第十五話 ていうか、冗談じゃないわよ!
酒場でダベってたマーシャンを捕まえてすぐに出発した。
「なんじゃ! 何があったんじゃ!?」
「実はかくかくしかじかいったあああい!」
「ホントにかくかくしかじか言うバカがあるか! ……マーシャン、滝の真竜が現れたれたらしいの」
「なぬ!? 何故真竜が……もしやエイミアの……」
「そのもしやが濃厚なのよ!」
大きくため息をマーシャンは吐いた。
「……エイミア……お主は騒動を巻き起こす性のようじゃな」
「わ、わざとじゃないんですー!」
……わざとで滝の真竜引っ張り出す方がスゴいわ。
「どちらにせよ相変わらずのエイミア頼りよ。しっかりして!」
水の属性なら雷は天敵。それだけがまだ救いだわ。
「エイミアは着くまでに精一杯静電気を補充しなさい!」
「わ、わかりました!」
そう言って身体を擦り始める。
ゴシゴシゴシゴシ
……。
緊張感が……。
「リル、矢は余裕ある?」
「あと二、三本しかねえな。追いつくから買い足してくる」
武器屋へ走るリル。
「それじゃあ私は物資を調達するわ。マーシャン、手伝って!」
そして夕方には出発できた。本来なら夜に行軍するなんて危険なんだけど……。
「ワ、ワシをなんじゃと思っとるんじゃ!」
「非常事態なのよ、文句は終わってから! ほらMP回復のポーション!」
「な、ぐびぐびぐびごぼお!! ……ちょっと待っぐびぐびぐび」
……ムリヤリ借りてきた馬車をリルが操り、ムリヤリ魔除けの結界をマーシャンに張らせ、ついでにムリヤリ魔術で明かりまで照らさせて、私がマーシャンにMPポーションをムリヤリ飲ませ、エイミアはひたすら擦る。
一応全員必死だった。吐きそうになりながらポーションを飲まされ続けるマーシャンも違った意味で。
そのおかげで普通は二日かかる行程が半分の一日着くことができた。マーシャンの貴重な犠牲のおかげで。
「はあはあ……もう嫌じゃ……ポーションは飲みとうない……」
到着してからブツブツと呟き続けるマーシャン。
「……ちょっと不気味……」
「おいサーチ」
「でもリル、思わない?」
「まあ確かに……てお前のせいだろ!」
最近リルもツッコミのレベルが上がったわねえ。
「いいじゃない、無事に着いたんだし」
「反省の色全くなしだな!」
反省はあとからします。
「………………このまま流そうったって私は覚えてるからな」
……鋭い。
無事に堕つる滝に着いたけど。
……これはヒドい。
「うわー……ありゃ完全にブチギレてるわね」
上空を飛び回る滝の真竜はあちこちにハイドロポ……じゃなくて水流を放っていた。かなり高圧なのだろう、岩も木も一瞬で粉々だ。
「普段感情を表すことのない真竜があれだけ怒り狂うとは……余程のことがあったのじゃな」
……エイミアの静電気が当たったから……ってレベルの怒り方じゃないわね。
「エイミア、あんた何やったの!?」
「何で私なんですかー!」
「「「あんた以外に誰がいるのよ!」」」
見事にハモった。
「私知りません! アブドラ達も違うって言ってます!」
「そう、アブドラた……」
アブドラ!?
「ワイバーンと会話してるの!?」
「は、はい。何故か声が聞こえます」
ワイバーンなら滝の真竜と会話できるかも!?
「エイミア、アブドラに『アレ何とかして』て伝えて」
「はい、わかりました! アレ何とかして」
おい! そのまま伝えるな!
「…………ひえ!? ……お、怒られました……」
「あ・た・り・ま・え・よ!!」
「いひゃい! いひゃい!」
……あ、頬っぺた引っ張るだけじゃワンパターンか。なら、アイアンクローで……!
「あいたたたたたいたい!」
「んなことやってる場合か!」
「ごめんなさい、アイアンクローならいいかなーって」
リルが頭を抱えた……ごめんなさい、マジで。そんな場合じゃなかったわね。
「いたたた……え? あれ? え、えええ!?」
ん? エイミアが焦りだした?
「どうしたの?」
「わ、わ! 嘘! ……サーチ、今すぐ逃げて!」
「え? 何で?」
「落ち着いて下さい! お願いします……うわダメだー!」
今度はエイミアが頭を抱えた。
一体何なの?
「サーチ、逃げて下さい! 滝の真竜が向かってきます!」
「はあ!? な、何でそうなるのよ!?」
「私がサーチにいじめられてる、だからそれを止めるって滝の真竜が言ってるらしいんです!」
な、な、何でよおおお!
ゴオオオ……
「お、おい! ホントにこっちに向かってきてるぞ!」
「ちょっと! 冗談じゃないわよおおおおおお!!!」
必死で走り出したあと。
ずどおおおん!
嘘でしょー!
滝の真竜の本気の水流が炸裂してるし!
「おい! エイミア、マジでやばいぞ!」
「な、何とか頑張ってみます!」
「エイミア! 早く何とかしてええええ!」
ずどおおおおおおん!