第十九話 ていうか「エリザ、お願いね〜」「まかせとき!」「エリザ、これもお願いね」「まかせとき!」
無事に安全圏(と思われる)箇所に着いたところで一旦止まり。
「馬車とみんなを出して……エカテルから貰ってた状態異常を回復させる薬を振り掛けて……」
ついでに自分のお尻にも。え? 何でかって? あんたも鞍無しで馬に長時間跨がってればわかるわよ。
「…………う……ううん……はっ!? 皆、早く逃げ……あれ?」
エカテルが一番最初に目覚めた。
「ぐっも〜にん、エカテル」
「へ? へ? た、確かサーチさんの毒が私達の方角へ……?」
「そ。それで寝込んじゃって、私とセキトとであんた達を守りながらの逃避行……ゆーあんだーすたん?」
「ゆ、ゆーあー?」
「それは触れなくていいのよ。で、理解した?」
「………………はい。申し訳ありませんでした」
「いいわよ、別に」
風向きを確認しなかった私に責任があるし、寝てるあんた達を石化して運んだりしたし。
「……それにしても、何故身体中が突っ張った感じがするんでしょうか?」
おそらく石化の後遺症かと。
「それよりドナタを起こしてくれる? 私はエリザを起こすからさ」
「わかりました。ドナタちゃん、起きて」
「んん〜ん……」
……さて、私も……。
「すぅ〜〜……エリザ! 起・き・な・さ・い!」
「……ぐぅ」
「ピ、ピクリともしないわね……起きなさい! 起きなさいっての!」
「……ぐぅ」
「…………≪偽物≫、針生成で……ぷすっ」
「いったあ……い……ぐぅ」
マジかよ!
「うーん……今日は一段と手強いわね。こういう場合は、背中に氷で一発なんだけど……」
残念ながら氷は持ってない。
「エカテル、一発で目が覚める薬ない?」
「…………そんなピンポイントな薬、あるわけないじゃないですか」
あら、何でもありかと思ってたけど……意外とお手軽なのがなかったか。
「なら仕方ない、最終兵器で起こしますか」
エリザの鼻を摘まんで、呼吸を止める。
「………………く……ふはあ!」
よし、口が開いた。このタイミングで……!
「う、うわあ……」
エカテルは真っ赤になりながら、寝ぼけてるドナタを目隠しする。
「む〜……ぶふぅ!」
この状態で……毒霧・激辛バージョン!
「……!? むぐっ……っっっぃぎゃああああああああああ!! 辛い痛い辛い痛いっぎぃあああああああああっ!」
リアルに≪火炎放射≫を吐きながら、エリザは飛び起きた。
「よし、これで眠気も吹っ飛んだでしょ」
「……あの、サーチさん? ドナタちゃんの前で如何わしい行為に及ぶのは、教育上よろしくありませんので……」
「あ、ごめんごめん。エカテルにも悪影響だったみたいね」
「あ、あ、当たり前です!」
「あら、エカテルもご希望なの? だったら今度……」
「全力で遠慮させて頂きます」
……エイミアが相手なら喜んで受け入れそうね。
「う〜……痛い辛い痛い辛い……」
「うるさいわよー、静かに馭者ってなさい」
「だ、誰のせいやと思うとるんや!」
「誰のせいかしらね? ちゃんと起きてくれれば、なーんの問題もなかったんだけど?」
「も、元はと言えば、サーチんが断りもなく毒霧するからあかんのや! 少しは周りの状況を考えてから実行せい、あほんだら!」
う、それは言い訳できないわね。でも言い方にイラッとする。
「あ〜めんごめんご。超悪かったって感じぃ〜」
「……イラッとする返事やな〜。反省って言葉を知らんのか?」
少し雰囲気が悪くなりだした私達に、エカテルが割って入る。
「ちょっと待って下さい。今は喧嘩は止めて下さいね?」
「……チッ。今回はエカテルに免じてお預けやな」
「あーら、お預けだなんて、エリザさんにはラッキーだったんじゃないかしら?」
「……! この……!」
「……なんてね。私が100%悪かったわ」
「!?」
「私のミスなのは間違いないわ。だから謝る。ごめん」
「ななな……何で急に謝るねん!」
「だって、エリザとはケンカしたくないし」
「そ、そりゃあまあ、ウチも……」
「なら仲直り。ね?」
「わ、わかったわ。これで手打ちや」
「ん。じゃあエリザ、このままリジーと合流するまで馭者ってね〜」
「お安い御用や! まかしとき!」
「……ていうわけだから、エカテルは次の馭者の番は無しでいいわよ」
「…………エリザさんはサーチさんの手の平の上なんですね」
「あはは。扱い易いだけよ」
たぶんリジーと合流したころに、思い出したように「な、何でウチがずっと馭者してんねん!?」とか言い出すわね。
「な、何でウチがずっと馭者してんねん!」
あ、ちょっとだけ早かった。正統王国の国境の手前で、エリザが急に叫んだのだ。
「何よ、今ごろ気がついたの?」
「ま、まさかウチを嵌めたんか!?」
「嵌めたわけじゃないわ。エリザの広い心に、私達が甘えちゃっただけ」
「ひ、広い心……うへへ……って、もう騙されへんで!」
「わかってる。私達がどれだけエリザに苦労をかけてるか、よーくわかってる」
「お、おう」
「ごめんね、エリザ」
「べべべ別に気にしてへんで! これくらい無問題や!」
「ホント!? ならさらに延長で」
「まかしとき!」
「……よし、私の番も免除ね」
背後のエカテルの視線が冷たいのがわかるけど、気にしない気にしない。
「それより、リジーと連絡が取れないんですか?」
「そうなのよ。あの子も寝起きが悪いからねぇ……」
エリザと一緒の刑にしてやらないとダメかな?
「サーチん! サーチんん!」
「な、何よエリザ!!」
「山の向こう側!」
山の向こう側って……オレンジ色に染まって……って!?
「燃えてる!? ま、まさか!」
「砦が攻められとるや!」
エリザは手綱を操り、セキトにスピードアップを促した。
麓で馬車を降り、エカテルとドナタを残して駆け出す。砦への坂道を越えると、そこには帝国軍の旗が翻っていた。
「数が多いで!」
「とりあえず大砲を撃ち込んで敵を動揺させるわ!」
すぐに大砲を作り出し、弾と弾薬をセットする。
「問答無用で発射!!」
ずどおおおん!!
どがああん!
「うわあああ! 何だ何だ!?」
「敵の援軍か!? 迎撃せよ!!」
まだまだ!
ずどおおおん! どおおおん!
ばがあああん! どどおおん!
「ぎゃあああ!」
「マ、マズい! 密集しすぎだ! 散れ、散れええ!!」
「……よっし、上々やな」
「このまま敵の混乱を拡大して、一気に蹴散らすわよ! エリザ、突撃ぃ!」
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
さーて、エリザに露払いをお願いして、私はゆっくりと行きますか。