閑話 リファリス主催の祝勝会々場にて。
「それでは、歴史を変える勝利に……かんぱ〜い!!」
「「「かんぱ〜い!!」」」
戦いに大勝利した数日後、リファリス主催の祝勝会が行われた。
「うわはははは! 勝利の美酒は最高だのう!」
「これほど不利な状態を覆しての大勝利、見事と言う他ない! 流石は〝血塗れの淑女〟様じゃ!」
「それにしても、リファリス様がご提供してくださった酒の、何と美味たること!」
「それだけではないわい。この料理の数々、豪勢とまでは言えんが、どれも見事なモノじゃわい!」
「この鳥の唐揚げ、サクサク感がたまりませんな〜! わっはっはっは!」
「はて、一体誰が作っているのか……?」
「オーダー! 鳥の唐揚げ二十人前追加!!」
「に、二十人前ぇぇぇ!? わ、わかったわよ!」
な、何で私が厨房に入って料理しなくちゃならないのよ……!
「オーダー! ローストビーフ三十人前!」
「オーダー! 鮭のカルパッチョ二十人前!」
「オーダー! えびふりゃあ四十人前!」
ああああ! どんどん増えていくぅぅぅ!
「あたたたたたたたっ! はい、鳥の唐揚げ三十人前上がり!」
え〜っと、次はローストビーフだっけ。下準備はできてるから、あとは茹でて火を通しておけばOK。カルパッチョ用の鮭を捌いて捌いて捌いて……玉ねぎもトトトトンと。えびふりゃあは衣を付けて油に投入。ああ、フライヤーが欲しい。
「わたたたたたっ! はい、ローストビーフにカルパッチョにえびふりゃあ、それぞれ五十人前上がりっと! ふうっ」
「「「…………」」」
「? ……何よ」
「あ、あの……この城で料理人として働くつもりはありませんか?」
「はあ?」
「酒だあ! 酒を持ってこおい!」
「はーい! 四番テーブルに麦芽酒を大ジョッキで五杯持っていきなさい!」
「はい、エリザさん!」
リファリス様主催の宴ですから、どのような失態も許されません!
「エリザさん、鳥の唐揚げ三十人前出せます」
「あら、少し多いですね。八番テーブルが減りが早いですから、そちらに振り分けて下さい」
「承知しました!」
一桁のテーブルには、比較的若い人達を座らせました。脂っこいモノがメインになるだろう……という私の読みは、見事に的中しましたね。
「エリザさん、ローストビーフに鮭のカルパッチョにえびふりゃあも五十人前ずつ上がりました!」
ほ、本当に早いですね。
「一三番が特に消費が激しいですから、そこをメインに配膳して。残りは均等に一桁テーブルで分けて下さい」
「了解しました!」
「エリザさん、何か余興がないか、と〝血塗れの淑女〟様が」
リファリス様のご要望、想像できない私ではありません。既に手配してあります。
「ドナタに頼んでありますので、至急呼んできて下さい」
「ド、ドナタ様にですか!?」
「お小遣いは渡してあげて下さいね」
「わ、わかりました!」
ドナタは小動物を≪統率≫して芸をさせるそうです。
「エリザさん、また一人酔い潰れました!」
「すぐに医務室へ。放置しておくと見栄えが悪いですし、危険な状態もあり得ますから。ふう〜……やれやれ」
「「「…………」」」
「? ……何か?」
「あの……この城でメイド長として働くつもりはありませんか?」
「はい?」
「すいません、また一人酔い潰れでーす」
ま、またですかぁ!?
「もうベッドは埋まっちゃってますので、とりあえずはそこのソファーへ!」
リファリスさんから「救護係をお願い☆」って言われた時は、何故かと思いましたが……これだけ酩酊する人が出れば納得です。
「すみませんけど、カーペットを集めてきてもらえませんか? あ、それと上に掛けられるようなモノも」
「わかりました!」
まだまだ増えそうですので、仮で寝させられる場所も作らないと……。
「う、うぇっぷ……は、吐きそう……」
危ない! トゲ無し棍棒を取り出して、丸薬を患者さんの口に打ち込みます!
カキーン!
「あぶっ!? ふが、ふががががががが!」
「ええっ!? エカテル先生、患者の喉に丸薬が詰まってますよ!?」
「蓋です!」
「蓋って……息ができないのでは!?」
「大丈夫です。その丸薬は空気草という特殊な草で出来ていますので、呼吸は可能です」
「で、でも凄く苦しそうですよ!?」
「呼吸が出来ても喉が詰まっていれば、誰だって苦しいですよ。丸薬を取れば吐瀉物が溢れ出てきますけど、どうしますか?」
「放置します!」
「でしたら私は酔い醒ましの薬を調合しますので、吐きそうな人がいたら丸薬で蓋してください!」
「「「わかりました!」」」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
トントントントン
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
「出来ました」
「「「早っ!」」」
「ではいきますよ……ふーっ! ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
「ケホケホ……あ、あれ? 気持ち悪くない?」
「あ、あれ? 頭痛くない」
「う、嘘だろ? 酒が完全に抜けちまった!」
「はい、これで大丈夫です。あとはゆっくり休めば「「「また飲めるぜ! キャッホー!!」」」……ってちょっとお!?」
ま、また祝勝会に復帰しちゃいましたよ……。
「はーあ、折角治療したのに……」
「エカテル先生、また潰れちゃった人が!」
「あーはいはい。今ならベッドに余裕がありますから大丈夫です。また吐きそうになったら丸薬をお願いします」
「「「…………」」」
「? どうしました?」
「あの……この城で主治医として働くつもりはありませんか?」
「へ?」
「うわ、こんなに料理が残っちゃって……もったいない」
「あ、私食う」
「うわ、このお酒半分以上残っちゃって……もったいない」
「あ、私飲む」
「ぎゃあああ! ゴキブリがゴキブリがー!!」
「≪火炎放射≫」
「ぎゃあああ! ゴキブリの団体さんがああ!」
「≪火炎放射≫」
「どうするのよ、このゴミの山!」
「≪火炎放射≫」
「「「…………」」」
「……何?」
「リジーさん、この城で便利屋として働くつもりはありませんか?」
「断る」
「さあさあ、じゃんじゃん飲んでじゃんじゃん食べなさい! これは全部あたしの奢りなんだから!」
「「「うおおおおっ!」」」
「勝てば勝つほどに、祝勝会の規模は拡大してくからねええっ!」
「「「…………」」」
「……何かしら?」
「よろしければ、この城で城主として働くつもりはありませんか?」
「城主? そんなみみっちいのじゃなく、この大陸の覇者として働いてあげるわ!」
「「「うおおおおっ!」」」
……暗黒大陸の片隅の、とある城での一夜でした。
いきなりですが、明日から新章です。「血塗れリファリスの大陸制圧記」、始まり始まり。