表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
567/1883

第三話 ていうか、谷での攻防、一日目。

「ええい、何を手間取っているのだ! さっさと岩を退かしてしまえ!」


「も、申し訳ございません! ですが、岩が何故かヌルヌルしておりまして、持ちづらく、はい……」


「表面がヌルヌルした岩があってたまるか! 早くしないと敵の背後を突けないではないか! 急げ、急ぐのだ!」


「は、ははー!!」



「お見事よ、エカテル! ご褒美に耳をふーってしてあげる!」


「止めて下さああい!!」


 せっかく誉めてあげたのに、エカテルは全力で逃げていった。あの岩にはエカテルお手製の粘土化薬が振り掛けてあるのだ。効果は文字通り。


「あれだけで相当時間が稼げるわね」


「私の秘薬の一つです。偶然調合できたんですけどね」


 エカテルがなだらかな胸を張っていると、ドナタが叫んだ。


「さーちん、たにのむこうがわとこっちに、なんにんかひとがいるって!」


 やっぱり偵察部隊が崖を登ってたか。


「リジー!」


「任せてくんなまし!」


 すでに弓を構えていたリジーは、連続で矢を放った。ていうか、くんなましって何なのよ。


 ヒュヒュン! ………ドスドス!


 谷の向こう側で何かに刺さる音がし、そのまま崩れ落ちた……っぽい。


「す、凄い! この距離で敵に当てるなんて……!」


「えっへん!」


 私よりある胸を張る。ていうか、あの弓は放てば必ず当たる必中(のろわれ)アイテムですから。


「……なんてつっこんでる場合じゃないか。こっち側には結構な人数が投入されてるみたいね」


 少し先に、コソコソと移動する団体さんがいる。大体……三十人くらいかな。


「……エリザ、私は背後から回り込むから」


「わかりました。私は姑息な手は使わず(・・・・・・・・)、正面から堂々と当たりましょう」


 ……相変わらず私を嫌ってるみたいね、メイドフォルムは。


「……えい」

 キュッ

「はああああああああん! い、いきなり何すんねん!」


「あ、戻った」


「な、何を言うて……あ、ホンマや」


 ……これはいい発見だわ。


「今度からメイドフォルム解除には先っぽ(・・・)を捻ればいいのね」


「……そうみたいやな……で、でも駄目やで!?」


「はいはい。それよりも手筈通りにお願いね!」


「わかったで!」


 やった、ラッキー♪ 関西弁フォルムなら、細かな連係がしやすいわ!



 一度森に入り込み、≪気配遮断≫と≪忍び足≫を発動させる。暗闇にまぎれ込んで、徐々に敵の背後に迫った。


 (ひい、ふう、みい……まずは三人殺るか)


 木の上から敵の団体さんを窺っていた私は、手投げナイフを二本取り出して、一番後ろの敵に躍りかかった。


「んがっ!?」


 後ろから敵の首に脚を絡ませる。そのまま反動をつけて、フランケンシュタイナー!


 ごげぇ!


 男は地面に突き刺さり、そのまま動けなくなった。私の股に挟まれたんだから、本望でしょうよ。


「何者……ぐげっ!」


 物音に気づいて振り返った男の眉間に、ナイフが突き立つ。その間に立ち上がり、もう一本を投げる。これで三人上がり。


「て、敵襲ー!」


 その頃、前方でも戦いが始まっていた。エリザが容赦なく敵をぶっ飛ばし、谷底へ突き落としていく。


「あ、突き落とした方が早いか」


 私も武器を打撃系のトンファーに変え、次々に敵を殴り落としていく。


「う、うわあああぁぁぁ……」

「ぎゃあああぁぁぁ……」


 あっという間に八割を崖の下へ突き落とし、残るは五人となった。


「く、くそおおおっ! こうなったら、お前らも道連れだああ!」


 自棄になった男が何かを取り出す。あれは……炸裂弾!?


「エリザ、耐えて!」

「へ?」


 とっさに羽扇をワイヤーに作り変え、エリザの右足に巻き付ける。


「うりゃあああ!」

 ぐいっっ!

