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第二十話 ていうか、順調な登山が一転、遭難の大ピンチ!

 山を下り始めたころには天候も回復し、少しだけ進みやすくなった。


「う〜ん……ホタルんの光じゃ限界があるなぁ……リジー、先は見える?」


「ここから100m先は崖になってる。ただ少し左に逸れれば、歩いて下れそうなルートがある……と思われ」


「よ、よく見えるわね」


「どうやら≪赤外線視力≫を覚えた模様」


 マジで!? ていうかリジーの身体ってどうなってるの?


「……≪赤外線視力≫もモンスター限定スキルよね?」


「細かい事は気にしない、気にしない」


 ……まあいいか。≪赤外線視力≫があれば便利なのは間違いない。モンスターや人間相手なら気配や空気の流れで大体はわかるけど、地形には気配なんてあるわけないから……結局視覚頼りにならざるを得ないのだ。


「じゃあリジー、あんたが先頭でお願い。足元が危険なら事前に教えて」


「畏まって候」


 登山は登るときより下りるときの方が遭難が多い。十分に注意していかないと。



 それから五時間ほどかけて慎重に山を下り、麓で一泊した。朝になって、リジーが簡易護符(シンプルアミュレット)の燃焼石の交換をし出したとき、事件は起きた。


「……? あれ?」


「どうしたの、リジー」


 ビキニアーマーを磨いてる私の後ろで、リジーがかなり焦った表情で何かを探している。


「ない……ない……ないぃ!」


「落ち着きなさい。何がないのよ?」


 真っ青な顔をして、リジーが呟いた。


「ね、燃焼石が……」


 燃焼石がって、まさか……!?


「な、ないの……?」


「う、うん……」


 ……燃焼石がないってことは、暖房がなくなるってこと。防寒具も濡れちゃって使えない状態だから、燃焼石なくなる=遭難…………どうしましょ。


「ま、まあ大丈夫よ。私のがまだ残って…………………あ」


 ……さっき交換したヤツで最後だった。


「ま、まあ私のヤツは交換したばっかだから、効果範囲を最大に広げて、その中を二人で歩けばいいじゃん」


「……フル稼働で、燃焼石はいつまで持つだろうか?」


 ……そ、そうね。効果範囲最小で二日間くらいはイケたから、その範囲の十倍となると……。


「よ、四時間くらい……」


 ……ボツ。


「なら私の燃焼石を割って、リジーの簡易護符(シンプルアミュレット)にセットすればいいわ。効果範囲を最小にして使えば、理屈上は一日はもつはず」


「それが一番現実的と思われ」


「ただ……エリザに聞いた話だと、ホロホロ山から山脈を抜けるまで、大体150㎞はあるはずだから……」


 かなりギリギリの行程……ね。


「……時間が惜しいわ。朝ご飯は歩きながら食べるようにして、少しでも早く出発しましょ」


 ビキニアーマー磨きを止め、散らかした荷物を魔法の袋(アイテムバッグ)に放り込んだ。



 ザクッザクッザクッ


 お、思った以上に先に進めない! 雪が深いぃ!


「シ、簡易護符(シンプルアミュレット)の熱で雪を溶かせないって、かなりキツいわね! あ、足を取られる……!」


「サーチ姉、任せて。≪火炎放射≫(ファイアブレス)


 ゴオオオッ!


