第十三話 ていうか、新しい髪型になったら、何故か忍者の集団に囲まれる?
さーて……一休みしたし、もうそろそろ出撃しますか……。
「みんな〜、そろそろ行くわよ〜」
「うぃ!」
「よっしゃ! やったるか!」
「おてつだいおてつだい♪」
……あれ? エカテル?
「どうしたのよ。行くわよ」
「お、お嫁に行けません……しくしくしく」
「お嫁に行けなくても戦場には行けるわよ」
「それに天国にもイケるでがふぅぅ!」
「さっきまでイキまくりぐっふぉぉ!」
余計なことを言うなっつーの!
「ここでジッとしてたって仕方ないでしょ?」
「うう……そうなんですけど……」
「………………命令。戦場へ行きなさい」
「は、はいい!」
エカテルは立ち上がり、スゴい勢いで飛んでいった。
「……じゃあドナタは後方でお手伝いね。私達は前線に行くから」
「うん、きをつけてね!」
ドナタは私にグータッチすると、手を振りながら走っていった。
「……ほな行こか」
エリザに促されて歩き出したとき、念話水晶の呼出音が聞こえてきた。
「ん? 誰からだろ………リファリス?」
エリザがピクンと反応したけどスルー。
『……あ、さーちゃん!? 大変なのよ! すぐに前線に向かって!』
「ちょうど向かってるとこだけど、何かあったの?」
『新手が現れて暴れてるらしいんだけど、かなり強いみたいでね。さーちゃん達で何とかしてもらえないかな?』
……ヘタにそいつらを放っておいて、前線をひっかき回されると厄介か。
「……いいわよ。ただし特別ボーナスを期待しちゃう」
『出しちゃう出しちゃう。ドーンと期待しちゃいなさい』
「あ、エリザは身体に支払ってあげて」
『もっちろんなのさ! じゃお願いね〜……』
「…………よし、まずはそいつらを片づけるわよ!」
そう言って走り出す。
「ちょい待ち」
ごきんっ!
「う゛っ!? な、何すんのよ! 髪の毛を引っ張らないでよ!」
く、首が鳴ったわよ。イタタタ……。
「何でウチだけお金やないねん!」
「え、だって。お金よりリファリスに弄ばれたほうがいいんでしょ?」
「そ、そらあそやけど……まあええわ。ちょい座りや」
「え?」
「いいから座りや!」
いつになく強引なので、私はその場に腰を下ろすことにした。するとエリザは櫛を取り出して、私の髪をイジり始めた。
「?? ……な、何ごと?」
「サーチん、髪がだいぶ伸びたやろ。戦うには邪魔ちゃうか?」
ま、まあ確かに。いつもならとっくに切ってるんだけど、最近は忙しくて背中辺りまで伸びちゃったのだ。
「これをこうして、三編みをぐーるぐる……」
ひ、引っ張られて痛いんだけど。
「こう纏めて……出来たで!」
できたって……鏡がないからわかんない。
「サーチ姉、はい」
リジーが鏡を貸してくれたので見てみると……。
「……シニョンかぁ。ずいぶんと手の込んだ……」
髪の球の周りを、三編みにした髪がぐるっと回って………うーん………分かりやすく言えば、某騎士王の髪型。
「でも動きやすいやろ?」
「……まあ……ポニーテールだど顔に髪が当たったりするけど、これなら心配ないし……」
「ええやろええやろ。ウチの一番好きな髪型なんや」
あんたの個人的好みかよ!
