第十五話 ていうか、アントワナの最悪兵器、人間爆弾。何か対策が必要よね。
「に、人間を爆破するぅ!?」
エカテルから情報提供されてから、すぐに一発ぶん殴り、身体とビキニアーマーを新品の清洗タオルを三枚使い潰して磨きあげ、リファリスに報告にきた。
「……それよりもさーちゃん。もっと重要な事が……」
「な、何?」
「エリザはあげないからね」
いらねえよ! ていうか、いきなり何の話だよ!
「それより! 人間が……」
「あーはいはい。あたしはそんなスキル聞いた事ないわねぇ」
「……そう……」
戦闘系のスキルに詳しいリファリスでも知らないか……。
「あたしも調べてみるけどさ、エカテルからもっと聞き出した方が早くないかい?」
ぎくっ。
「……ちょっと深ーい眠りになっちゃって」
「はあ?」
ちょっと強く殴りすぎちゃった。てへ。
次の日の朝。エカテルは目を覚ましてなかったけど、昨日のことを聞くために強襲した。
「おっっはよーー!」
「うぇ? ……んきゃっぷ!?」
シーツを引き抜かれた反動で、ベッドの下に落ちる。
「な、何するんですか!」
「とっとと吐けぃ!」
「も、もうあれ以上は無理ですよ!」
「物理的なほうじゃなくて、言葉的なヤツ!」
「は? ……………あ、ええっと?」
「ア・ン・ト・ワ・ナ・の・は・な・し……よ!」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
……チッ。あんまり伸びないわね。
「や、止めてくださいよ! エイミア様じゃないんですから!」
「あれは特殊よ。どっかのゴム人間とタメ張れるわよ」
「は?」
「あー、何でもない何でもない……で? アントワナの秘術、どこまで知ってるの?」
「あ、人間を爆破させる件ですね? 実はあれ、私もよくわからないんです」
「……は?」
「スキルじゃないか、とは前々から言われてました。ただアントワナは統率者ですから……」
統率者関係以外のスキルの習得は不可能……なはず。
「じゃあスキルじゃないってことね。どんなメカニズムで発動するかは知ってる?」
「……いえ。私が知ってるのは、爆破できる対象は≪統率≫している人のみ、という事くらいしか」
「ちょ、ちょっと待って。人を≪統率≫!? モンスターだけじゃないの!?」
「はい。アントワナに限って、何故か出来るんです」
「……ちょっと甘く見てたわね。アントワナにそんな強力な能力があるんなら、相当厄介よ」
つまりは『自分の意思で歩いていける爆弾』が作れるわけだから。
「何か見分ける方法は?」
「一つだけ。爆発する少し前に、身体が不自然に光ります」
そういえば昨日のアサシンは、身体から変な光を放ってたわね。
「……まあ、何の前触れなく爆破されるよりはマシか。他に知ってることは?」
「そうですね……確か爆破の威力は、魔力の量に比例する……とか言っていたような」
「魔力の量? つまりは魔力が火薬代わりってこと?」
「らしいです。ただし、他人の魔力とアントワナ自身の魔力を混合させないと無理らしいですけど」
「……他人の魔力が火薬、アントワナの魔力が導火線ってとこかしら?」
「おそらく」
「……ていうか、何でエカテルはそこまで詳しいわけ? アントワナと仲良かったの?」
「だ、誰があんな女なんかと!」
あ、エカテルが珍しくイラッとしてる。
「……つまり大嫌いなわけね」
「あったりまえです! 誰があんな陰険女!」
「その点は大いに同意するけど、何でそこまで詳しいのか、っていう質問の答えは?」
「……あ、失礼しました。それはですね、私も一時期≪統率≫されていたからです」
……………………へ?
「ちょ、ちょっとサーチさん! 何で離れていくんですか!?」
「だ、だって、急に爆発されたら……」
「もう大丈夫なんです! 爆発は絶対にしませんから、私の説明を最後まで聞いて下さい!」
「わ、わかったわ。エカテル、あんたを信用するわ」
「…………何でオリハルタイト製の盾を?」
「気にしない気にしない。さ、話の続きをどうぞ」
「は、はあ……」
エカテルは組織内では、相当微妙な立場だったらしい。神がかり的な薬師の腕前の反面、戦闘能力は一般人以下。アサシン達からは『無能』と蔑まれ、かなり苛められていたそうだ。
そんな状態で組織に尽くせと言われても、その気になるはずもなく。だんだん組織に対して不満を抱くようになった。
それを見透かしたのか、アントワナはエカテルを監禁し、長い時間をかけて≪統率≫したそうだ。しばらく実験的な任務を遂行させられてから、本格的なデビューとなったのがエイミアへ接近することだったのだが……。
「エイミア様が私に触れた途端、あれだけ強力だった≪統率≫が解けたんです」
「エ、エイミアが触れただけで?」
「はい。自我を取り戻した私はエイミア様に全てを打ち明け、その過程でサーチさん達の事を知ったんです。それでエイミア様をお助けするため、サーチさん達に接近しようと」
「あ、連合王国に捕虜にされるまでの下りはいいわ。今回の件には関係ないでしょ?」
「はい。ただ執拗に私の念話水晶に、アントワナからの着信がありました。私に接触するつもりだったんでしょうね」
「そう、アントワナから接触を…………って、あんた念話水晶持ってたの!?」
「は、はい」
「早く言いなさいよ! ゴールドサンのときとか、ずいぶんと展開が変わってたわよ!?」
「す、すいません。暗黒大陸だと念話水晶は普通に皆持ってますから、サーチさんも知ってるモノとばかり……」
通信産業は暗黒大陸がリードしてたのかよ!
「……あれ? でもあんた、何回か私達から念話水晶借りてなかった?」
「はい。私の念話水晶はアントワナの着信履歴だけで、メモリがオーバーしてます」
怖! 着信履歴だけでメモリ食っちゃうって怖!
「ど、どっちにしても使えないわけね……あ、フリドリは?」
「持ってますけど、多分私と同じように……」
もういいわ! どんだけ暇なのよ、アントワナって!
「ていうか話は戻るけど、何で自分の≪統率≫が解けたことが自覚できたのかしら?」
「操られてる間も私は自我はありました。ただ操られてる自分を見ている事しか出来ませんでしたけど」
「じゃあ操られてる間の記憶はバッチリ?」
「はい、バッチリ」
……なるほどね……。洗脳的なヤツかと思ってたけど、ほぼ身体の乗っ取りか。
「なら安心したわ。もしかしたら再度エカテルが操られるかも、って思ってたけど」
「あ、それはないです。流石のアントワナも人を≪統率≫するには、かなりの時間が必要みたいですし。それに一度解除された人にもう一度≪統率≫をかけるのは不可能みたいですし」
「あ、そうなの?」
「耐性みたいなのが出来るみたいです。私の前でペラペラと喋ってましたから、間違いないかと」
……アントワナ・アーガス……か。エリザに傷を負わせた報い、必ず受けてもらうわよ……!
その頃、リジーは。
「……すやあ……」
……まだ寝てた。
アントワナ、陰険。