第二話 ていうか、町の警戒網をくぐり抜け、エイミアのいる城へ潜入…………する道を確保。
「警報機が厄介ねぇ……」
連行されたフリドリの身元引き受けの手続きをしながら、何か対策できないかと考える。
「あの位置で罠が発動したのですから、かなり広範囲に渡って設置してある……と見るべきですね」
「そらーいつまで経っても見回りが来んはずやわ。多分少し奥に警備隊の詰所があって、警報が鳴ったら駆けつけるんやろな」
そうだった。アントワナがいるんだから、前世の警備態勢を導入してても不思議はないのよね。
「すいません、お待たせしました」
すると警備隊の事務員さんからお呼びがかかる。
「はーい」
「ええっと、先程連行されましたフリドリさんの保釈の件でしたね」
「はい。保釈金はいくらですか?」
「……ぁ……す、すいません……却下されてますね」
……へ?
「な、何で? 理由は何なの!?」
「まだ係争中の裁判がある為……だそうです」
係争中って……まさか!?
「ほ、他に何か容疑がかかってるの?」
「はい。痴漢、覗き、迷惑防止条例違反です」
「「「…………」」」
「それで、どうなさいますか? また手続きをなさいますか?」
「いえ、せめて苦しまないように殺っちゃってください」
「いえ、火炙りで」
「いんや、市中引き回しの上で打ち首獄門やな」
「はい?」
「「「ではよろしく!」」」
このときの私達の思いは、間違いなく一致していた。
「あ〜あ、せっかくフリドリを助けてやろうと思ってたのに!」
まさか帝都に来てまで、覗きや痴漢を繰り返していたとは。
「この際は彼の存在は忘れましょう。忘れるべきです。忘れてしまいましょう」
「そうやで。今はエイミア救出っちゅーもっと重要な事があるさかいな」
……そうだったわ。あんなバカのことに思いを致す必要はなかったわ。
「話は戻るけど、やっぱり警報機対策よね。たぶん赤外線を魔術的な要因で代用してるんだろうけど……」
「せ、せきがいせん?」
「要は見えない光よ。その光が遮断されると警報音が鳴るの。ねえ、魔術で見えない光を作り出すことなんてできる?」
「おそらく……できます。サーチの言う『見えない光』というモノも光なのですから、≪照明≫の応用で可能かと。当然、その『見えない光』に関する具体的な知識は必要でしょうけど」
一応可能ってことか。
「なら見えないモノを見えるようにできる魔術……いや、聖術はある?」
「その光も見えるかはわかりませんが≪真実眼≫という聖術はありますよ。隠れた敵を見分ける為のモノですけど」
「それが有効ならかなり楽になるわね。あとで試してみましょう」
……となると……私が一度先行して、安全なルートを確保したほうがいいか……。
「ヴィー、私は一度単独で忍び込んでくるわ。その間に情報収集をお願い」
「構いませんけど……どのような情報を集めれば?」
「エリザに協力して、敵の軍に関わる情報をメインに収集してほしいのよ」
「はあ……」
「エリザはリファリスの副官的な立場である以上、自然と軍事関係にも詳しくなってるのよ」
「あ、成程。リファリス様は軍務尚書でしたね……わかりました。全力でエリザをバックアップします」
「お願いね」
エイミアを取り返すだけじゃなく、その後のことも考えておかないと。古人族、アントワナことロバート、そして院長先生……不安要素は尽きない。
「……私はただエイミアを取り返したいだけなんだけど……遠回りばっかね……」
だけど、それもあと少しだ。
「ではいきます。≪真実眼≫」
ヴィーに聖術をかけてもらうと、辺りの景色が一変した。
「あ、あれ!? 周りが急に明るくなった!」
「へ?」
「ウ、ウソ。太陽が見える。雲も見える。空が青い!?」
「どういう事ですか?」
「ヴィー、自分にもかけてみなさいよ」
「わ、わかりました。≪真実眼≫…………え? えええ!?」
……どういうこと?
「……≪真実眼≫によって太陽が見えたという事は……暗黒大陸の暗闇は魔術的要因によって引き起こされている?」
「……ヴィー、このことも調査したほうがいいわね」
「はい」
……っと、今はそれよりも。
「じゃあ私いくから」
「わかりました。後の事はお任せ下さい」
ヴィーに手を振ると、壁を飛び越えた。
「……サーチ……どうかご無事で……」
「お待たせしました、へヴィーナ。リファリス様への連絡は終わりました」
「ご苦労様です……………あれ? 何だか雰囲気違いません?」
「今リファリス様と会話できた事で、私の内の忠誠心が補充されましたから」
「…………そ、そうですか。では早速情報収集を開始しましょう」
「わかりました。よろしくお願い致します、へヴィーナ」
「……いつものエリザと随分違うのですね……」
……それにしても、リファリスパワーとは一体……?
「……あ、赤外線はっけ〜ん♪」
やっぱりか。この町はアントワナの支配下とみて間違いないわね。
「さすがに監視カメラはないけど、ところどころにセットされてる水晶が気になるわね。あれも避けたほうがいいか」
後にこの水晶は監視カメラモドキだったことが発覚し、私の判断の正しさの証明となった。えへん。
「よっ、ほっ」
町に生える木を飛び移り、城に向かって急ぐ。幸運にも罠や警備隊の姿が少なかったこともあり、予定より早く城に到達した。
「よし、このルートならエリザやヴィーでも十分安全ね」
もし同伴者がエカテルやエイミアだったとしたら、間違いなくムリだろうけど。
「よし、一旦引き上げてヴィー達と合流……」
ギィィ……
私が踵を返そうとしたとき、誰かが窓を開く音が聞こえた。急いで物陰に隠れる。
「陛下、あまり長い時間は困りますよ」
「わかってますっての! もう、息が詰まっちゃいます!」
!? こ、この声は……まさか!
すぐに近くの木を登る。そして見下ろした先には。
「……エイミア……!」
ずいぶんと長く髪を伸ばしたエイミアがいた。これは千載一遇のチャンス!
「即断速攻! ちぇすとおおおおお!!」
「へ!?」
ごがんっ!
とっさに作り出したタライを侍女の頭に叩きつけ、意識を奪う。
「な、何奴……っ」
背後にいた衛兵に投げナイフを放ち、眉間に突き立てた。よし、もう誰もいない。
「へ? へ!?」
「ふぅ……待たせたわね、エイミア。迎えに来たわよ」
「サ……サーチ?」
「そう、あんたの親友のサーチよ。ホントに久しぶりね」
「……うぐ……ひっく……サーチ、サーチィィィィィ!!」
エイミアは涙を流しながら、それでも笑顔で私に走ってくる。
ゆっさゆっさ
……またデカくなりやがったな……。
「サーチィ「ほいっと」……ってあれ!? ちょっとおおおおぉぉぉぉ……」
……ずだあああん!
あ、しまった。つい揺れる胸にイラッとして足払いいしちゃった。
「……ここって三階だっけ……」
急いでバルコニーの下を見ると、地面にスケキヨってるエイミアの姿があった。ピクピクしてるから生きてるでしょ。
これがエイミア救出の瞬間だった。らしいっちゃあらしい再会だわ。
エイミア、意外と早く再登場。




