第二話 ていうか、こっちの世界にもあった……。
≪気配遮断≫と≪忍び足≫を使いながら慎重にアジトへと近付く。
「盗賊なんて久々よね……」
ホントなら放置して先に行きたいんだけど……そうもいかなくなってしまったのだ。
少し前。
「……じゃあ何? あのアジトを通過しない限りパンドラーネには行けないってこと?」
「ああ。あのすぐ側が峠の入口だ。盗賊もわかってあそこにアジトを構えたんだろうさ」
ていうことは当然見張りもいる……。
「……下手したら私達のことも……」
「把握されてるだろうさ。≪千里眼≫のスキル持ちなんてそう珍しくもないしな」
盗賊なんてめんどくさいだけで正直スルーしたいなあ……。
「……まわり道なんてない?」
「あるにはあるけど……けっこうな高さの崖登りがある。エイミアは無理だろうし……登ってる途中で盗賊に背後をつかれたら目もあてられねえ」
深いため息を吐いて。
「……正面突破しか……ないみたいね……」
……苦渋の決断となった。
で、現在。
私が潜入して敵地偵察。リルは辺りの警戒。エイミアには忘れてたマーシャンを迎えに行ってもらった。
「見張りが……四人。二人は寝てるから問題なし……と」
元は村だった廃墟を根城にしてるみたい。よく崩れないものだ。
「結界同様に建物も穴だらけ♪ 余裕余裕♪」
エイミアが探知してくれた結界の綻びはかなり大きかったけど……壁の穴も相当だ。手早く屋根裏に潜入して、盗賊の人数を確認する。
「全員で三十人くらい……規模は小さいわね」
あとは数人捕まっている人がいた。余裕があったら助けますか。
「よし……退散」
戻るとリルがため息を吐いていた。
「……どしたの?」
リルが繁みの奥を指差す。
……何か怪しげな声が……。
バリバリ! ずどん!
……エイミアがキレたらしい。紫っぽい光が迸る。
「もう……!」
するとエイミアがプンスカと怒りながら繁みから出てきた。
「……マーシャンに何かされた?」
「……み、未遂です!」
あらら、めちゃくちゃ動揺してる。
「わ、ワワシを置いていくくとはひでぶ」
綺麗な緑の髪をアフロにしてマーシャンがでてくる。まだ痺れてるみたいね……。
それにしても語尾のひでぶって……。
「エイミア、ひどいではないか! あんなに……」
「……あんなに?」
「あ……ああ……何でもないのじゃ」
……あんたらホントにナニをしてたのよ……。
「おほん! まず敵の数だけどね。ざっと三十人くらいで魔術士らしいのはいなかった。全員の装備も確認したけど剣や弓矢だけだったわ」
「よくそれだけ調べてきたな……」
そりゃ年季が違いますから。
現年齢プラス三十くらい。
「見た目で判断しただけだからね……普段着の魔術士なんていたらごめんね」
「……いるかもしれないな……」
「心配しなくてもワシが何とかしてやるわい」
マーシャンがそれなりの胸を張る。
「魔力の探知とかできるの?」
「普通の魔術士は無理じゃろうな。ま、ワシは特別じゃから」
さすがマーシャン。伊達に歳とってない。
「……お主すごく失礼な事を考えておらぬか?」
私って顔に出るタイプなのかな?
「どうする?」
「……行くか」
暗いうちに奇襲しますか。
相手に≪千里眼≫がいるかもしれないけど、一応隠れながら進む。
(私はマーシャンと裏からいくわ。リルはエイミアと表から派手にやっちゃって)
(了解)
私はマーシャンに指で合図して駆け出した。
あれ? マーシャンついてきてない……?
「? ……わっ」
ビックリした。足音がないと思ったら浮遊していた。
(なんじゃ、静かにせい。サーチらしくない)
(ごめん、ごめん)
裏口から中に侵入し、さっきの偵察で潜り込んだ屋根裏に入る。
(蜘蛛の巣が、蜘蛛の巣がー!)
(マーシャンうるさい!)
髪の毛に蜘蛛の巣が絡まってうるさいマーシャンを黙らせながら機会を伺う。
すると。
ズズーン!
エイミアが暴れ始めたわね。
「マーシャン、魔術士は!?」
「……隣の部屋に一人おるな」
よし、まずはそいつを叩く! マーシャンを置いて廊下にでる。
「なんだてめえは! うぐっ」
出会った盗賊の心臓に≪偽物≫で作った針を刺し通す。そして部屋のドアを蹴破る。
「!! 誰!」
そこには女性がいた。
杖を持っているから間違いない……と思う。
「違ってたらごめんね♪」
「な……! ごぶっ」
一応殺っておく。
「……サーチは容赦無いのう……」
「容赦してたら死ぬのはこっちよ。で? こいつが魔術士?」
「確認もしておらんのか! ……間違いない、此奴じゃ」
「OK! 他にもいる?」
「……ちょっと待っておれ」
マーシャンが探知している間にもエイミア側で派手な爆発音が響く。
「……もうおらぬ。今の爆発で反応が消えたの」
よし!
あとは片っ端から殺るわよ!
「……≪電光弾≫」
……なんて意気込んでいる間にマーシャンが魔術を解き放つ。小さい電気の球は幾つかにわかれて飛んでいった。
「追尾魔術じゃ。残った盗賊は全員補足したはずじゃ」
……マーシャン、あんたも十分えげつないよ。
「エイミア、リルー。片付いたー!」
裏のほうは全滅したため、表側のリル達と合流する。
……て、あれ?
「な、何だお前ら!!」
エイミアが釘棍棒を見知らぬ男に向けている。たぶん盗賊の生き残り。
「ちくしょお! 出しやがれ!」
リルは檻の中にいる痩せギスの男をジト目で見ていた。
? ……何故こうなった?
「ねえ、どういうこと?」
「私達が来たときには、この二人が言い争っていたんです」
内輪揉め?
「ちくしょう! 出せ! 出しやがれ! どうせ死ぬんならそのクソ野郎を殴らせろ!」
「なんだと! この裏切り者め! 盗んだ金を返せ!」
「うるせえ! 俺達をあんな安月給でコキ使いやがって!」
「ふん! お前らなんぞ、それぐらいで十分だ!」
「休みだって全く無いじゃねえか!」
「死ぬまで働け!」
…………。
「てめえ! 人をなんだと思ってやがる!」
………………。
「どうせお前は人に使われるしか脳がないんだよ」
ぶちっ
「うっるさあああああいっ!」
「なんだぐぎゃ!?」
私の蹴りが炸裂した。
「あーもう! 聞いてるだけでムカつく奴!」
すると痩せギスの男が騒ぎだした。
「あ、ありがとうな! 俺のために!」
……別にあんたのためじゃないけど。
「これで俺が新しい頭目だ! 部下を目一杯コキ使ってやるぜ! へへへぎゃあ!?」
「お前もかああああ!」
今度は≪偽物≫の針が炸裂した。
こうして。
パンドラーネ一帯を荒らし回っていた盗賊は壊滅した。