第十四話 ていうか「ヴィー……そういうのをワーカーホリックって言うのよ……」「……すみません……」
「……ヴィー、一緒に謝ってあげるから。ね？」
「な、何で私がポカした事になってるのですか？」
「それ以外に政治家として忙しいヴィーがここにいる理由がある！？」
ブルルル！
「あ、ちょっと待って下さい。念話です」
……十中八九、お仕事の念話と思われる。
「はい、ヘヴィーナです……あ、侯爵様」
「へ？ ソサエト侯爵？」
「はい、はい……どうやら暗黒大陸へ飛んでしまったようです」
……？
「はい……はい……一度試してみます。≪転移≫！」
て、転移ですって！？
「…………やはり駄目です。この魔道具は一度しか起動しないようで」
ブルルル！
ん？ 私の念話水晶までバイブした？
「はろはろ〜♪」
『はろはろ〜♪ ひっさしぶり、サーチ♪』
「ソレイユか……ってことはヴィー絡み？」
『よくわかったねぇ。へヴィーナは無事にそっちに着いたかい？』
「ええ。今青くなって念話してる」
『それでなんだけどね、一つ頼まれてもらえない？』
「……ことによるわよ？」
『そんなに難しい事じゃないよ。しばらくへヴィーナを仲間に加えてほしいのよさ』
……はい？
「かまわないけど……何でいきなり？」
『実はへヴィーナのヤツ……サーチ達と別れてから、一日も休暇を取ってないらしいのよ』
パーティ抜けてから一日も！？
『でね、国会でも度々問題になってたらしいのよ』
……何やってんのよ、ヴィーは。
『そこで引退したソサエト爺ちゃんが一計案じて、アタシと組んだのよ』
「ソサエト侯爵とソレイユのタッグって……ある意味恐ろしいわね……」
『まあ簡単に言えば、へヴィーナにニセ転送魔道具の実験台になってもらって、アタシがここに≪転移≫させたって感じ』
……読めた。
「つまりは魔道具の暴走でヴィーはここに来ちゃって、当分の間帰れなくなった……ってことにするのね？」
『そのとーり！』
「……二つ疑問。ヴィーがあんたに依頼してきたらどうするの？」
『無論、着信できない状態で通す！』
「……そこは適当に『魔力が欠乏』で通した方が……まあいいわ。二つ目、旅することが休暇になり得るの？」
『あらあら、そんな野暮を言っちゃ駄目よ。ヴィーにとって最高の癒しって……サーチじゃないの』
……はぁ……。
「……わかったわ。しばらくヴィーは預かるわ。でも仕事は大丈夫なの？」
『しばらくソサエト爺ちゃんが代行してくれるって。それじゃ後は、若い二人でごゆっくり〜』
「何言ってんのよ……って、切れたか」
どこのエロオヤジだっつーの。
「……はい、はい。大変申し訳ありません……」
ちょうどヴィーの念話も終わったところだ。
「で、何だったの？」
「は、はあ……実は最新の転字魔方陣の試験をしていたのですが……」
「転字魔方陣？」
「はい。紙から紙に文字だけ転送する魔方陣です」
……魔術版FAXか。
「それを省庁に導入するか検討していて、その試験を行っていたのですが……」
「……何故かヴィーがここに転移してきたと？」
ちょっとこのシナリオ、ムリがありすぎないかい？
「……ていうか、どうするの？」
「魔王様に頼んで戻ります。ご迷惑をおかけしました……どうかしました？」
あはは……裏事情を知る者はリアクションに苦しむ。。
「？ ……それでは魔王様に念話してきます……もしもし、へヴィーナですが」
『……ただいまこの念話水晶は、念波の届かない場所にあるか、魔力源が入っていない為、繋がりません……』
「…………へ？」
念波はわかるけど、魔力源って何だよ。字面からして電源的なこと？
「あの、もしもし！ もしもし！ ………どうしましょう……………あ、女王様なら」
あ、マーシャンも≪転移≫使えたっけ。
「女王様、お願いだから出て下さい………あ、もしもし！ へヴィーナですが……」
『【18禁】！【R指定】！【放送禁止用語】！』
「………………女王様はお忙しいようです」
……マーシャンは昼間っからナニをしてんのよ……。
「ど、どうしよう……仕事は山のようにあるのに……」
「……とりあえずソサエト侯爵にもう一度念話してみたら？」
「…………はい」
……そして十分後。
「……あの、サーチ……しばらくお世話になっても……」
「いいわよ」
「あ、ありがとうございます！」
「で、仕事はどうなったの？」
「侯爵様が代行してくださる事になりまして」
「そう。なら思い切って羽根を伸ばしなさいよ。あんたのことだから、全然休んでないんでしょ？」
「……はい。侯爵様にも『休暇のつもりでゆっくりしてきなさい』と言われました……」
……ここまでしないと休まない人ってのも大変ね……。
「……ヴィー、仕事に打ち込むのは結構だけど、休むことも仕事のうちよ？ 体調崩して周りに迷惑かけるより、ちゃんと定期的に休んだ方がいいと思わない？」
「……はあ……ですけど……」
「何？」
「私の上司であるスケルトン伯爵も全然休まれませんから……」
……あのホネホネ伯爵……！ 念話水晶を取り出す。
『………………はい、スケルトン伯爵』
「勇者が『休まない人は大っ嫌い』って言ってたわよ」
『わ、私はこれから長期休暇に突入します！』
ブツ、ツー、ツー……
「……はい、これで休むようになったわよ」
「い、一国の首相をたった一言で動かすなんて……！ 流石はサーチです！」
いや、ホネホネ伯爵の変な特性を利用しただけ……ていうか、しまった、忘れてた。
「放っておいてごめん。またヴィーがパーティに加わるから」
木の根元に「の」の字を書いていたエリザに声をかけた。
「やっと気付いたん？ 結構寂しかったで」
ご、ごめんなさい……。
「直接会うのは虚空神殿以来ですね。これからよろしくお願い致します」
「あ、ああ。よろしゅう………」
「……？ あの？」
「あ、堪忍堪忍。ウエストほっそい思うてな」
「あら、ありがとうございます。でもエリザもスタイル良いじゃないですか」
「……へヴィーナに言われると複雑やわ……」
確かに。ヴィーはモデル体型でしかも胸は私以上だから。
「でもエイミアの胸には何モノも敵いませんよ」
「「……確かに」」
「それより、これからどうするのですか？ リジーも見当たりませんし」
あ、そっか。来たばっかりだから、事情は何もわかってないわね。
「えーっと実はね、かくかくしかじか」
「？？ ……かくかく……しかじか？ 新たな呪文ですか？」
「……なあサーチん、へヴィーナってめっちゃ真面目？」
「そう……ね。堅物と言ってもいいくらいには」
「成程。冗談は通じへんのやな」
……あ。ヴィーが半目で私達を睨んでる。
「……悪かったですね、堅物で」
「……否定できる？」
「否定できないから怒ってるんです！ 八つ当たりです！」
「……なあサーチん、可愛いなおい」
「激しく同意」
ニュルニュルニュル……ぱくっ
「ひあーっ！」
「……あまりからかうようでしたら、私も黙っていませんよ？」
「うーっ！ うーっ！」
出た、ヴィーのつっこみの一つ、丸飲み。
「ヴィー、ほどほどにね」
「はい。それと、こうしてないと恥ずかしいですから」
「へ？ ……むぐっ」
……久々にヴィーに口を塞がれることとなった。
ヴィーの可愛さに私もクラクラ……ひあーっ！
