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第三話 ていうか、初めてのあれ。

 ステータスの極振りを始めて五年……ちょっとやり過ぎちゃったかなあ……って感がある。


 『素早さ』は伸びた。というより伸びすぎた。『力』の約二十倍という異常な数値。完全な瞬発力バカと化している。

 例えるなら、孤児院の院長先生への肩叩き。男の子のそれだと、ちょっと力が入り過ぎらしく、結果的に痛い。

 それが私の場合は一発の衝撃はほとんど無い。院長先生曰く「触ったかもわからなかった」らしい。ただ『素早さ』能力フルオープンの高速肩叩きに切り替えると、超音波振動器のような状態になるらしい。

 結果、不思議な気持ち良さ。

 但し『体力』も低いので、持久性は皆無。超電池喰いのバイブレータとなった。


「……少し路線変更。『体力』も上げよう。戦ってる最中に酸欠で倒れかねないし」


 そして、もう一つの課題は、全く得体が知れない魔術だ。孤児院の屋根裏部屋に、なぜか何冊かの魔法の入門書が隠してあったので、それで調べてみた。

 スキルとして表示される≪魔法の素質≫には強、中、弱の三種類がある。それぞれが表しているのは魔法の強弱ではなく、範囲を示しているそうだ。

「強」の場合は稀なスキルで、この世界にある魔術のほとんどを修得可能だそうだ。羨ましい限りだけど……まあ当然努力は必要だろうけど。

「中」は一般的。普通の基礎的な魔術やその上位魔術、もう少し頑張れば最上位魔術も一つ二つくらいならイケるらしい。羨ましい。

 さて、私も含まれる「弱」なんだけど……まずいないらしい。貴重度だけは「強」の上を行く。で、修得可能な魔術はだいたい一つ。多くても二つ。何を覚えられるかは運次第。だいたいは生活に使えば便利、くらいの魔術だそうだ。

 私が何を覚えられるかは全く未知数だ。一番確実に調べられるのは、鑑定魔術なんだけど……孤児院の先生でできる人はいない。何の魔術が修得可能かわからない限り、練習のしようがいのが現状だ。

 ていうか、間違いなくハズレスキルだ。やはり体術をメインで考えないとダメそうだ。



 そんなある日、私の周りで変化が起きた。



 まあ、言い方は極端だけど私にとっては重要なことだ。

 起きた変化は二つで、私が初めて院長先生の調理の手伝いをしたときのことだ。


「さーちゃん、リンゴの皮剥きできる?」


 だから、さーちゃんじゃないんだけど……。


「……やってみる」


 包丁を持って皮剥きを……ていうか、ちょっと待って!


「院長先生! 何、この包丁! ボロボロじゃないの!」


 ううー! 元の職業柄、刃物の粗雑な扱いが許せない……!


「あら、そうなの? なんでさーちゃん、そんなことわかるの?」


「え、だって……こんなに切れ味鈍ければ」


「お料理したことないのに?」


 ギクッ!


「……ていうか、先生。こんだけ刃こぼれしてれば誰でも気づきますって」


「あー……確かに」


 ふぅー……危ない危ない。


「砥石ないですか? 研ぎましょうか?」


「無いわ」


「じゃあ他の包丁?」


「無いわ」


「果物ナイフ?」


「無いわ」


 ……生活感なさすぎでしょ!


「あ、あの……何か刃物は……」


「伝説の勇者が使っていた聖剣なら」


「ダメです!」


 何でそんなものあるのよ! ていうか、孤児院ごと真っ二つだっつーの!


「も〜冗談よ〜」


 イライライライラ。


「あーもー! 何で包丁が無いのよ!」


 どんだけ孤児院貧乏なのよ! そうよ、こんな包丁さえあれば……!


 ブゥン


 ……て、あれ?


「なんだー。さーちゃん、新しい包丁持ってるじゃない」


 あ、あれ? いつの間に? ていうか、いつから持ってたの、私……。


「これでできるわねー。その包丁少し見せてもらえる?」


「あ、はい」


 と言って渡した瞬間。


「あら?」


「!?」


 突然、包丁が消えた。


「あらあ、おかしいわねー?」


「ほ、包丁どこへいった?」


 包丁をイメージして探す。すると、また右手に包丁がある。

 ……何度繰り返しても結果は同じだった。


「あらあらー。少しだけ魔力の痕跡があるわね」


 孤児院で一番の魔術の使い手である(意外だけど)院長先生が言うのだ。間違いないだろう。


「これが……私の魔術?」


「何もないはずなのに、刃物が現れる……『この身体は剣で出来』 「先生! 院長先生! それ以上はダメ!」……はいはい」


 何か色々ヤバい気がするからやめて!


「しばらくは包丁を練習してみなさいねー。なんていう魔術かは私が調べてみるわー」


「……はい!」



 私の魔法の手がかりが見つかったことが、一つ目の変化。

 で、もう一つは。

 ふっふっふ……バストサイズがあがったのだ。

 ……はない。まだ。

 あーそうだよ! どうせ夢だったよ! 目が覚めて触っても真っ平らの洗濯板だよ!


「見てなさいよ! 必ず理想のカップにたどり着いてみせる! 私は私自身の歴史を動かすのよおおお!」


「ねえ、せんせー。さーちゃんがおひさまにむかって、なんかさけんでるよー?」


「……そっとしといてあげようね?」


「はーい! さーちゃんがんばれー!」


 ………むなしい。

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