第十七話 ていうか、久々にあいつから念話。その話の内容は、衝撃的なモノだった。
「じゃあ乾杯!」
「「「かんぱーーい!!」」」
……私達の背後で、リファリス達の陽気な声が響き渡った。
ちょうど夕ご飯の時間。リファリスは祝勝会を兼ねて、兵士達に豪華ディナーをプレゼントしたのだ。わざわざ近くの町の料理人を連れてきて、しかも大量の食材も買い占めて。行軍中とは思えない規模のモノだった。
ちなみに、全部リファリスの自腹である。いくら貯め込んでいるのやら……。
「ちぇ〜。今回はハズレだったなぁ……」
ちょうど私は見張りの時間が夕ご飯と重なったため、今回は泣く泣く不参加となった。一応そういう人用に料理とお酒は取り分けてあるけど、冷めた料理はやっぱり味っ気ない。
「ふわぁ……やば、眠い……」
陣の中だからそこまで警戒しなくていいんだけど、女性の場合は違う意味で警戒しなくちゃならない。先週も他の女性兵士が被害にあっているのだ。
「……ま、戦いの間に溜まってたから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね」
見張りついでにみんなの分も洗って、いまテントの固定用のヒモに通されている……下着。これがよく被害に遭うのだ。中には使用済みのモノを狙うヤツもいるんだとか。
「……理解不能だわ……」
風にたなびく熊さんパンツを眺めながらごちた。ちなみに熊さんパンツはドナタのじゃなく、エリザのヤツだ。
先に寝てしまったドナタの様子を見つつ、周りの警戒を続ける。今回は私の下着もあるから、絶対に下着泥棒はさせない。
ブルルルルッ
「ん? 着信?」
急いで念話水晶を取り出す。誰からだろ?
「はろはろ〜♪」
『相変わらす変なあいさつだな。元気だったか?』
……リ、リル!?
「ひ、久しぶり! 元気にしてた?」
『ああ。最近全然戦ってないからな、腕が鈍ってしょうがねえよ』
ホントにどれだけ振りだろう。リルからの念話は初めてじゃないかな?
『全然サーチの方から念話がないからよ、私からしちゃったよ』
「あはは……新婚家庭に念話するのは、流石に気が引けるからね」
いやんなシーンに遭遇したくないし。
『変な気を使うんじゃねえよ』
「……あんた、ダンナさんの前でもその口調なの?」
『ああ。「飾らない君が好きだから」……だってさ。きゃ♪』
ぶちん。つー、つー、つー。
………ブルルルル
『……おい! いきなり切るヤツがあるかよ!』
「ただ色ボケしたいだけなら、このまま切るけど」
『あー悪かった悪かった! 実は報告することがあったんだよ!』
報告すること?
「……まさか魔神の情報?」
『ああ。お前に頼まれて調べてみたけど、一部の獣人の伝承に残ってたよ』
「それって、ランデイル帝国の建国時に関わってた裏切り者の?」
『よ、よくわかったなぁ。その通りだ』
以前に聞いた話では、新大陸のランデイル帝国の建国の際、原住民の古人族を裏切った獣人がいたのだ。
『その獣人の伝承によると、魔神は古人族の祖と同一人物らしい』
「古人族の祖?」
『ああ。古人族はその祖一人から始まり、その祖一人によって終わる。そういう伝承なんだと』
………?
「言葉の意味からすると、魔神が古人族を作ったけど、滅ぼすのも魔神なんだ……てことよね?」
『まあ……そうだな』
「……作った本人が作ったモノをぶち壊す? よくわかんないわね」
『ちなみにだがな、古人族は魔神を崇拝しているそうだ』
「魔神を? 〝知識の創成〟じゃなくて?」
『ああ』
……この世界で〝知識の創成〟以外の信仰があるの、初めて知ったわ……。
あ、魔王信仰は除く。
「その獣人達から詳しく話は聞けない?」
『ムリだ。ランデイル帝国が滅亡したときに、とっくに出奔してる』
「何ですって!?」
『ヤツらの屋敷に残ってた古文書に、この伝承が記してあったんだ』
……なら……どこにいったのよ……?
