほなちゃっちゃと終わらせてくるわ」
ずしーん! グラグラ…… ずしーん! グラグラ……
……転んだら大惨事だな。
「グリムが来るまでの間、私が応対するわ」
「あ、サーチさん、ちぃーっす」
グリム組の下っ端が応対してくれた。腰が引けているのは、初日に私に絡んできてヒドい目にあったからだ。
「お客さんはどの部屋?」
「会議室にお通ししやした」
上出来じゃない。
「若い連中が取り囲んでます」
前言撤回。何してくれるのよ!? 急いで会議室に向かうと。
『オラオラオラ! ナメてんのか、テメエ!』
『殺らてれえのか? 殺らてれえんだろ、ああん!?』
『殺っちゃう? 殺っちゃう?』
やっぱりぃぃぃぃ! こっそりと会議室に入り込み、若い連中の背後に回る。≪偽物≫で銅鑼を作り出し……。
ぼうぅわああああああああああんんんっ!!
「あぎゃあああ!」
「ぴぎゃあああ!」
「み、耳! 耳がああ!」
いい感じで若い連中がおとなしくなったので、全員窓から放り出しておいた。
「大変申し訳ありませんでした。若い連中は見ての通りヒドい目にあいましたので、どうかお許しください」
「う、うん。許しましょう」
……この使者、よっぽど怖かったのか、部屋の隅で半泣きガクブル状態だった。
「まずは座ってください。何でしたらお飲み物を」
「あ、あの!」
「はい?」
「私を色気で籠絡しようたって、そうはいきませんからね!」
…………平常心、平常心。
「ビキニアーマー着てるからって、そっち系の商売をしてるわけじゃありませんから」
「そ、そうなんですか!? た、大変失礼しましたー!!」
「いえ。それよりお飲み物とかは?」
「の、飲み物に自白剤を入れてるんですか!? そうはいきませんからね!」
…………めんどくさ。
「入ってません。ていうか、自白剤自体ありません」
「そ、そうなんですか!? 私ったらなんて失礼な事を……申し訳ありませんでした」
「……いえ。お飲み物がおイヤでしたら、甘いモノでも用意しましょうか?」
「え!? 甘いモノですかぁ……甘いモノでしたら……うふふ……どうしようかなぁ……」
わかりやすくて助かります。
「甘いモノ用意して」
「わかりやした!」
外で待機してた下っ端に頼むと、私は使者に向き直った。
「ひぅ!? な、何ですか?」
「お互いにめんどくさい駆け引き無しで、腹を割って話しませんか?」
「…………へ?」
「だから、腹を割って話しませんか?」
「ひ、ひええええええええ!? は、腹を割る!? 私に死ねって言うんですかあああ!?」
「切腹じゃねえよ」
「ち、違う……? なら一緒に筋トレを……?」
「腹筋を六つを割るんじゃないわよ! 何が悲しくてあんたと筋トレしなくちゃならないのよ!」
「ひええ、すみませんんん……って、そうですよね。あなたには筋トレは必要ないですよね」
ぷにぷにっ
「あ、だから胸が小」
ゴッ!
「ぶげえ!?」
ガッゴッゴッ!
「い、いだああい!」
ゴッゴッゴッ! メキャア!
「や、止め………いぎゃあああああ!」
殺す! ぶっ殺す!
ズドバガゴキメキガンガンガン! ドゴバゴゴシャア!
「へるぷみいいいいいいいい!!」
「……あの、使者殿?」
「は、はい……」
「……何故これ程の重傷を負われたのか?」
「そ、それは……」
ギロリ
「ひっ!? か、階段! 階段から落ちたんですぅぅぅぅ!」
「階段……? 明らかに暴行を受けた傷と見受けられるが……?」
「そ、それは……」
ギロリ
「ひ、ひぃぃ! 階段から手足が伸びて私をボコボコにしたんですぅぅぅぅ!」
「「んなアホな!」」
「ひえ!?」
し、しまった。私までつっこんでしまった。
「……失礼、使者殿。ではあなたは、この建物に潜む階段型モンスターにやられた……と言いたいので?」
「そそそそうです! その通りです!」
……お願いだから、もう少しうまく誤魔化してよ……。
「……ならば放っておくわけにはいかない。我等の本拠地にモンスターが入り込んでいるなど、あってはならぬ事」
「「……はい?」」
「大事な使者殿に怪我を負わせてしまったのは、こちらの不手際。その償いとして、私達でモンスターを討伐致しましょう」
「「……はいい?」」
「私はてっきり、使者殿と同じ部屋にいた者の犯行かと……」
ぎくぅ!
「しかし使者殿は否定された。ならば、真犯人を討伐せねばな。なぁ、サーチ殿?」
あは……あははは……ヤバい。
「では一緒に参ろうか、サーチ殿……………この償いは、今夜ベッドで返してもらおう」
「はああ!?」
「使者に重傷を負わせたのだ、後の処理は大変に面倒な事になる」
「う、うぐぐ……」
「この事が公になって、苦労するのは……誰だろうな?」
「ぐぐぐ……」
「さあて、いるはずのないモンスターを退治するか……あっはっは、今夜が楽しみだ!」
ち………ちっくしょおおおお! やられた!
「さ、最低な気分だわ……」
してやられた! この私が!
「はあああ………マジで最低最悪……」
グリムより少し遅れて歩いていると。
「? サーチ、どうしたのですか?」
「……ヴィー?」
「さーて、階段に到着したぞ…………な゛!?」
「どうかしたの、グリ…………え゛!?」
うにょうにょうにょ
「か、階段から手足が……生えてる」
「ホ、ホントだったんだー」
「……何故棒読み?」
「き、気のせいですよー、あははー」
「あら、珍しい。死者の手ですね」
「デス……ハンド?」
「はい。処刑された死刑囚の手足がモンスター化したモノで、稀に出現するレアモンスターです」
「レアって……モンスターにレアもクソもないだろう……」
「これでしたらすぐに倒せますよ。≪聖々弾≫」
シュボン! イアアアァァァ……
「はい、完了しました。おそらくこの建物の周辺が処刑場の跡地だったのでしょうね」
「……本当にモンスターだったとは……」
「ま、これで私の無罪は証明されたわね」
「……むぅ……そうだな。疑ってすまなかった」
「いえいえ」
「……残念だ」
そう言ってグリムは使者のいる部屋に戻っていった。
「………………はふぅ。ありがと、ヴィー。助かったわ」
「いえいえ。まさかあの男がサーチを手込めにしようとするとは……………………暗殺を「止めなさい」……はい」
ちょうどヴィーと会ったときに、助けを求めたのだ。ヴィーはすぐに手を回してくれた。
「あの手足は聖術だったの?」
「はい。≪聖なる手≫という荷物運搬用の聖術です」
「あ〜あ、助かった。グリムなんかと一晩付き合うハメになるとこだったわ」
「その代わり私と一晩付き合ってくださいね?」
「はい?」
「お礼は『何でもする』と言ってましたからね。言い逃れはできませんよ?」
「……うあ……」
「では今晩、サーチの部屋で。楽しみですね、うふふふふ」
……結局こうなるんかい!
「……ていうかさ、あの叫び声もヴィーの仕業?」
「叫び声?」
「ええ。手足が滅んだときに『イアアアァァァ……』って聞こえたけど」
「……へ? し、知りませんよ?」
「ちょっと、冗談は無しで……」
「冗談なんか言ってませんよ、本当に!」
……じゃあ……モノホンが混じってた……?
「「ひ、ひえええ……!」」
本当にいたんです。