「「「うわわわわわわ!? わああああぁぁぁぁ……」」」


 そのまま崖へダイブし、私の体重に引っ張れた五人はそのまま谷へ落ちていった。


 ………どおおおんん………


 あ、谷底で炸裂弾が爆発した。たーまやー。


「エリザー、とっさだったけど大丈夫ー?」


「は、早く登れや! ウチ、もうギリギリやで……!」


 エリザがどうにか持ちこたえてくれたおかげで、私は落ちずに済みました。感謝感謝。


「んっしょ、んっしょ……ごめんごめん…………あ」


 エリザはマジでギリギリだったらしく、盾の尖った部分を地面に突き立てて耐えていた。


「さ、流石はエリザ。とっさに機転が利くわね!」


「サ、サーチん……もしも丸い盾やったら、ウチも落ちてたで……」


 ……マジっすか。


「……尖った盾、バンザーイ……」


「……一発ど突いてええか?」


 ダメ。



 念のために残党がいないか確認してから、私達はエカテル達と合流した。


「どう? 何か変化はあった?」


「下の人達が怒り狂ってます……多分」


 ……何で?


「……リジーさんが……」


 エカテルが指差すほうを見ると。


「やーいやーい、悔しかったらここまでおいで〜」


「お、おのれええ! 舐めやながってええ!」


「はい、あと3m、3m、3m……で、えい」


 チクッ


「いでえ! って、しまったああ! うわあああぁぁぁ……」


「……ああやって登ってきた敵兵をつつき落としてまして……」


 ……そりゃあ登っていった味方が軒並み落ちてくれば、怒るでしょうね……。


「それで、今まで何人くらい登ってきたの?」


「えっと……もう百人くらいでしょうか」


 がんばりすぎだろ! そこまで意地になって兵を減らすなよ!



「…………ぁぁぁぁああああ!」


 ドサン!


「く、また駄目だったか!」


「将軍、これ以上味方の犠牲を出すのは止めましょう!」


「ならばどうしろと言うのだ!? 岩はヌルヌルしていて、遅々として作業は進まない! 斥候部隊との連絡も途絶えた! ならば崖の上にいる敵を倒す他にないだろう!」


「わかっています。憎き敵を倒すことに異論はありません。ですが、味方を損ねる方法は如何なモノか、と言っているのです」


「だから! どうしろと!」


「要は犠牲が出なければ良いのです。私にお任せ下さい」



「……流石に懲りたみたいですね」


 最後に落としてから三十分。何も反応がない。


「……ねえ、私だったら落ちて死んだ兵士を利用して、ゾンビアタックかますけど……どう思う?」


「その可能性が高いかと」


「今は準備中と思われ」


「やったら今のうちに対策せなな」


「……何言ってんのよ、対策なんか必要ないじゃない」


「はあ?」


 大蝙蝠の子供と戯れるドナタを指差した。



「……そろそろ最初のゾンビが着く頃か」


「ええ。念のために死霊魔術士(ネクロマンサー)を連れてきていて正解でした」


「ふふふ。敵の驚く顔が目に浮かぶわい」


 ……ひゅ〜〜……

 べちゃ! べちゃ!


「うわ、何だ!?」

「さ、さっき登っていったゾンビじゃねえか!? 何で落ちて」


 ザクッ!


「うぎゃあああ!」


 ブスッ! ズバッ!


「ぐああああ!」

「ぎゃあああああ!」


 ひゅ〜〜……べちゃ! べちゃ!


「て、敵襲ーー! 我々のゾンビが、我々に剣を向けて……ぐふぁ!?」


「げ、迎撃! 迎撃せよ!」


「し、しかし、空から降ってきますので……ごぶぉ!!」


「な、何故だ! 何がどうなってるんだ!?」



「はーい、あなたもしたにおりて、したのへいたいさんをぶっとばして」


 登り切ったゾンビにドナタが≪統率≫(ガバメント)すると、ゾンビは頷いてから飛び降りた。


「……そういやゾンビもモンスターやな……」


 モンスターならば、ドナタのお手のモノなのだ。


 ……こうして一日目の攻防戦は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