表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
618/1883

第八話 ていうか、スラムにとけ込んで情報収集! ついでに真っ当に働いて稼ぐんです!

「おっはよー」


「おはよ。見ない顔だけど新入りかい?」


「うん。この間まで盗賊やってたんだけどさー……足を洗って煙突掃除の見習いを始めたんだ」


「煙突掃除かい!? 危険じゃないのかい?」


「そうなんだけどね〜……。家には食い盛りが二人いるし、遠くにも残してきてるから、たくさん稼がないといけないのよ」


「……子供かい?」


「違う違う。私は孤児院出身でさ」


「……そうかい……苦労してんだねえ……」


「別にどうってことないよ。それに私みたいな出稼ぎって他にもいるんでしょ?」


「そうさねぇ……」


 ……こうして朝の市場で、いろんな情報を収集するのだった。



「うぅ〜……流石に良心が痛む……」


 さっきの果物屋のオバちゃんは、リンゴを紙袋いっぱい詰めて私にくれた。情報収集のためのウソを全て信じちゃったのだ。


「……今度何か買うときは、あのオバちゃんから買うようにしよう」


 後日罪悪感から私は、あの果物屋の常連と化すんだけど……今から思えば、オバちゃんの思うツボだったような気がする。


「さて、それよりお仕事お仕事♪」


 高い場所に慣れてる私は煙突掃除、『力』が強いエリザは荷物運び、聖術が得意なヴィーは占い師。特に顔を隠したいヴィーにはうってつけの仕事だ。


「ていうか、ここまで貧窮してたとはねえ……」


 あまりに情けないグリム達のことが浮かび、ため息をついた。



「……金がない?」


 エイミアを見送ってから一週間。日に日に貧相になっていくご飯の理由を聞いたら、グリムの口から飛び出したセリフが……。


「ない。軍資金はとっくに尽きた」


 ……だった。


「……あんたさ、スラムのトップに上り詰めたんでしょ? みかじめ料を巻き上げ放題じゃない?」


「みかじめ料は犯罪だぞ!?」


「犯罪かどうか気にするようなヤツが、スラムのトップ張ってんじゃねえよ!」


 そんなこと言ってたら、私なんかどんだけ不法侵入してるやら。


「それがイヤなら真っ当に働いて稼げばいいじゃない!」


 私の何気ない一言にグリム達はハッとなり。


「「「それだ!」」」


 ……と声を合わせた。ていうか、早く気づけよ。



 ……というわけで、言い出しっぺの私も巻き込まれ、こうして真っ当に仕事をしているのだ。ギルドに仲介してもらった仕事だから、違法性はない。

 ちなみにではあるが、この町のギルドを牛耳っているのは当然古人族。だから獣人差別は当たり前のように横行していて、私達には「危険でキツくて給料安くて」……つまり3Kしか回してもらえなかった。


「ま、安くても数さえこなせば、それなりの金額は貰えるんだけどね……はい、これで十本目終わり〜」


 スルスルと煙突を降りてくる私を見て、あんぐりと口を開いたままの親方。


「……あの……?」


「……初日から十本だと……? しかもカンペキな仕事内容……」


「は、はあ。ありがとうございます」


「おい、お前! このまま永久就職をぶぐぅおわ!」


「会った初日からプロポーズすな!」


「い、いててて……ち、違う! 正式に社員にならないかって言ったんだよ!」


 まぎらわしいわ!



 今日の給金を貰って鼻歌混じりで歩いていると。


「お、サーチんやん。もう仕事終わったんか?」


 ……山のような荷物に声をかけられた。


「エ、エリザ?」


「何や、どうかしたん?」


 ズシン、ズシンと地響きを鳴らして歩くエリザの両肩には、エリザの身長の十倍近く積まれたレンガが揺れていた。


「お、重くないの!?」


「楽勝やな」


「ゆ、揺れてるわよ!?」


「無問題やな」


 マ、マジっすか。ていうか、周りの住民、揃ってドン引きしてますよ。


「……ま、大丈夫ならいいんだけど……」


「ちょいと、ちょいとそこのトップレスねーちゃんんぎゃごぐぇ!?」

「誰がトップレスよ!?」


「おいおい、ウチの雇い主に暴力振るわんといてぇや」


 あ、そうなの?


「それはごめんあそばせ……って失神してるわ」


「そりゃあんだけ強う蹴れば、男やのうたって失神するで!」


 ギャラリーの男達は全員頷く。全員同情の視線を向けているのが生々しい。

 余談だけど、女だって股間を蹴られれば痛い。


「あー……何か話があったみたいだけど、どうしようかな……」


「どうしたのですか?」


 背後から聞き慣れた声が……!!?


「……何故後退さるのですか、サーチ?」


「ヴィ、ヴィー! 頭に変なもん乗せないでよ!」


「え? この方が占い師っぽく見えませんか?」


 頭に牛の頭蓋骨を乗せてる占い師なんて、聞いたことないわよ!


「お客、全然来なかったんじゃない?」


「そうなのです。何故でしょうか?」


 ……ヴィーのセンスって、もしかしてズレてる?


「あ、それよりいいタイミングだわ。このボロ雑巾(おとこ)を治療してくれない?」


「……路上で股間押さえて泡吹いてる男をですか? どう考えても女の敵の末路にしか見えないんですけど?」


「……そう言わんといたって。一応はウチの雇い主やねん」


「そうですか。ならエリザに免じて……≪極小回復≫ア・リトル・リカバリー


 ……極小(ア・リトル)ってとこに、ヴィーの気持ちが表れてるわね。


「……う、ぅぐ……い、いてえ、いてえよぉ〜……」


「はい、会話をできる程度には回復しておきました」


「……まあいいか。ねえ、あんた私に用事なわけ?」


「いてえよぉ〜……いてえよぉ〜……」


「……ヴィー、もうちょい回復して」


「……はい。≪極々小回復≫ア・リトルリトル・リカバリー


「う、うぅ……いててて」


「会話できそうね」


「あ、てめえ! いきなり何しやがんだ!」


「人に向かって『トップレス』呼ばわりしたあんたに言われたくないわ!」


「だったらビキニアーマー(そんなかっこう)で歩いてんじゃねえよ!」


 ……おい、ギャラリーの男共、一斉に頷くな。


「ていうか、エリザまで頷いてんじゃないわよ! ヴィーもよ!」


「あ、堪忍堪忍」

「すみません、つい……」


「……たく。で? 何の用なの?」


「ふん、トップレスの変態に言うことは「オネェの(あたらしい)扉を開いてみる?」……何でもありませんごめんなさい」


 男は股間を押さえて後退さった。


「で!? 何の用なのよ!?」


「あ、ああ。あんた達グリムさんの仲間だよな?」


「…………そうだけど」


「何で嫌そうな顔をしてたのかは聞かねえよ。グリムさん達の居場所はわかるか?」


「グリムは……確か土木作業をしてるはずだけど」


「ちょっと待て。仮にもスラムのトップに君臨してるヤツが、土木作業だぁ!?」


「いろいろあるみたいだから、察してあげてよ」


「……まあいい。それより古人族の連中が、グリムさんに用事だって言って訪ねてきてるんだが」


 ……ついに来たか。

サーチがお金を貸せば済む問題。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