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第二十一話 ていうか、暗黒大陸にも○○館はあった!?

 山脈を抜けてすぐ、街道が始まる辺りに寂れた宿場町があったので、とりあえず一休みすることにした。


「……ほとんど廃墟ね。人がいるのかしら?」


「一応警備隊がいたから、いる事は確か」


 入口の側でグースカ寝てた爺さんのこと? 確かに警備隊の格好はしてたけど。


「……お。その角にある洋館から人の気配がする」


「あ、看板が………『奈々鳴館』? 旅館みたいだけど、ナナメイカンって読みかな?」


 鹿鳴館のパクりかよ。ていうか、○○館シリーズの最新版?


「ま、まあいいわ。入ってみましょ」


 とりあえず戸を開け……開け……あれ?


「……開かない」


「え? ……あ、本当だ。えい! えい!」


 カギが閉まってるってより、ただ単に立て付けが悪いらしい。リジーが力を込めれば、少しずつではあるけど開いていく。


「リジー、ちょっとごめんね……すいませーん! 誰かいらっしゃいませんか? すいませーん! ……って、うわ!?」


 戸を開けたら、中には様々な鎧が並んでいた。立て付け悪いのって、鎧の重量が原因じゃね?


「…………はいはーい」


 あ、いた。


「すいませーん、一泊したいんですけどー!!」


「……はいはーい! 今すぐに行きますので!」


 ……? 奥からは金属をぶつかりあわせるような音が響いてくる。


「す、すみません。もう少しで到着しますので……」


 ……ズシン、ガチャガチャ ズシーン、ガチャガチャ


「サ、サーチ姉。一体何がいるの?」


「わ、わかんない。返事ができるんだからモンスターではないと思うけど」


 ズシン、ガチャガチャ! ズシン、ガチャガチャ!


 お、おいおい。震動で建物が傾いてないかい?


「お、お待たせしました。鎧の装着に時間がかかっちゃいまして……。ようこそ『奈々鳴館』へ!」


 …………出てきたのは、中世ヨーロッパではよくある、重量感たっぷりの全身鎧だった。



「こ、こちらになります。ひぃ、ふぅ」


 ……必死に私達の荷物を持とうとするけど、金属のお腹がつっかえて手が届かない。


「うぅん、うむむむむむむ……! う、うわあ!?」


 必死に伸ばしていた手は空を切り、バランスを崩してそのまま前のめりに倒れていく。


 どんがらがっしゃあああん!


 昔ながらの擬音をたてながら、鎧はうつ伏せに転がった。


「「…………」」


 私達が何も言えなくなってる間、鎧は手足をバタつかせていたけど、やがて疲れたらしくカシャンと下ろした。


「……お客さん……先に行っててください。二部屋先にある『草原の間』になります……」


「……どうする?」


「先に行けと言ってるんだから、先に行っていいと思われ」


 リジーの意見を採用し、私達は奥へ向かった。背後で「ふんぬ!」だの「ぬおお!」だのかけ声が聞こえてきたけど、たぶん立とうとしていると思われた。



 ……廊下に無意味に並ぶ鎧、ジャマ。


 ガラッ


「あら、意外と悪くないじゃない」


 落ち着いた洋館の外観と同じく、室内も落ち着いた洋風テイストだった。ただ鎧が余分なだけで。


「……掃除も行き届いてる。文句なしと思われ」


 ゴロゴロゴロゴロ!


 内装に見入ってると、廊下を何かが転がってくる音がした。


「ま、まさか……」


 気になって戸を開けてみると。


「う〜! う〜!」


 どうやら転がって移動してきたらしい鎧が、再び立てなくなってもがいていた。


「…………」


「あ、ありがとうございます!」


 見てられなくなった私は、鎧が立つのを手伝ってあげた……ていうか、メチャクチャ重いな!


「……あんたが女将?」


「は、はい。私が女将のアマコ・ヨロイーナです」


 アマコって……鎧っ子(アーマー子)の略?


