第四話 ていうか、恐るべき強敵アナステ。≪竹蜻蛉≫すら通用しない……!
「……で、エイミア誘拐犯が何の用よ?」
ことと次第によっては……殺す。するとアナステは妙に大袈裟なポーズをとって。
「ああ〜♪ つれないねぇぇぇぇ〜♪ 君の冷たい仕打ちがぁぁぁ……僕の熱い思いを冷まそうと〜〜♪」
「な………何よこいつ! 急に歌い始めたんですけど!? 急に踊り始めたんですけど!?」
「我々の〜♪ 崇高なぁぁぁぁ………お・も・い………ぐゎ〜〜……伝わらないぃいぃいぃ〜♪」
ぞわぞわぞわ!
ヤ、ヤバい……鳥肌が……。
「……何か役に入り込んじゃうと、二十四時間あんな調子になっちゃって……」
「…………ずっと?」
「はい……ノックして入室するだけでもずっとアレですから、あまり話をしたがらないんですよ……誰も」
そりゃそうでしょうよ。会話するたびに、背後にバラの花が咲くエフェクトが見える錯覚に陥るんだから、精神的によろしくないでしょう。
「……止める方法は?」
「下手に手を出すと、何故か巻き込まれますから、誰も近寄りません」
対処方法なし!?
「なら何、終わるまで待つしかないってこと?」
「放っておくと平気で二・三日歌い踊り続けますから」
どうしようもないじゃん!
「……じゃあこのまま放置プレイでいいのかしら?」
「それが……アナステさんは超が付くほどの追跡術の達人で、ほぼ逃げ切るのは不可能でして……」
ホントにどうしようもないじゃん!
「なら……実力行使で」
「それも難しいです。凄まじいほどの剣の達人でもありますから」
ますますどうしようもないじゃん!
「だったら遠距離攻撃! エイミア、≪蓄電池≫で!」
「何度放っても避けられます!」
……は? 電撃を避けられるっての!?
「私だってありとあらゆる手段を試したんですけど、どうやっても止められなかったんです!」
マジでどうしようもないじゃん!
「……なら……ぶふぅ!」
私の≪毒生成≫で、無臭の痺れ毒を散布する。流石にこれなら……。
「あぁ〜♪ ……むむ? 怪しい気配が近付くぅぅぅ……しかし! 私を止められる者はいない〜♪」
ゴテゴテに飾りつけられた細剣を抜くと、無造作に剣を突き出す。
ごぅお!
け、剣圧!? あの一振りで!?
撒き散らした私の毒は、風に乗ってこちらへ……!
「ふ、ムダよ。私には≪毒無効≫もあるんだからね」
「わ、私は!?」
……あ。
「ごめん、忘れてた」
「そ、そんなぁぁ……シビシビシビシビ」
あーあ、エイミア戦力外。ていうか、シビシビって何?
「あれだけの剣圧を一振りで出せるんだから、強さはあちらが上。さて、どうしたモノか……」
しばらく観賞するしか……っていうか、時間がないっての!
「さぁ〜♪ 君と僕とは戦わなければならない宿命〜〜♪ なんという運命の皮肉なのかぁぁぁぁ♪」
あ、あれ? アナステの一人芝居が怪しい方向に……?
「ならば〜♪ 我が必殺の一撃で〜♪ 全てに〜♪ 決着を〜♪」
ギィィン!
「やっぱこうなるのね……!」
何となくイヤな予感がして、短剣を作り出しておいて良かった……!
「我が必殺の一撃を〜♪ 受け止めるとは〜♪ 何者何者な・に・も・のぉぉぉぉぉぉ♪」
ウザい。マジでウザい。
「今から死ぬヤツに名前教えたって……意味ないでしょ!」
細剣を弾き、アナステの懐に潜り込む。頸動脈に短剣を……!
「……って、あれ? いない…………!?」
背後に微かな殺気を感じた私は、横っ飛びで離脱する。
「あぁ〜♪ また避けられ〜♪ 僕のハートはブレイクぅぅぅ♪」
「勝手にブレイクしてなさい! ていうか、今のは≪残像≫なの!?」
「スキルではなく〜♪ 僕の技の一つ♪」
ふ、ふざけんじゃないわよ! 残像だけ残して移動するなんて、某亀印の流派だけで十分だよ!
