第八話 ていうか、まるまーる! まるまーる! まりまーりまりまーり!!
「セ、セキト。お願いだからまっすぐ進んで」
ブルヒン!
あらら、完全に拗ねてる。やっぱ目の前で同族の肉を食べたのはマズかったか……。
「どうしたの? むぐむぐ」
「リジーか。ちょっとセキトがね……って何を食べてるのよ!?」
「え? 残りの馬刺し」
ばっどたいみんぐぅぅぅぅぅぅ!!
ブルル……! ヒヒヒヒィィィンン!!
どごおっ!!
「おぐっふぅぅぅ!? …………がくっ」
「う、うわ、大変! エカテル、エカテルーー!!」
「……う〜ん、う〜ん……」
「……絶対安静で……」
……お腹に見事なほどの蹄の痕を作ったリジーは、当分の間使いモノにならなくなってしまった。
「……弱ったわね……リジーは寝込んじゃうし、セキトはますますむくれちゃうし……」
「何でリジーはセキトの前で馬刺しを食べたんや? 昨日の夜のセキトの様子を見てれば、めっちゃ地雷やてわかってたはずやのに……」
そりゃあ、リジーだから……ていうか、んん?
「ねえ、何でエリザが地雷を知ってるの?」
「へ? 普通に知ってるで? 地面埋め込み式雷系魔術、略して地雷やん?」
………雷系魔術なのか。ややこしい……。
「じゃ、じゃあ、地面埋め込み式炎系魔術なら地炎なの?」
「はあ? 何やそれ。地面埋め込み式は雷系魔術しかないで?」
……そうなんだ。まあ、どうでもいいんだけど。
「コ、コラコラ人参?」
何よそれ??
「この辺りで収穫される、超稀少な人参です。人参とは思えない甘さと、どんな傷でも治しちゃう回復作用があるんだとか」
何となく「セキトのご機嫌とりと、リジーの回復に使える薬草ってない?」と聞いたら……そんな都合のいい薬草があったのだ。
「ど、どの辺りにあるの?」
「確か……この近くにバッドシュー湖という湖があって、そこにマンマルモという植物系のモンスターが出ます」
絶対にまんまるいヤツだよな!?
「そのモンスターのレアドロップアイテムだったはず」
レアドロップ!? 勝った!
「んっふっふ。ならリジー同伴でOKね! リジーは呪剣士のマスタースキルの≪幸運な呪い≫を覚えてるから!」
「な、何やて!? ならレアドロップアイテムなんか楽勝やな! ……なんて上手くいくわけないやろ。そのリジーが寝込んでるんやで?」
し、しまったああ!
リジーとセキトをエカテル達に託し、私とエリザはバッドシュー湖に向かった。
「この丘を越えたら……ほら、見えてきたで。あれがバッドシュー湖や」
……ていうか、真っ暗で何も見えないんですけど。
「ならホタルの光を最強にすればええやん。あ、でも湖面に当てたらあかんで?」
「ホタルん、光を最強にしてくれる?」
私の言葉に反応して、ホタルんが光を最高クラスにする。その光が湖面を照らして……。
「あ、あかん! 目ぇ瞑れ!」
エリザの言葉と同時に。
ぴっかあああああああん!
「ま、眩し!? 何なのこれ!?」
「バッドシュー湖の透明度は常識はずれすぎて、光が当たると倍増して乱反射するんや!」
どういう透明度だよ!
「……あ、でも、ちょうど昼間くらいの明るさになったわよ」
「ラ、ラッキーやったわ。湖面に当たる光が強すぎると、目が焼け付くくらいの乱反射を起こすらしいで」
だからどういう透明度なんだよ! そこまで異世界基準なのかよ!
「ま、まあ、おかけでマンマルモを探しやすくなった……わね?」
探しやすくなったというか……湖面に照らし出された、ゆらゆらと揺れる丸い集団が気になるんですけど?
「あ、おった。あれがマンマルモや」
よーく見てみると……緑色の球体に、手と足と目が………ていうか、不動産関係のCMによく出てるアレじゃね?
「あれがモンスターなの?」
「モンスターには違いないけど、まっったく害はないらしいで。逆に捕まえると幸運が訪れるって伝説があるくらいや」
そこだけは現実的なマリモかよ!
「ていうか、あれのドロップアイテムでしょ? 正直倒しにくいんだけど……」
やべぇ。可愛い。
「そう? ならウチが倒してこようか?」
……水辺で踊り戯れるマリモの精を、エリザが盾でべっしゃんべっしゃん……。
「うん。違う手を考えよう」
「そう? なら塩でもぶっかける?」
枯れるわ! あんな可愛いのが茶色く萎れていくの、見たくないわ!
「ならどうすればええねん! 説得して譲ってもらうつもりか!」
「言葉が通じるか! …………って、ちょっと待てよ?」
よくよく考えたら、私の仲間には本職のモンスターがいるじゃないの。
『……あのですね、モンスターだからって言葉が共通なわけじゃないんですよ?』
ダメ元でヴィーに念話してみたけど、案の定ダメでした。
「ていうか、少しやつれたんじゃない?」
『しょ、書類の山が……! 判子押せって迫ってくるんですよ……!』
これはあかん。幻覚が見え始めてるっぽい。
「……ソレイユに救援を頼んどいてあげるわ」
『サ、サーチ! ありがとうございます! 愛してます!』
……何か話が逸れたけど、今度はソレイユに念話した。
『……そりゃ気の毒だねえ……わかったわ、うちの事務方で人間っぽいのを派遣しとくわ』
「ありがと」
『いいのよ〜。へヴィーナはあまり人に頼らないから、何かと溜め込まないか心配してたのよ』
いろいろ溜まってるっぽいわね。再会したら部屋は別にしよう……絶対に。
『それでへヴィーナに何か用だったの?』
「あ〜、うん。実はマンマルモと会話できないかって……それだけなのよ」
『はあ? マンマルモと? あんな無害な連中と会話したいの?』
……ん? そういえばソレイユはモンスターの親玉じゃないの。
「……ソレイユってさ、マンマルモの言葉ってわかる?」
『へ? そ、そりゃあ……一応魔王だしね』
『まーんまるまりまーり?』
「「「まるまーる! まりまーり!」」」
……何だこれ。
『まる? まりまるまーる!』
「まーるる! まーるる!」
「……なあ、あれで通じとるんか?」
私にわかるわけないじゃない。
「まる! まるまーるまーるる!」
『まーるっる! ……おーけい、交渉成立したよ。サーチがムダにため込んでたモンスターの肉と交換してくれるって』
マジで!? 実はモンスターの肉の中には、そろそろヤバいのがあったのだ。
「新鮮なヤツ? 腐りかけ?」
『養分が欲しいから腐りかけがいいって。ドラゴンのもある?』
「ある! ていうか、いろいろヤバい」
匂いとか見た目とか。
『まるまーる!? ……それ最高だ、全部ちょうだい……って』
ををを! まさか腐りかけのドラゴンが役に立つとはあああ!
いい機会だったので古い肉は全部提供した。その結果、百本近いコラコラ人参をゲットした。
急いで持ち帰り、リジーとセキトに与えたら……良好すぎる結果となった。ありがたや、ありがたや。
「サーチ姉、ビキニアーマーの後ろにちっちゃい緑色の玉が付いてるけど、何それ?」
……ん?
まんまーる!