第十三話 ていうか、エリザとの二人旅、いきなり最悪な相性の敵と遭遇!?
次の日に私とエリザは出発した。今回は隠密的な行動がメインになるので、馬車は置いていく。つまり。
「久々の徒歩の旅なのであります!」
「……誰に向かって言ってんねん。さっさと行くで」
……エリザのつっこみはさておき、私達が急いでいるのは事実。先を行くエリザの後を急いで追った。
「今さらだけど、ホントによかったの、エリザ?」
「何がや?」
「私に付いてきて。リファリスと離れたくないんでしょ?」
「そらあな。でもリファリス様のお側にいるばかりが、ウチの仕事やあらへん。時には離れた場所で働くんも必要な事や」
…………へえ。
「あんたも成長してるのねえ。エライエライ」
「わっ! な、何や、人の頭を急に!」
思わず頭をナデナデしてしまった。照れたエリザが私の手から逃れる。パーティの中では三番目に低いのがエリザなので、二番目に背が低い私の手でも届くのだ。
え? 一番低いのは誰だって? ドナタに決まってんじゃん。
「あーあ、折角綺麗にセットしてたのに……」
「ああ、ごめんごめん。なら私がまとめてあげよう」
「な、何か嫌な予感が……」
キュッ!
「イデ!? イダダダダダダ!!」
「我慢我慢……ホイホイのホイっと!」
「アダダダ……痛い言うとんねん!」
「へ? まだ痛い?」
「え………あ、もう痛くなかったわ」
ポニーテールからの三編み仕様、完成。
「あんたもかなり伸びてたから、これでスッキリしたでしょ?」
「ん………おおきに」
「ゆぁうぇるかむ! じゃあ急ぐわよ。今夜のうちにはサンダカまで進むんだから!」
「わかったわかった」
目指す帝都オキロまでは相当距離がある。まずは第一の障壁、サンダカ越えが待っているのだ。
人目を避けながらの旅なので、必然的に道ではない場所を進むことが多い。それはすなわち。
「うりゃ!」
ザスッ!
ゴアアアアッ!
……当然、モンスターとの遭遇率もあがるわけで。
「こっちのブラックフットは片づいたわよ」
脚が黒く変色しているのが名前の由来らしい、リザードの上位種をやっと全滅。
「三盾流、独楽の舞!」
ごばばばばっ!
ギェアアアァァァ……! ズズゥン
「……ふぅ。ウチもフォレストドラゴンを倒したわ。まさかドラゴンが襲ってくるとは」
……何だかんだ言ってもエリザは強い。一人でドラゴンを倒すくらいなんだから。
「ブラックフットの足は私が集めるから、エリザはフォレストドラゴンを解体しててよ」
「そやな。ドラゴンの肉は美味いし」
ブラックフットの討伐証明部位は、まさに黒く変色した脚だ。ゴブリンやオークばっかりだったから最近は剥ぎ取りをサボってたけど、流石に懐が寒くなってきたので、ちゃんと売れる箇所は剥ぎ取る。
「え〜っと、肉は硬くてムリ、使える素材は牙と爪と尻尾の先か……これは楽勝ね」
手早くブラックフットの剥ぎ取りを終了する。早くエリザを手伝ってやらないと。
「どう、エリザ? まだかかりそう?」
「いんや、大体終わったで。フォレストドラゴンの肉は毒があって食えんそうや」
「え、そうなの?」
剥ぎ取りガイドブックのフォレストドラゴンのページを開くと………あ、ホントだ。
「討伐証明部位の角、素材になる爪、牙、逆鱗は採取したで」
「……よし、ブラックフットはともかく、フォレストドラゴンは焼いちゃいましょ」
ドラゴンゾンビになられたら、もっと厄介だ。
「よっしゃ、なら焼くでぇ……≪火炎放射≫、フルパワー!」
ゴオオオオッ!
フォレストドラゴンが焼けていく匂いを嗅ぎながら、剥ぎ取りガイドブックを見ていると……あれ?