『暗黒大陸に渡る手段がない以上、こっちにいるのは間違いないからな、ギルドを通して指名手配をかけとくよ。どうやらいろんな罪状に事欠かないヤツだったみたいだしな』
「あんまり評判は良くなかったのね」
『獣人の間からはつま弾きにされてたよ』
でしょうね〜。
『それよりも、さ。ほら、見ろよ』
そう言ってリルは突然念話水晶を下に向けた。
「ちょ、ちょっと。突然何よ?」
『ふっふ〜ん♪ この谷間が見えねえか?』
谷間って…………えええ!?
「ウ、ウソ!? 何でそこまで大きくなってるの!?」
わ、私よりデカい!!
『ふふふふ………実はな…………できたんだよ』
…………………は?
「な、何が?」
『ふふ……子供だよ。今ちょうど三ヶ月だ』
「…………は?」
『だから〜……子供ができたんだよ』
「はああああああああ!?」
あ、あんたと別れて……一年くらいか。もうできたの!?
「ちょ、ちょっと早くない?」
『あははははは……がんばったからな』
……リルのヤツ、意外と絶倫だったのね……。
「お、おめでとう。今三ヶ月ってことは、予定日は十月くらい?」
『そんなもんだな』
「……どうよ、ママになる感想は?」
『自覚はまったくねえな。いまだに私のお腹に赤ちゃんがいるってのが信じられねぇ』
「そうねぇ。そういうのは、実際に産んでみないと実感は湧かないからね」
『……何だよ、経験者みたいなこと言うな』
「経験者だから言ってんのよ」
『……………………は?』
「あのね、前世の話よ? 今の世界はまだだからね?」
『あ、ああ、前世か……あーびっくりした』
「ま、案ずるより産むが易しって言うけどね、こればっかりは経験しないとわかんないわよ」
『そ、そりゃそうだよな……で、痛いのか?』
「……………………じゃ、またね」
『っておい!? 肝心なとこでブッチすんじゃねえよ! おおい!』
ぶちん。つー、つー、つー。
「ふう。着信拒否に設定してと……それにしてもビックリしたわ。まさかリルがもう妊娠するなんて……。エイミアのお兄さんも意外と絶倫なのかしらね?」
スピード婚にスピード妊娠。リルらしいっちゃあリルらしいか。
ブルルルルッ
ん? また着信?
「はいはい……はろはろ〜♪」
『もしもし、私ですけど』
「あ、ヴィーじゃない。どしたの?」
『……リルから話は聞きました』
「あ、ヴィーも聞いたの? ビックリよねー」
『はい。確かに吃驚しました。仰天しましたとも!』
「きょ、極端ねぇ……」
『で、誰の子供なんですか?』
「………………は?」
『……ルーデルですか? いや、三冠の魔狼でしょうか?』
「あ、あの? ヴィーさん? 何の話ですか?」
『惚けても無駄です! 私というモノがありながら、男と子供を作るなんて……!』
「はい? ヴィー、リルから何を聞いたの?」
『サーチは出産の経験があるって、リルが!』
な、何を誤解招くような言い方してるのよ、あのバカ!
「違う違う! 妊娠してるのはリルであって、私じゃないわよ!」
『でも出産はしてるんですよね!? 悔しいぃぃぃ! きぃぃ!』
「だから前世の話なんだって!」
『ああもう! 今度サーチに会う時は、メッタメタのギッタンギッタンにしてやるんだからああ!』
「だから話を聞けええええええ!!」
リルのヤツ……! なんつー仕返ししてくるのよ……!
リル、後にヴィーからメッタメタのギッタンギッタンにされる。