第五話 ていうか、シビシビシビシビシビシビ……「シビシビって何なのよ!?」
「シビシビシビシビ……」
「お久し振りです、エイミア…………何をしてるのですか?」
「私の放ったマヒ毒で絶賛シビれ中」
「サ、サーチの放った……??」
「あぁ、さっきのアレにはね返されたヤツがね」
「毒の息をはね返したと!? お、恐ろしい相手だったのですね……」
その恐ろしい相手を一睨みしただけで倒したのはあんただけどね。
「それよりヴィー、エイミアを治せない?」
「あ、はい。≪痺れ治し≫」
「シビシビシビシビ……」
「……あ、あれ? 治らない?」
「もしかして毒の治療じゃないとダメだとか?」
「あ、成程。なら≪毒治し≫」
「シビシビシビシビ……」
「え? 何故?」
「うう〜ん? ……もしかしてヴィーの知らない毒だった?」
確か術者の知らない毒は治せない……はず。
「わ、私が知らない毒ですか…………そうですね。暗黒大陸の毒の知識はないです」
……そういえばこの毒、この大陸でモンスターが使ってたヤツだったっけ。
「ならこの大陸のことをよく知るエカテルの方がいいか。一旦エイミアを連れて戻りましょ」
「エカテルさん………サーチの奴隷でしたね」
「奴隷を強調しないで。仕方なくだったんだから……一応」
「『一応』が出てくる時点で手遅れだと思いますが……わかりました。私がエイミアを背負っていきましょう」
お願い。非力な私にはツラい作業なのだ。
「よいしょっと…………あれ、また大きくなったのですね」
……イラッ。
「……サーチは……変わりましたか?」
「比較しないでくれる?」
「え、比較というわけでは………ただ、おんぶすればわかりますが」
止めれ!
本格的に脱出に移行した私達は、城の中間地点に至っても敵兵と遭遇することはなかった。
「全然見回りがいないわね。どうしたのかしら?」
「え? サーチはどうやって忍び込んだのですか?」
「あぁ、私はバルコニーにいるエイミアを発見して……って流れだったから、城の中はあまり入ってないのよ」
「そういう事ですか……因みにですが、城内の兵士があまりいないのは、他の場所で騒動が起きているからです」
「騒動? まさかエリザが陽動を?」
「陽動……になっちゃいましたね。狙って行ったのなら大したモノなのですが……」
……その流れだと……エリザが一悶着起こしちゃった、って感じね。
「どんどんかかってこいや、ゴルァアアアア!!」
「こ、この盾の姉ちゃん、マジで強いぞ!」
「ど、どうすんだよ! 敵いっこないぞ!」
「うるせぇ! このままだと組織の面目は丸つぶれだ! 怖じ気づくんじゃねえぞ!」
「止めんか貴様ら! これ以上治安を乱すのなら、全員まとめて捕縛するぞ!」
「ええい、これ以上は放っておけぬ! 抜剣を許可する、力ずくで押さえ付けよ!」
「ぐはあっ!? き、貴様らぁぁ……もはや許せん! 斬り捨ててくれる!」
……うん、何だこれ?
「先程まではエリザと地元のチンピラの争いだったのですが……」
「……ヴィー……放置したのね?」
「だ、だって……! どうしろって言うんですか!?」
「うん、気持ちはわかる。わかるけど……放置したから警備隊まで絡んできたのは事実だしね?」
「う…………い、いいじゃないですか! それでサーチは助かりましたよね!?」
う……それを言われるとツラい。
「で、ヴィーが私のとこに来たってことは、これの仲裁をしてほしかったわけ?」
「……はい」
「できるわけないでしょ! あんた私に死ねって言うの!?」
「いえ、この現状は把握してませんでしたので……私が離れた時よりひどくなってますね……………どうしましょう!?」
「いや、私に言われても……ここまでいろんなモノが絡んでる以上、エリザを後ろからぶん殴って抱えて逃走! くらいしか……」
「それやったら私達も共犯でお訪ね者ですよ」
「うーん……私的にはエイミアを取り返したから、この国はどうでもいいって感じなんだけど……リファリスを巻き込んじゃった手前、そういうわけにもいかないのよね……」
さっきから考えてるけど、どう考えてもこの手以外浮かばない……。
「……私達の関与がわからなければいいのよね?」
「はい」
「多少エリザが痛い目にあってもいいわよね?」
「この騒ぎの根本はエリザですから、やむを得ないと思います」
「……よし。なら強硬手段で」
「ヴィー、準備はいい?」
「はい。皆、今回は無差別にやっちゃっていいからね?」
「「「シャシャア!」」」
久々に頭の蛇を開放したヴィーは、蛇達に指示を出していた。
「私が炸裂弾を爆破させたら、それを合図に作戦開始で」
「わかりました」
「「「シャシャア!」」」
「……あなた達、私よりサーチに対して従順なのはどうして?」
「「「……シャ?」」」
「惚けないでください!」
……ヴィー……内輪揉めはホドホドにね。
「それじゃ私はいくから」
「あ、はーい」
素早く建物の間をすり抜け、エリザの背後に周り込む。
「おらおらおらぁぁ! 今宵はウチの盾が唸るでぇぇ!」
盾を唸らせるな。ちょうどエリザの背中が見える位置までいき……。
「ぶふぅーっ」
さっきエイミアをシビれさせたのと同じ毒の息を、濃度千倍で吐き出す。
「おらおらおらぁぁ…………うっ………シビシビシビシビ」
「おお、あの姉ちゃんが倒れたぞ! 今だ………シビシビシビシビ」
「な、何で皆倒れ………シビシビシビシビ」
「よぉ〜し……あとはヴィーにっと……」
空中におもいっきり炸裂弾を投げる。
どおおおおん!
「……来ました! 合図です」
「「「シャシャア!」」」
「では……≪聖風弾≫!」
「「「シャー!」」」
バボボボボボ!
……ぼふぅん!
……きた!
ぼふぅん! ぼふぅぼふぅぼふぅん!
いっぱい飛んできた風の固まりが破裂して、千倍濃縮のシビれ毒を拡散していく……!
「うぐぁ……シビシビシビシビ」
「ぐふぅ……シビシビシビシビ」
「み、皆が倒れてい……シビシビシビシビ」
「シビシビって何なんだよ……シビシビシビシビ」
最後の一言、私も知りたい。
「ヴィーのヤツ、うまいこと拡散してくれてるわ。この調子でいざこざをウヤムヤにしちゃえば……」
よし、そろそろ頃合いか。私はエリザを背負うと、この場を離脱した…………お、重いぃ。
「お疲れ様です、サーチ」
「ふぅ、ひぃ、はあ……ど、どう、現状は?」
「大混乱です。今は城の治療魔術士が出動したところです」
なら時間の問題か。
「じゃあ私達も離脱。一旦グリムのところへ引き上げよ」
「了解!」
どうにかエイミアを連れ出せたけど、騒ぎがスラムに波及するのは時間の問題だったらしく……。
「シビシビシビシビ……」
……スラムも全部シビれてた。やべぇ。
シビシビシビシビ。