『注意! ドラゴン系を焼却する場合は、ブレス系の炎を浴びせると≪ブレス吸収≫のスキルがある為、逆効果となる』
……な、何ですとぉ!?
「エリザ、ストップ! ≪火炎放射≫はマズいみたいよ!」
「そ、そうらしいな……」
……へ?
「よ、ようわからんけど……これってドラゴンゾンビちゃうん?」
……うあ……ブレスを食らって、ゾンビ化が促進されちゃったみたいね……。
ボゥアアアアアアアア!!
「ヤ、ヤバいヤバいヤバい!」
完全にゾンビ化しちゃったあああ! B級モンスターのフォレストドラゴンが、A級のドラゴンゾンビに進化しちゃったあああ!
ボゥアアアアアアアア!!
「に、逃げるわよ! あれは≪腐敗の息≫、問答無用でゾンビにされちゃうわよ!」
「ぎゃあああ!」
全速力でブレスの射程から離脱すると。
ブオオオッ!
数秒後には私達のいた場所は汚染された。
「うっわ、臭い!」
……強烈な口臭とも言える。
ムクッ
ズルッズルッ
「あ、≪腐敗の息≫を受けたブラックフットが立ったで!」
げえ! 倒したブラックフットまでゾンビ化した!
「に、逃げた方がええんちゃうか!」
「何言ってんのよ! こんな災害級のモンスター、放っておけないでしょ! ヘタしたら腐敗島の二の舞よ!」
腐敗島ってのは、ドラゴンゾンビを放っておいたがために、島全体がゾンビに占拠されちゃった島だ。今では聖術によって封印され、立入禁止になっている。
「そ、そやな。暗黒大陸を腐敗大陸にするわけにもいかへんし」
でも……どうしよっか。あのブレスを何とかしないと、近距離戦闘が専門の私達には分が悪すぎる。
「大砲も弾切れのまんまだし……」
「あ、炸裂弾があるやん!」
「あのねえ、こんな密林で炸裂弾なんか使えば、あっという間に燃え広がるわよ?」
いくらゾンビを倒せても、山火事起こしちゃ意味がない。
「な、ならどないすんねん!」
……仕方ない、一旦退いてエカテルの薬攻撃に期待するしか……。
………ぅぅぅうううん!
「ん?」
カッ!
光が……! 広がって……!
ボゥア!? ボゥワアアアアアア!!
「な、何や!? ドラゴンゾンビが苦しんでるで!」
ゾンビ化したブラックフットが粉々に砕けていってる。これは……!
「せ、聖術……?」
「その通りです。止めの≪聖々球≫!」
ズゴオオオン!
ボゥアアアアァァァァ………
ド、ドラゴンゾンビも浄化されて塵になっていく……。
「こ、これだけの聖術、間違いない。援軍で駆けつけてくれたんだ!」
「……お久しぶりです、サーチ」
「久しぶり、ソレイ……………ヴィー!」
……満面の笑みを浮かべていたヴィーは、みるみる膨れていった。し、しまった……。
「……今、魔王様と間違えましたね? そうですよね?」
「あ、あはははは………ごめんなさい!」
「……ふふ、冗談です。怒ってませんよ。それより!」
ヴィーは駆け寄ってきて、私に抱きついた。
「……サーチ、会いたかったです……」
「……ヴィー……」
「……サーチ……」
……みしみし
「ちょい待ちちょい待ちストップストップ! 骨がみしみしいってるって!」
めきめきめき!
「ヴィー死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!」
「……あ、失礼しました」
ヴィーのハグからようやく解放されて、空気をむさぼる。ち、千切れるかと思った……!
「えっと……久しぶり、でええかいな?」
「はい、お久しぶりです、エリザ。それより話し方がおかしくありませんか?」
「それがエリザの地なのよ……ていうか、何でヴィーがここにいるの?」
すると、ヴィーは視線を泳がせた。何かポカしたな……。
ヴィー、再登場!