第二十話 ていうか、何とかリジーと合流できたけど、戦況は圧倒的不利。
「オラオラオラオラ! 退けや退けや退けやあああ!」
ばががががっ!
突進したエリザの盾が、次々に敵のザコを打ち上げる。やっぱり新しい盾は強力らしく、威力があがっている。
「三盾流奥義、独楽の舞!」
がごがごがごっ!
「ぎゃあああ!」
「うわああああ!」
うーん……エリザが強すぎるのか、敵が弱すぎるのか、判断に困るわね。
「おい、サーチん! 何をボサッとしてんねん! さっさとザコをぶっ飛ばすでえ!」
「あーはいはい」
握っていた羽扇を短剣に変化させ、両手に持つ。
「はあああああっ!!」
ザクッザクッ!
「「ぐあああっ!」」
手始めにザコ二匹の頸動脈を切断する。
ビシュウウ!!
凄まじい勢いで吹き出した血が、こちらに向かおうとしていたザコに飛散する。
「う、うわ……」
「ひぃぃ……!」
ザコの戦意を挫くにはこれで十分。足が鈍ったところを、。左側の短剣を逆手に持ち代え、さらに数人を斬り伏せる。
ドサドサァ
急所を突かれて、一瞬で絶命したザコ達が倒れ。
「う、うわああああ!」
「ば、バケモノだあああ!!」
大砲の射撃、そして私達の奇襲によって、前線の士気は完全にマイナスへ突入した。
「退け! 退くんだああ!」
「おい、押すなよ!」
「こ、殺される! まだ死にたくねえええ!」
おもしろいくらいに大混乱を起こした帝国軍は、逃げる者と攻める者が混ざりあい、まるで満員電車のような状態になっていた。
「……ありゃりゃ。随分と脆い軍やな」
「見る感じ新兵ばかりみたいね。たぶん経験を積ませたくて、勝ちが濃厚な戦いに投入したんだろうけど……」
それが裏目に出ちゃったわね〜。こっちとしては好都合だったけど。
ギイイイイッ
すると、このタイミングを見計らったかのように、砦から正統王国軍が出撃し。
「あーあ。大混雑の場に、更に大混乱の元がなだれ込んだやん」
これで勝負あり。帝国軍は一気に押し戻され、戦線は崩壊した。
「リジー!」
「サーチ姉! エリザ!」
久々に見るリジーは、あちこちに傷を負っているものの、比較的元気そうだった。
「ソナタとカナタは?」
「奥にいる。二人とも元気」
リジーの話を聞いたエリザが外に出ていった。待機中のエカテル達を呼びに行ったのだろう。
「ドナタも元気よ。まさか脱走してるとは思わなかったけど」
「あ〜……逃がしちゃってすまぬ」
「別にいいわよ。ドナタも新しい才能が開花して、スッゴく役立ったから」
「新しい才能?」
「統率者よ」
「へ? がばめんたー?」
「見ればわかるわ……あ、きたきた」
「りじーせんせえ、おひさしー」
「!? ………ね、ねえ、サーチ姉。ドナタの周りを取り囲んでるのは……何?」
「モンスターの群れ」
「そ、それはわかるけど!? 何でドナタにまとわりついてるの!?」
「それが統率者の能力なのよ。ほら、あの指揮棒に合わせて動いてるでしょ?」
「ま、まさかそんな才能があったなんて……」
「……その代わり、他のスキルは一切使えなくなったけどね」
「え゛」
一瞬固まったリジーは、ドナタを見て再起動し。
「ドナタ!」
勢いよくドナタの肩を掴んだ。
「り、りじーせんせえ?」
「攻撃魔術、使えない?」
「う、うん。つかえない」
「杖術は!?」
「すきるはぜんぶつかえなくなったよ」
……あ、リジーが石になった。
「そのかわりこんなことができるんだよ。それそれそれー!」
ドナタは≪統率≫でスライムとポイズンラットの芸を見せるけど、明らかにリジーには見えていなかった。
「わ、私が苦労して杖術を教えたのに……」
私達と別れたリジーは、ソナタとカナタに剣術を教える傍らで、杖術のスキルを必死に覚えさせていたらしい。だけどドナタが統率者になっちゃったことで、全てムダになってしまったのだ。
「そこまで落ち込むって、どこまで杖術のスキルを覚えさせたのよ?」
「…………≪MP吸引≫まで」
マジか。≪MP吸引≫は攻撃魔術士のマスタースキルの一歩手前の杖術だ。
「……今度はムチでも教えてあげてよ」
統率者の専用武器はムチ。指揮棒から魔力のムチを伸ばして使う。
「鞭なんて使った事がない……と思われ」
「流石に私でもないわね。エリザかエカテルならできるかな?」
そういやエリザは重装戦士だから、ムチだって装備できるわよね…………じゃなくて、話が逸れたわ。
「肝心なことを忘れてたわ。正統王国軍の被害状況はどうなの?」
「被害は…………ぼっこぼこのけちょんけちょんに負けた」
「うーん、大変わかりやすい……わけないでしょ! 具体的な数字で答えなさいよ!」
「初期兵力45,796だったけど、この砦に立て籠るまでに7,737まで減少。主だった幹部も粗方討ち取られ、現在は副長が指揮を取っている」
「じ、実に具体的だったわ」
……それにしても、四万の軍がたった七千人……。完全な負け戦だわ。
「ていうか、よくここまで持ちこたえられたわね」
「副長、胃薬の量が増えてた」
……あとでエカテルに頼んで、よく効く胃薬を処方してもらおう。
「敵は私達の十倍以上……これは流石に難しいか」
別動隊を作って敵の本拠地に回り込むってのも手だけど、正統王国とかが滅ぼされちゃ意味ないし。
「……この状況下で逆転なんてできるかな、いかにリファリスでも……」
『大丈夫よーん』
「……え?」
そのとき、外にいた兵士が飛び込んできた。
「た、た、大変だああああ!! そ、空に謎の飛翔体があああ!」
ひ、飛翔体って何よ!?
「て、敵か!?」
「わ、わかりません! ただ、デカい何かとしか言いようがありません!」
「く……! せ、戦闘配備! 弓矢にて迎撃せよ!」
「お、おそらく効かないと思われますが」
「何もしないわけにはいかんだろう! とにかく迎撃せよ!」
「は、はは!」
バタバタと走っていく兵士達。ていうか、バカデカい飛翔体って……。
「……なあサーチん、ウチにはめっちゃ心当たりがあるんやけど」
「……奇遇ね、私もよ。ていうか、それ以外考えられない」
このタイミングで来たってことは……。
「ま、まさか!?」
「どうしたん?」
「前にさ、救援をダメ元で頼んでみたのよ。もしかしたら何とかなったのかも!?」
『その通りです、サーチ。その飛翔体はシロちゃんと魔王城ですよ』
やっぱりシロちゃん! って……ん? この声は……まさか。
「……ヴィー?」
『はい。念話水晶を見て下さい』
急いで念話水晶を取り出すと、そこには書類の山に埋もれたヴィーが映っていた。
「ヴィ、ヴィー! どうしたの、その書類の山!」
『わ、私が代わりに決済する事で何とか話がつきまして……すみません、後はご本人から聞いて下さい。本当に洒落にならなくて……では』
そう言ってヴィーは念話を切った。
「……ありがとう、ヴィー。おかげで形勢逆転できるわ!」
「ま、まさか……!」
エリザもようやくわかったようだ。
「そうよ〜。こんな窮地から逆転できるとしたら、あたしの采配でしかあり得ないっしょ」
間違いない、この声は!
「リファリス!」
「リファリス様!」