「自分でやればいいじゃない!」
「自分で出来へんからサーチんにやったんや!」
……確かに。エリザは肩に届かない辺りで切り揃えてるからねえ……。
ちなみに、エカテルとドナタも可能だ。普段のエカテルはストレートのロングをそのまま流してる。ドナタはツインテールが定番だ。
「じゃあリファリスにやったら? 癖っ毛だけど髪は長いし……あ、でも金髪じゃないか」
「……何で金髪がええんや?」
あ、しまった。つい某騎士王の印象が……。
「な、何となくよ。それよりリファリスにやってあげたら?」
「……それがなあ……リファリス様、シニョンをごっつぅ嫌がるんや」
「あ、そうなの。なら諦めなさい」
「そやからサーチんにやらせてもらうんや。拒否権はないで」
え〜……まあいいけどさ。
「ええやん。一種のスキンシップやスキンシップ」
「そうだよ、サーチ姉。猿のノミ取りと一緒ぐへぇ!」
エリザの無言の肘打ちによって、リジーは崩れ落ちた。あんた、少しは学習しなさいよ……。
味方の間をすり抜けて、前線へと駆けつける。
「……黒っぽいのが仰山おるな。何やあれ?」
どう見ても忍者にしか見えないんですけど!
「た、たぶんアサシンに近い連中だわ」
「ならエカテル姉のお仲間?」
「その可能性が高いわね。久々のアントワナの手のモノか!」
短剣を作り出すと、さっそく一人目の首を斬り裂いた。
「ぐぎゃあああ……!」
「む、新手か! 散れ!」
残りの五人が散開する。それに合わせてエリザとリジーが追い、私と黒っぽいのの一人だけが残ることとなった。
「……いいのか? お前達の仲間の方が数的に不利だぞ?」
腕から金属製の爪を生やした男が聞いてきた。
「お生憎様。あれぐらいで負けるヤツらじゃないから」
「ふん。随分と仲間を信用しているようだが、あまり我らを舐めないでもらいたいな」
「あら、ナメられてるのがわかってたのね。正確な状況判断よ。誉めてあげるわ」
「……ふん、たかが冒険者風情で、我らに勝てるとでも?」
「勝てるとかどうとかって前に、アサシンが普通に真正面から戦うってこと自体、すでにダメダメじゃない」
「ふっ。我らが単なるアサシンだとでも? 我らニンジャの真髄、とことん味わわせてやるわ!」
あ、ホントに忍者だったんだ。
「必殺、手裏剣ブレイク!!」
…………は?
キイン! ギギイン!
……わざわざ手裏剣投げる前に一言あるって、親切なんだかバカなんだか……。
「ぬ! 我が手裏剣ブレイクを弾いたか! ならば、必殺、毒々玉!」
ぼふんっ!
地面に玉を叩きつけると、紫色の煙が広がりだした。
「……あ、魔術士さん。≪風撃弾≫であの煙を吹き飛ばしてもらえます?」
「え? あ、はい」
ちょうど後ろにいた魔術士さんに頼んで、毒の煙を吹っ飛ばしてもらう。煙は敵側に流れていき……。
「う! げほげほ!」
「ごほごほごほ!」
「く、苦しい……! がくっ」
「あああ!? 我が友軍がああ!!」
……バカだろ、こいつ。こんだけ人が密集してる場所で拡散型の兵器を使えば、味方も巻き込むのが道理でしょうが。
「お、おのれえええ! ならば最終奥義」
ザンッ!
「……え?」
「戦士としては二流。アサシンとしては三流以下よ。同じアサシンとして見てるだけで不快だから、さっさと死んでちょうだい」
「…………無念……ぐぶっ」
心臓を一突きされた三流アサシンは、口から大量の血を吐いて倒れた。
「サーチん、終わったで」
「以下同文」
私の戦いが終了したころ、二人も戻ってきた。ケロッとしてるってことは、そっちもザコだったわけか。
「こんなの寄越すなんて、私達もアントワナにナメられたモノね」
……ていうか、あまりにも手応えが……。何となく気になって死んだアサシンを見てみると、何か淡い光をまとって………って、まさか!?
「みんな、逃げろおおおおおっ!」
私の声に反応できた数人と、エリザとリジーだけが走り出す。それ以外はあっけにとられていた。
私達が近くの沼に飛び込んだとたん。
カッ!
……光が……広がっていった……。
別に次回からサーチが壊れるわけじゃありません。