「こうなったら……!」
短剣を一本の刀に作り変え、下段に構える。そのまま間合いを詰め、秘剣≪竹蜻蛉≫を放つ!
ギギギギギィン!
ばきぃん!
私の作った刀が砕け、空中に霧散する。
「ほほぉぉう……♪ まさか〜♪ 竹竿と〜♪ また相見えるとは〜♪ な・ん・た・る……奇縁!」
「私は〝竹竿〟じゃないわ。ただ初代から“竹蜻蛉”を伝授されただけ」
「確かに〜♪ 今のは〜♪ 真の〜♪ 竹蜻蛉に似ていたああああぅぅぅはあっはっはっは〜♪」
頼むから普通にしゃべって。力が抜けるから。
「だが〜♪ 僕には〜♪ 通用しない〜♪」
確かに……! 今の一撃で通用しないのなら、私には打つ手がない……!
「僕の勝ちは〜♪ 揺るぎない〜♪ だったら〜♪ 観念して……斬られるがいいいいいいい♪」
私の≪竹蜻蛉≫とは比較にならない斬撃が、閃光のように向かってくる。
間に合わない。そう理解したとき。
がぎいいいいいいん!!
……細剣と私の間に、オリハルタイトの板が現れていた。
「な……!?」
流石のアナステも驚いたらしく、一旦距離を空けた。
「……は……はは……マジで死ぬかと思った……」
とっさの≪偽物≫が間に合ったのだ。けどムリしてオリハルタイトを作ったので、結構キツい。
「……突然鉄板が現れるとは……何と面妖な……」
突然現れるって、それは私が≪偽物≫特化だから…………ん?
「突然………現れる……か」
……アナステの何気ない一言は、私に重大なヒントとなった。再び短剣を作り出した私は、アナステに斬りかかる。
「んん? まだやる気だね〜♪」
まずは右手の短剣のみで≪竹蜻蛉≫を発動する。
ギギギギギィン!
「甘いよ〜♪」
案の定、全て弾かれる。けどこれはフェイク。今度は逆手に持った左の短剣で、再び≪竹蜻蛉≫を放つ!
ガギギギギギ!
「二段構えも通用しない〜♪」
それも全て防御された。バケモノめ……!
「だけどね、三段構えならどうなのよ!」
ずどむっ! ザクゥ!
「ぐぶぅ!?」
がら空きになっていたアナステの脇腹に、渾身の蹴りがヒットした。
「……これで……勝負あり、ね」
「ごぼ……な、何故……腹が斬れて……」
「別に。短剣と同時に足に金属板を作っておいて、蹴りがヒットした瞬間に刃に作り変えたのよ」
いわば……蹴りの≪竹蜻蛉≫かな。
「『突然現れる』っていうあんたの言葉がヒントになったのよ」
「な…………ぼ、僕の何気ない………一言で……」
大量に流れた血で地面にできた血溜まりに、アナステは倒れた。
「これが……僕の人生……という名の喜劇の終焉…………わ、悪くない………………ぐぶっ」
……死んだか。
「…………というわけで第一幕の終焉!」
「うわビックリした! 死んだんじゃなかったのかよ!」
斬られた脇腹はもう治ってるらしい。ていうか、これで不死身って完全に打つ手なしじゃん!
アナステは近くの噴水の上に飛び乗り、見栄を切る。
「さあ、次代の強者の誕生の瞬間! それを遮るのは僕! 見事に突破してみせ『かちんっ』…………」
………………へ?
「あ、あれ?」
「す、すみません。あまりにサーチが遅いので、様子を見に来たのですが……」
……とっさにヴィーに石化されたアナステは、素晴らしく決まったポーズのまま……噴水の石像と化した。
「ヴィー、このまま放置して大丈夫?」
「え? は、はい。私が解除しない限り、ずっとこのままです」
なら永久に放置で。もう二度と関わりたくないし。
ていうか、結局アナステって何者だったのよ?
後にアナステの噴水像は、この町の象徴となる。