「あの、アマコさん。鎧を脱げばいいのでは?」


「よ、鎧を脱げと!? も、もしかして私の身体が目当てで!?」


 ちげえよ。


「そういうことじゃなくて。こんな狭い室内で鎧着てれば、ただ単に移動しにくいだけじゃないかと」


「そ、そういえば通れない箇所が幾つか……ま、まさか鎧が原因だったのですか!?」


 気づいてなかったのかよ!


「だから脱いだ方がいいですよ。何だったら脱がすの手伝ってあげますから」


「え、いや、あ、あん、いやあ……痛!」


「変な声を出すんじゃない! リジー、この鎧女を剥いちゃうわよ!」

「ガッテンだ!」


「え、本当に待っ、いや、いや、あ〜〜れ〜〜!」


 あ〜れ〜は着物だよ! 鎧じゃクルクル回りようがないでしょうが!



「うう、見ないで。見ないで下さい〜!」


「「…………」」


「な、何ですか!」


「いや……」

「その……」


「何が言いたいんですか! 早く言って下さい!」


「「……鎧脱いだ方が、お客さん増える」……と思われ」


「え!? えええ!?」


 はっきり言っちゃえば……ロリコンが見たら鼻血を出して突進するような、超ロリロリ美少女だった。


「な、何であんたみたいな子が、あんな厳つい鎧を着てたわけ?」


「わ、私の前の彼氏が、この鎧が似合うよって言うから……」


 どんな好みの彼氏なんだよ! ていうか、別れて正解だよ!


「で、あんたはこの旅館を繁盛させたいの!?」


「は、はい。当たり前じゃないですか!」


「なら服装代えろ! 鎧は全部捨てろ! 自分の容姿を活かせ!」


「え? え?」


「ああもう、めんどくさい! あんたの持ってる服を全部出せ!」


「え? え?」


「リジー、あんたは無意味に廊下を占拠してる鎧を全部集めて!」


「うぃ!」


「え? え?」


「あんたはこっちに来るの! 服を組み合わせて、何とかそれらしい格好にしないと!」


「え、ちょっと! ちょっとおおお!」



「……あ〜、疲れたなあ……」


「この町、本当に旅館あるのか………お、あれ! 灯りだぜ! 助かった!」


「えっと、『奈々鳴館、新装開店!』か。行ってみるか」


「おお、洋風テイストに溢れる良い外観じゃん。すいませ〜ん!」


 ガラッ


「い、いらっしゃいませ……痛い!」


「違うでしょ!」


「あ、そうでした。お帰りなさいませ、ご主人様!」


「「…………は?」」


「お、お風呂になさいますか? お食事を先になさいますか?」


「あ、えっと……」

「お、お風呂から……」


「ではご案内致します」


「「は、はい……」」


 何故かいっぱいあったメイド服を胸ガバッ、スカート短めにしてみたけど……男達の反応は上々ね。



 カポーン……


「「…………」」


「ご主人様、お湯の加減は宜しいでしょうか?」


「「は、はい! 大変結構でございます!」」


「何でしたら背中をお流し致しますが?」


「「っっぜひっっ!!」」


 ゴシゴシゴシゴシ


「痒いところはございませんか?」


「「だ、大丈夫です!」」


 ゴシゴシゴシゴシ


「お、おい……」

「あ、ああ……」


「「ここ、最高……!」」



 こうして世界初のメイド旅館は、口コミがどんどん広がっていき、やがて暗黒大陸No.1の旅館へと成長していくことになる。アマコは私の助言に従って執事旅館もオープンし、こちらは女性冒険者に大好評となる。

 ……ただし「兜と鎧は鍋や器として再利用します!」と言ってきかないアマコの意見が採用され、お膳の器一式が鎧の部品という謎仕様になった。


「……あ、ジンギスカン鍋の兜風、おいし」


「……兜が鍋って……ていうか、なぜにジンギスカン鍋?」


裏設定で、奈々鳴館は傾いてるので奈々鳴館、というのが名前の由来。

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