第九話 ていうか、偶然保護した獣人キッズの団体さんは、それはそれは食欲旺盛なんです。
「がああああああ!?」
ドサッ
突然背後から斬りつけられた男は、苦痛の叫びをあげて倒れる。
「な、何が……ぐふぁ!!」
さらに隣にいた兵士の頸動脈を切断する。
ぐしゅううう……
ハデに散った血によって馬車の幌を赤く染めていく。
「!! て、敵だ! 敵襲ー!!」
ようやく奇襲されたことに気づいたらしく、敵の隊長が大声をあげる。
「……遅いよ」
ザクッ! ドシュ!
「ぎゃ!」「あう!」
隊長の声に反応した二人を先に始末する。さらに背後から襲ってきた兵士の攻撃を避け、足を払う。
「う、うわわ!?」
ばたっ
「えいっ」
ボキィ!
そのまま全体重をかけて首を踏み、頸骨を粉砕した。
「お、おのれ! 女まで殺すとはどういう了見だ!!」
「……女の私が女を殺して、何か問題でも?」
先ほど片づけた兵士のうち、二人は女の人でした。
「そ、それはそうだが……」
「あのね、女だからーなんて言うんだったら、女を戦場に連れてくるんじゃないわよ。戦場じゃ男も女も関係なし。殺らなきゃこっちが殺られるのよ」
「……う……」
「その二人もあっさり殺されたんだから、まだラッキーだったわよ。仮に戦場で男に捕まったりすれば、女としては最悪の展開が待ってるわよ」
それこそボロ雑巾にされて、無惨に殺されることになるだろう。
「……う……うぅ……」
「自分の認識の甘さはわかったわね? じゃあ、さようなら」
ザンッ!
「終わったわよ〜」
残党狩りも二日目になると、ほとんど引っ掛かることはなくなった。今のは本日初の逃亡兵だ。
「おーう。こっちも片付いたでぇ〜」
前方の敵をぶっ飛ばしてたエリザも戻ってきた。そっちの方が数も多かったはずだけど……早いわね。
「エカテルー、もう来ていいわよ」
「はーい」
馭者ってるエカテルが返事をし、草むらからセキトが姿を現した。
「あれ? リジーは何をしてるのよ?」
「二人ほど逃げたので追いかけていきました」
……まだいたのか。
「サーチ姉、片付けたよ〜」
真っ赤に染まった介錯の妖刀を振りつつ、リジーが戻ってきた。
「あぁ、助かったわ。ありがと」
「無問題無問題」
これで全部か。ずいぶんと大所帯だったわね。
「妙に女ばっかやったけど、馬車ん中は何やろな?」
……そういえばそうね。こんな山の中に馬車がいること自体不思議だし。
「逃げるのに馬車なんて邪魔なだけやし」
「とにかく、中を確認してみようか」
中に敵がいないか用心しつつ、馬車の荷台を覗いてみると。
「ひ、ひぃぃ!」
「どうかお許しを!!」
……ちっちゃい檻に閉じ込められた獣人の子供達が怯えていた。
ガツガツガツガツガツ
「「「おかわりー!」」」
マ、マジで!?
「ちょ、ちょっと待ってて!」
て、手持ちのオーク肉じゃ足りないんじゃないかな!?
「リ、リジー! 近場で何か獲ってこれない!?」
「わかった。何か狩ってくる」
リジーが飛び出していくと、入れ違いでエカテルが戻ってきた。
「食べられる果物、採れるだけ採ってきました!」
「食べやすい大きさにカットして「「「そのままでいいよー」」」……前言撤回、ありのままであげちゃって!」
エカテルが果物を置くと、草食系の獣人達が群がった。あっという間に消えていく様は、どう考えても肉食系だ。
「……よし、オーク肉三十人前焼けたよー! エリザ、配ってあげてー!」
「任せとき!」
流石メイド長、配膳はお手のモノ。信じられない枚数を持って移動している。
「ねえねえ、わたしもなにかおてつだいできる?」
ドナタ? うーん…………あ。
「ねえドナタ。≪統率≫でオークだけ集める、なんてできる?」
「できるけど……あつまったおーくをたべちゃだめだからね?」
やっぱダメか。
「な、なら、エカテルを手伝ってあげて」
「はーい」
閉じ込められた獣人キッズはよほどお腹がすいていたらしく、恐ろしい食欲を発揮していた。その中で一番年長で落ち着きがある子から話を聞いた。
「……帝国の奴隷狩り?」
「うん。ラインミリオフ帝国だと獣人は皆奴隷にされちゃう」
「で、重労働でバタバタ倒れていく獣人奴隷の補てんのために、あんた達が拐われてきたっての?」
「うん」
……これは……予想以上に深刻ね。早めにリファリスと合流して、この子達を保護してもらわないと。
「「「おかわりー!」」」
……しょ、食料が……こっちも深刻だわ……。
……次の日。私達はようやくリファリスの本隊と合流できた。
「さーちゃんお疲れ〜。五人で一万の軍を撃破って神業だよ」
「リファリスっっ!!」
「な、何!? 顔が近いって!」
「お願い、あの子達を何とかして……じゃなくって、保護してあげて!」
「へ? 獣人の子供達? ……って、まさか……」
「あの子達は帝国の奴隷商人に捕まってた子よ」
「っ!! ……またか!」
「またかって?」
「あたし達も何回か保護したんだけどね、場合によっては……乱暴されてた事もあってね」
……全く。どこにでもいるのね、その手のクソは。
「一応子供達からの聞き取りで似顔絵は作ってあるんだ。もしかしたらさーちゃんが倒した連中と同じかもしれないから、一応見といてくれる?」
「いいわよ」
リファリスから渡された似顔絵の束を一枚一枚確認していく………ていうか間違いない。
「全員見た。ていうか全員ぶち殺した。エリザは?」
「…………間違いないです。私が葬った者達ばかりです」
「リジー、あんたが仕留めた二人って、これ?」
「……そう。間違いない」
「ていうわけで、私達が大サービスで全員あの世に送っちゃったみたい」
「そっか、手間が省けたわ。一応賞金も懸けられてるから全部あげるね」
賞金!?
「ちょっと待ってリファリス! お金じゃなく現物支給でお願い!」
「現物? 何を?」
「食料!!!」
「………………あぁ、成程ね。食われちゃったか」
その通りです。
リファリス軍の兵糧を供出してもらい、何とか食料を確保することができた。ありがたや〜。
「この子達はどうするの?」
「一旦正統王国に預かってもらって、身寄りのない子はあたしが引き取るわ」
……………はい?
「ひ、引き取るってリファリスが!?」
「そうよ」
「またハーレムを拡張するわけ!?」
「ハーレムじゃないわよ! あれはあたしのメイド!」
「ていうか全員リファリスのお手つきなんでしょ!? ほとんどハーレムみたいなもんじゃない!」
「し、失礼ね! あたしは小さい子には手を出さないわよ!」
「成長してから手を出すつもりなんでしょ!?」
「…………」
おい、否定しろよ。
……数日間、エリザがご機嫌ななめだったのは、言う間でもない。