第十五話 ていうか、ガールズトークをしながら歩く「……査問会がガールズトークなんですか?」
「……成程、そういう理由でエイミアの救出を前倒ししたのですか……」
歩を進めながら、私は今までの経緯をヴィーに聞かせていた。
「聖術が得意なヴィーから見て、エイミアが触ったら≪統率≫が解けた理由って何だと思う?」
「うーん………聖術には≪解呪≫というのもありますけど、それと同じ効果をエイミアが発揮してるんでしょうか……?」
「そんなことができるの?」
「前例がありませんから何とも……」
「でもさ、ヴィーだって相手に触れながら≪回復≫をかけることってできるんでしょ?」
「そう……ですね。触れながらの方が回復を促進しやすいので、敢えてそうする事もありますね」
「……それじゃエイミアは≪解呪≫を常時発動してるとか?」
「それはないと思います。常時発動してればすぐにMP切れを起こしちゃいますし、聖術の上位に位置する≪解呪≫の消費MPは半端じゃありませんから」
うーん……そうか。
「元とはいえ、勇者やった事に代わりはないやろ? その辺りに原因があるんとちゃうか?」
話を聞いてるだけだったエリザが口を挟む。
「勇者だった事に原因が…………あ、勇者魔術」
「……勇者魔術? 何それ?」
「読んで字の如く、勇者が使う専用魔術の総称です。何せ使い手が勇者一人ですから、詳しい魔術の内容はあまり知られていないのです」
……勇者専用の魔術……ねえ。
「へヴィーナは何か知ってるん?」
「そうですねぇ………有名なモノばかりですけど」
「いいわ。私達はその有名なヤツすら知らないから、知ってる限りを教えて」
「わかりました。では最初に一番有名な魔術、≪勇者の雷≫から」
うっわ、おもいっきり中二病をこじらせた名前ね。
「要は雷を発生させる魔術なのですが、雷属性の魔術では最強クラスの威力を持っています。なのに≪弾≫級魔術よりも消費MPが少ないという反則仕様です」
「最強クラスなのにエコって……さすがは勇者」
「それに≪勇者の炎≫と≪勇者の水≫、≪勇者の土≫に≪勇者の氷≫に≪勇者の樹≫」
「ちょ、ちょっと待って。攻撃系は全部頭に≪勇者の≫が付くわけ?」
「はい、そうです。回復系も全て≪勇者の≫が付きますよ」
……絶対に覚えたくないわね、勇者魔術。
「ていうか、エイミアは魔術が使えないんだったわ」
「あ、そうでしたね。≪蓄電池≫のデメリットは魔術が使えない事でしたね」
……良かったわね、エイミア。デメリットもたまには役に立つみたいよ。
「なら何でやろな? 電気の力で解除しとるんかいな?」
……ショック療法か。あり得なくはないかも。
「……今度≪統率≫にかかったヤツがいたら、ヴィーの≪聖雷弾≫で試してみましょうか?」
「構いませんけど……そうそう簡単に≪統率≫にかかった敵と遭遇します?」
……た、確かに……。
「そうね、だったら……」
『……で、ドナタちゃんと私で実験すればいいんですね?』
「そ。薬で電気を起こせるわよね?」
『はい、できます』
後ろでエカテルの念話を聞いていたヴィーが、驚愕の表情を浮かべた。
「く、薬で電気を起こせるんですか!?」
『はい、難なく………って、あの……?』
あ、エカテルはヴィーと初対面か。
「エカテル、こちらはへヴィーナ。私達の仲間で聖術師よ」
「初めまして、へヴィーナと申します」
『あ、はい。私はエカテルです。薬師でサーチさんの奴隷でもあります』
「奴隷って…………サーチ!?」
「そんな怖い目で見ないの。これにはやむを得ない事情があるのよ。またあとで説明するから」
「……わかりました」
「よく無茶苦茶な命令をしとるやんぅげっほう!」
「エリザは黙ってなさい!」
「……サーチ?」
「あ、あはははは………あとからあとから。ね?」
「……わかりました。後からじっっくり聞かせていただきます」
……何かヴィーのやきもちがグレードアップしてるような……。
その後、適当なモンスターをドナタが≪統率≫し、エカテルが微弱な電気を浴びせたが……効果はなかった。
「ありがとう、まったね〜」
『はい、失礼します』
『さーちんばいばい〜』
……さてと。
「ヴィーさん、≪石化魔眼≫をスタンバイして、何で私を睨むかな?」
「それではサーチの査問会を始めます」
何で査問会!?
「まずサーチにお聞きします。何故エカテルを奴隷とするような卑劣な真似をしたのですか?」
「エカテルは元々は敵の捕虜で、私の奴隷とすることで自由が保証されてるのよ。この奴隷契約書に明記されてるわ。そもそも正統王国では捕虜は全員奴隷になる決まりだし」
「そ、そうなのですか? エリザ証人!」
「その通りやで。エカテル以外にも捕虜で奴隷になったんがぎょうさんおる」
「…………サーチ、無罪。これにて査問会を閉会します」
「「まんまーる!」」
ていうか早いな! 私は手を振りながら歩を進める。
「しかし歩きながら査問会なんて初めての体験やったで……」
私もだよ。ていうか、そんな経験者まずいねぇよ。
「う、疑って申し訳ありませんでした!」
「別にいいわよ。実際に奴隷持ちってことで変な目で見られるのは事実だし」
「ま、もう少しの辛抱やな。エイミア救出したら奴隷から解放される契約なんやろ?」
エカテルと奴隷契約をする際に「エイミアを救出する事」を奴隷解放条件にしてあるのだ。
「まあね。エカテルがちゃんと解放条件を達成したんなら、誰も文句は言えないし」
「……サーチはそこまで考えていたのですね……」
「その割にはエカテルの扱いは奴隷以下やなおぐぅっふぉ!?」
「だからエリザは黙ってなさいっての!」
かちんっ
「あ、あれ? 足が石に……」
「……これより第二回サーチ査問会を開会します」
「何でよ!? ていうかエリザ、のんきに拍手なんかしてないで助けなさいよ!」
……どうにかこうにかヴィーをなだめすかして、旅を再開した。
「はあ〜、今日は歩き疲れたわ……」
「まさか一日で越えられるとは思いませんでしたね」
「リジーと行った時は結構かかったんやろ?」
…………へ?
「……あ、いつの間にかサンダカ山脈越えてたのね」
「へ? いつの間にかって……」
「まさかサーチん、山脈越えたの無意識やったん!?」
……………そ、そうみたいね。そういえばやたら足を取られると思ってたけど、何てことはない、新雪の上を歩いてたってことか。
「……そういえば途中でマンマルモに手を振った気がする……」
「「気がするじゃなくて、実際に振ってたから!」」
……まんまーる!
またまたまんまーる!