 リジーの炎が一瞬にして辺りの雪を溶かした。


「ナイスよリジー! この調子で雪を溶かしていけば、何とか時間内に山脈地帯を抜けられるわ!」


「……そう。だけど……」


「な、何?」


「ずっと≪火炎放射≫(ファイアブレス)を吐き続けるのは、ちょっと……」


 あ、それは流石にキツいか。


「じゃあ最低限の道を作ることは?」


「それくらいなら、まあ……」


「お願い、何とかがんばって」


 燃焼石の調達を忘れるなんて、致命的なミスだ。今度から気をつけないと……。


「それも今回の苦境を乗り越えてからの心配だから、何としてもサンダカを越えるわよ!」


「ん、頑張る!」



 ……二時間後。


 ゴオオオ……プスッ、ボフッ


「ケホ……ゴホ……も、もう喉が……」


「はい、ポーション」


「ゴクゴク……ぷはあ。うん、大丈夫。まだいける」



 ……三時間後。


 ゴオオオ……ボフッブスブスッ


「ゲホゲホ……も、もう無理……」


「はい、ポーション」


「さ、流石にポーション飲んでも」


「はい、ポーション」


「……は、はい。ゴクゴク」


「いける?」


「はい、いきます」



 ……四時間後。


 ゴオオオ……ボフン、ボフン


「ゲーホゲホゲホゲホ!! う、うぇぇ……」


「はい、ポーション」


「ゴホゴホゴホ!」


「……えい」


「ごぼ!? がぼがぼがぼ!」


「もう一本」


「ゴクゴクがぼがぼゴクゴクがぼがぼ!」


「……しゃべれる?」


「ケホケホ……な、何するのよ!」


「しゃべれるわね? ならまだいけるわね!」


「え、ちょっと待っ」


「ほらほら、キリキリと≪火炎放射≫(ファイアブレス)しなさい!」


「うわあああん!」



 ……五時間後。


 ゴオオオ………プス、バタッ


「ちょっとリジー、何で倒れてるのよ」


「…………」


「リジー? 起きなさいよ」


「…………」


「さーて、リジーの強制ストリップを念話ネットで生中継」

「止めてっっ!」

「あ、起きた。はい、ポーション……あれ? ポーションがないわ」


「……ホッ」


「仕方ないわね、はい薬草」

「え? 薬草って……」

「食え」

「は、はい……パリパリうぇ!? に、苦い!」

「食え」

「に、苦すぎるって!」

「食え」

「だから……」

「食え」

「……は、はい……」



 ……そして、歩き続けて十二時間。


「……やった! 雪のエリアを抜けたわよ!」


「ゲホゲホゲホゲホ! ゴホゴホゴホゴホ!」


「ありがとうリジー! あんたのおかげで凍死せずに済んだわ!」


「ゴホゴホゴホゴホ! ゲーホゲホゲホゲホゲホ!」


「……ちょっと、大丈夫?」


「ゲホゲホゲホゲホ!」


 ……仕方ない、とっておきのヤツを。


「リジー、これ食べれば確実に回復するから」


「ゲホゲホゲホゲホ……ゴホ?」


「新大陸だけに生息するエーテルヤモリの干物」


「ケホォ!?」


「それとケアセミの幼虫から生えた冬虫夏草。超貴重品よ」


「ゴホォ!?」


「ほらほら、食べなさい。遠慮はいらないから」


「ゴホゴホゴホゴホ!」


「何で後退りしてるのよ。この二つ食べればエリクサー並みの効果があるのよ?」


「ゴホゴホゴホゴホ!」


「涙目で逃げたってダーメ。喘息で呼吸困難になるよりマシでしょ」


「ゲーホゲホゲホ!」


「ああもう、めんどくさい。なら強制的に食わせるのみ!」


「ゲホゲホゲホゲホ! ゴッホゴホゴホ! ゴホォ! ゴホホ………………うわあああああっ!! にっがあああああい!」


「ほらほら、次は冬虫夏草よ!」


「う、うぇぇ! 不味い不味い不味いいいい!」


「ほら、噛みなさいっての!」


「あ、足の感触が! 歯応えが! いやあああああああああっ!!」



 こうして私達は、致命的なミスから陥ったピンチを無事に脱することができた。ただ……。


「もう嫌! ポーション嫌い! 薬草嫌い!」


「イモリとセミは?」


「もっと嫌ああああああっ!!」


 ……リジーの嫌いなモノが四つ増えちゃいました。

サーチ、いつか刺されるぞ。

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