第十四話 ていうか、大切な仲間を失いそうになり、エカテルは女として大切なモノを失う?
ずずうううううんん!!
「サーチん!!」
……激しい爆風と、何かに押さえつけられる感触を最後に、私の意識は暗転した。
「…………う……く……イタタタ……」
……たく……予想通りに爆発したけど、これだけの威力は予想外だったわ……。立ち上がろうとして力を込める……けど。
「お、重い……! な、何か乗っかって……!」
「…………な、何や……お、重いなんて、レ、レディに………失礼やで……」
……え?
私は急いで乗っかってるモノから抜け出して、確認すると………っ!?
「エ、エリザ!?」
そこには、背中にヒドい火傷を負って横たわるエリザの姿があった。
「な、何で!? 何で私なんかかばうのよ!!」
「……だ、だって……サーチんは…………ほ、ほとんど……裸同然やん……」
「だ、だからって、私をかばって、あんたがこんな姿に……!」
「…………サ、サーチんに、何かあったら………リファリス様が……悲し…………む………っ」
そこでエリザの言葉が途切れた。
「い、いやあああああああああ! エリザ、エリザアアアアア!!」
急いで脈を調べる………うん、まだ大丈夫。大丈夫……!
「だ、誰か! エリザの治療を! 誰かあああ!」
そのとき初めて、周りに無事な人が一人もいないことに気づいた。
「リジー! リジーはいないの!?」
……返事はない。たぶんどこかに倒れているんだろう。
「…………っ! 誰か! 救護班を! 救護班を呼んでええ!」
……誰も反応しない。
「エ、エカテル! 今すぐ飛んできなさいよ! エリザが! リジーが!」
……当然、エカテルに聞こえるはずもない。
「エカテル! エカテルぅぅぅ!! 今すぐ飛んできなさいよ! あんた私の奴隷でしょ!? 今すぐ飛んできなさい、命令よ!!」
……ひぃぃぃぃ……ひゅん! ザザザザ!!
「……え!? ええ!? えええ!?」
その瞬間、遠くから何かが飛んできて……って、ええ!?
「エ、エカテル!?」
「サ、サーチさん!? 何故、私はこんなとこに!?」
ス、スゲえ命令に忠実だな! 物理法則を飛び越えやがったよ!
「そ、それよりもエリザを! 早く治療して!」
「へ? う、嘘! エリザさん!!」
我に返ったエカテルは、すぐにエリザに駆け寄った。
「ひ、酷い……! 重傷ですよ……!」
「エリザだけしゃない! リジーも、他の人達も……! お願いエカテル、どうか命だけは助けて!」
「あ、わかりました」
………………へ? みょ、妙に返事が軽かったような……?
「……あ、あの? エカテルさん? 何とかなるの?」
「はい」
即答だよ!
「どれだけ怪我人がいるかわかりませんから、半径100mくらいでいいかな?」
「な、何が?」
「では行きます!」
そう言うとエカテルは、大量の薬包を取り出した。
「とうっ!」
エカテルさん、高く高くジャンプしました。
「エカテル流薬術、最終奥義! 粉々とるねえええぃぃぃど!!」
ネーミングにはめちゃくちゃ問題あるんですけど!!
ぶわわわわっ!
エカテルは空中で高速回転し始めた。霧っていうか、煙っていうか何か白いモノが拡散して、めっちゃ粉っぽくなった! ていうか粉なんだけど!
「…………っ……う? あ、あれ? 痛くない?」
ウ、ウソ!? エリザ!?
「い、いてて……あれ?」
「な、何が起きたんだ?」
「い、生きてる……?」
ウソウソウソん!
さっきまで倒れてた人達が、みんな無傷で立ち上がって……!?
ヒュウウン……すたっ
ジャンプしてたエカテルが落っこちてきて、無事に降り立った。
……が。
「……う……」
ばたっ
エ、エカテル!?
「どうしたの!? 大丈夫!?」
急いでエカテルを抱き起こす……って、あれ? 目がうずまき状に?
「……う!」
エカテルが口いっぱいに何かを溜めた瞬間、私はエカテルを離して飛び退いた。
「お、【食事中の方はご遠慮下さい】ーー!」
うっわ汚な!
「お【自主規制】ー! う【表現停止】ーー!!」
め、目を回したのね。そりゃあれだけ高速回転すれば……ねえ。
「な、何が起きたん?」
「エ、エリザ!!」
エリザが視線に入ったとたん、私はおもいっきり抱き締めた。
「サ、サーチん!?」
「バカエリザ!! 危険なことをすんじゃないわよ!!」
「な、何や! 折角助けてやったのに!」
「……ぅぇぇ……ん」
「……あれ? サーチん? ……もしかして……泣いてるんか?」
「な、泣いてな……うわあああああん!」
「サ、サーチん……ごめんな」
「な、何であんたが謝るのよ!」
「……何でやろな」
……周りでは救助作業が始まってるけど、私はしばらくエリザに抱きついて泣いていた……らしい。
「ぅ、ぅぅ……も、もう吐けない……」
あまりにリバースしすぎて脱水状態に陥ったエカテルが、担架で運ばれていった。
「ありがと、エカテル。あんたの捨て身の最終奥義のおかげで、みんな助かったわよ」
……どういう原理で傷が治ったのか、めっちゃ聞いてみたいけど。
「それ以上にエリザ……ありがとね」
「べ、別に大した事はしとらんで……」
「だけど、あんなムチャは金輪際ダメだからね?」
「あーはいはい」
「ダ・メ・だ・か・ら・ね?」
「わ、わかったって」
……さて……と。
「エリザ。あの爆発はどう考えても……アサシン自身が爆発したわよね?」
「そやな。それ意外ありえへんわ」
……爆発する瞬間、あのアサシンを包んでいた妙な魔力。あれは一体……。
……バタバタバタバタ!!
「エリザぁ!」
「あ、リファリス」
「リファリス様!」
「エリザ、大怪我したって聞いたんだけど………あれ? 無事ね?」
……これはナイショにしとく? と視線でエリザに聞くと、少しだけ頷いた。
「……それじゃエリザ、私はエカテルの様子を見てくるから」
……ここは邪魔者は退散、てことで。
「大丈夫、エカテル?」
「は、はい〜……ぐるぐるぅ〜」
……エカテル。あんたのことは私が一生面倒見てあげるわ。女として大切なモノを失ったもんね。
「……それでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
相手のアサシンが爆発するまでの経緯を話した。
「……な、成程……ぐるぐるぅ〜」
「心当たりある?」
「あ、ありますぅ〜……ぐるぐるぅ〜」
ぐるぐるぅ〜はいいから……。
「ア、アントワナの……秘術ですぐるぐるぅ〜」
アントワナの!?
「ねえ、それどういうこと?」
「ぐるぐるぅ〜」
「ぐるぐるぅ〜じゃないわよ! 答えなさいよ、ねえ!」
「ぐるぐるぅ〜……う」
「う?」
「お、【ヤバいよこれは】ーー!!」
「うっぎゃあああああああああ!!」
……その頃、リジーは。
「呪われアイテムいっぱい……うふ、うふふ……」
……戦場の片隅に吹っ飛ばされて、幸せそうに寝ていた。無傷で。
エカテルさん、ガンバ。