表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
605/1883

第十八話 ていうか、いつになったら川を渡れるのよ!?

 やっと三日間が過ぎたけど、隊商(キャラバン)はいまだに船を占拠し続けていた。


「いっくら何でも長すぎでしょ! こっちだって急いでるんだから、文句言いついでに闇討ちしても良いわよね!?」


「あかんあかん! 文句はともかく、闇討ちはあかんで!」


「……でしたら、私の蛇を背後から」


「ヴィーもあかん! おしとやかな顔しといて、サラッと怖い事言うなや!」


 ちょっとした寸劇をこなしてから、私達は隊商(キャラバン)と直談判するために、隣のムダに豪華な旅館に向かった。


「いらっしゃいませ」


「ここに泊まってる隊商(キャラバン)のお偉いさんはどの部屋?」


「申し訳ありませんが、お客様のプライバシーに関する事はお答え致しかねます」


「……今宵の私の短剣は良く斬れるのよね」


「三○一号室でございます」


 ……命の危険に晒されて、顔色一つ変えずにゲロったよ。ある意味スゲえな。


「ありがとう」


「ごゆるりとお過ごし下さい」


 こいつ……プロだ。



 ずどばがああん!


「失礼します。隊商(キャラバン)の責任者はあんたよね?」


 扉を蹴破った私を見て頭を抱えるエリザを尻目に、私は中にいるはずの人を探した。


「……あれ? いない……わね」


 チッ、気配を感じて逃げたか?


「サーチ、足元足元」


 ヴィーに指摘されて、足元の扉の下を見てみると……。


「……あ、あれれ〜? 扉から手が生えてる〜」


「サーチ、現実逃避は止めましょう。どう考えても、蹴破った扉の下敷きになったんですよ」


 ……ですよね〜……。


「……気絶してるわね」


 素早く扉をはめ直し、目立った傷がついてないか確認する……よし、大丈夫。


「ヴィー、≪回復≫(リカバリー)を」

「はい」


 ヴィーの手から奇跡の光が放たれ、意識を失っていた男を治療する。


「…………う……う、うむ? ワシは何をしていたのだ?」


「ああ、良かったですぅ! 私達が訪ねてきたら、あなた様が部屋で倒れていたんですよ! ヴィーが治療しなかったら危ないとこだったんです!」


「……ワシが……倒れて? 扉がワシに迫ってきたところは覚えているのだが……?」


 やべえ、意外と記憶は確かだわ。


「頭を打って記憶が混乱されているのですね。一旦横になられたほうがよろしいかと」


「そ、そうか?」


「あらあら、少しフラついておいでで。この際はしばらく休養をした方がよろしいかと」


「そ、そうか?」


「あらあら、かなりフラついておいでで。この際は私達に先に船を譲った方がよろしいかと」


「そ、そうか?」


「というわけで、今日は私達が船をチャーターさせていただきます。では、あでゅー♪」


 ポカンとした男を置き去りにして、私達はさっさと船着き場に向かった。


「……よし、うまくいったわね。まさに計算通り」


「……おもいっきり行き当たりばったりやったで」


「いいのよ! 終わり良ければ全て良し!」


「……ちょっと待てコラアアア! どさくさに紛れて順番を飛ばすヤツがあるかあああ!」


「あ、気がついたか」


「……終わり良ければ……とはなりませんでしたね、流石に」


 ……ですよね〜……仕方ない、多少は足元見られるかもしれないけど、直接商談するか。



「駄目だな」


 ……はい?


「け、結構な金額を提示したつもりですけど……まだ安い、と?」


「そういう問題ではない。お前達、どうせ獣人なんだろう?」


「そうですけど……何か?」


「だから駄目だと言っている」


 ……何が言いたいのか、大体わかった。


「獣人ごとき(・・・)に譲ってやるつもりはない。さっさと森へ帰れ。その獣臭い身体を川で濯いでくるがいい」


「……何やと、コラ」


「ふん、下賤な民は我等古人族に支配されるべきなのだ。それをわからぬ連中が、この神聖なるラインミリオフ帝国に歯向かおうとする……実に嘆かわしい事だ」


 ……やっぱり……こいつ、古人族の商人なんだ。


「心が広いワシは、本来ならば没収すべきお前達の財産に手を出さんのだ。それだけでも有り難みを感じ、這いつくばって感謝して当然なのだぞ、ん?」


 ……はぁ、ダメだこいつ。私は座っていた椅子を蹴り倒すと、そのまま部屋を出る。背後から嘲笑が聞こえたけど、この場はグッと堪えた。



「ああもう、本当に腹が立ちますね!」


 珍しくヴィーがプンスカと怒っている。


「仕方ないわよ。ああいうヤツはどこにでもいるもんだから」


「けど、どないすんねん? このまんまやと向こう岸に行く手段がないで?」


 そうね……私達は魔法の袋(アイテムバッグ)があるから、荷物は何とでもなる。だから身体一つで移動はできる。できるけど……。


「……こんな流れの早い大河、泳いで渡るなんてムリよね……」


「そうですね。流石に泳いで渡るのは難しいですね」


 ……何か乗るモノがあれば……。そう考えてバッグ内を探っていると、あるモノに手が当たった。


「冷た! ……な、何これ?」


 このとき、私はあるアイデアが閃いた。急いでヴィーに説明すると。


「た、確かに理屈上はそうなりますけど……」


「ヴィー、聖術である程度コントロールできない?」


「そう……ですね。形を保つ(・・・・)だけでしたら、全く問題ありません」


「なら、川に放り込みながら進めば……」


「……あ、成程。それでしたら行けそうですね」


 私とヴィーの会話を聞いていたエリザは、首を傾げるしかなかった。


「……ホンマにうまくいくんかいな……」



「思い立ったら吉日、それ以外は凶日って有名な言葉もあるわ。早速行くわよ!」


 そう言って私は水面に氷結石を放り込んだ。


 ジャボン! ビキビキビキビキ!


「け、結構凍るんやな」


「そりゃあ氷結石だからね。ヴィー、うまくコントロールしてね」


「わかりました。≪聖流≫(ホーリー・ストリーム)


 ヴィーが氷の広がりを聖術で制御する。氷は上空にキノコのように伸びていき、やがて橋のような形状になっていった。


「おお、ちゃんと橋になるんやな」


「どんどん行くわよ〜……それそれそれ!」


 ジャボジャボジャボン! ビキビキビキビキビキビキィ!


「纏めて≪聖流≫(ホーリー・ストリーム)!」


 グゴゴゴゴ!


 私の目論見通り、氷の橋は向こう岸まで伸びていった。


「ほい、走るわよ! いつ崩れてもおかしくないからね!」


「はい!」「よっしゃ!」


 橋が安定している間に、全速力で駆け出した。



「な、何だあれは!?」


「川に橋がかかっていくぞ!?」


「ん? あれは……先程の獣人共ではないか!?」


「あ、あのような手で川を渡るとは……生意気な!」


 ビキ! バキバキ……ズズズゥン!


「は! 見てみろ! 簡単に崩れてしまったではないか! 所詮は獣人の浅知恵……」


 ズズズズズズ……ドドドドドドドド!!


「う、うわ! 氷が船に!」

「避けろ! 避けるんだあああ!」


 ズドォン!


「「うわあああ!」」



「……あ、船に当たっちゃった」


「ま、いいんじゃねえか? いい気味だよ」


「そうですね。私達は無事に渡れましたし」


 ……隊商(キャラバン)の船、ほとんど沈んじゃったわね……まあいいか。

軽くざまあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