第十八話 ……ていうか……だんだんセキトのことが、理解不能になった。
リジーと綿密に念話をしながら、少しずつ距離を詰めていく。けど、あちこちに残党狩りの検問があって、なかなか思い通りにことが進まない。
「あ〜もう! ここも塞がれちゃってるわ!」
メイン通りから外れに外れた畦道だったんだけど、数名の帝国兵がたむろしていた。
「だんだん増えてきたで〜。こんな人の通りそうもない道まで塞いでるんや、帝国は残党狩りに本腰入れとるんやな」
「もしかしたら、連合王国軍の重要人物がこの辺りに潜伏してるのかもしれませんね」
他の場所に潜伏しなさいよ!
「……強硬突破するしかないかな?」
「それより変装しては?」
「変装?」
「馬車を魔法の袋に仕舞って、私達は農民風の出で立ちになって、セキトを全体的に汚してしまえば、かなり有効だと思いますけど?」
セキトを……汚す。つまりは土なんかを塗りたくって、赤い身体を誤魔化そうってことなんだろうけど……。
「…………」
……ブルル。
「……止めときましょう。セキトにハンスト起こされたら、たまったもんじゃないわ」
「は、はあ……」
セキトのことだから『ハンガーストライキは労働者の権利です』とか言いそうだし。
「ならどないするんや?」
「……なら穏便に強硬策でいきますか」
「「……?」」
私一人だけ別行動し、背後に回る。ちょうど私達から見て向かい風だったから、この作戦にはうってつけだ。
「……よし、風向きOK。くらえ、毒霧……ぶふぅーっ」
その向かい風に無臭の睡眠毒を乗せて、帝国兵に送る。しばらくすると。
「んん……」「ぐ、ぐぅ……」
バタッドサッ
……よし、寝た。
「みんなー、もういいわよ。こっち来てー」
馬車に向かって叫ぶけど…………あれ? 反応がない?
「何をやってんのよ……」
不審に思って馬車に行ってみると……。
「「「……ぐぅ……」」」
ぐぁ……あ、あんた達まで寝ちゃってどうすんのよ!?
「寝てないのは……セキトだけか。仕方ない、しばらくは私達だけでがんばろっか?」
ブルル
セキトはたぶん『任せて下さい』……と言ったと思う。
カッポカッポカッポカッポ
ガラガラガラガラ
荷台にぐーすか寝てる三人を放り込み、私とセキトだけの逃避行は続く。
「このまま進めば宿場町のはずなんだけど、地図が寝ちゃったからなぁ……」
この辺りには敵の気配も感じないし、しばらくは大丈夫だと思うんだけど……。
ブルヒーン!
半分ぼんやりとしながら手綱を握っていたら、突然セキトが嘶いた。
「ん? ……灯り、か。やっぱり宿場町があったのね」
当然宿場町には、たくさんの帝国兵が張ってるわけでして……。
「さて、どうしたもんかね。私とセキトだけだったら、山を越えることも可能だろうけど」
後ろの仲間を何とかできれば………………あ、そうだ!
「セキト、いつぞやみたいにエリザ達を石化できない?」
ブルルルル!
激しく首を振ってるってことは、ムリってことか。
「あーあ。ヴィーでもいてくれれば……………あ、そうだ」
もしかしたら……! 私は急いでヴィーに念話する。
『はいはいはい! サーチですか!』
出るの早いな!
「は、はろ〜。元気だった?」
『先程まで殺気でムンムンでしたけど、サーチのお陰で吹き飛びました!』
……いろいろ苦労してるみたいね。
「それよりさ、一つ頼みがあるんだけど」
『はい?』
ゴールドサンからの経緯を簡単に話す。
『……ではサーチ達は、その帝国軍から逃げてるわけですね?』
「そうなの。今から山に入るつもりなんだけど、寝ちゃってるエリザ達を何とかできないかと」
『何とかする……と言いますと?』
「ヴィー、念話水晶越しで≪石化魔眼≫ってかけられない?」
『はいい!? ま、まさかエリザ達を石化してから、魔法の袋に詰め込むつもりですか!?』
「ぴんぽーん! 確か石化されてる場合って、アイテムとして認識されるはずよね?」
『そ、そのはずですが……相変わらず悪辣ですね』
「悪辣って……ずいぶん口が悪くなったわね。今度会うときは仕返しにヒイヒイ言わせてやる!」
『寧ろ言わせてほしいです。足腰立たなくなるまで』
…………………おほん!
「は、話が逸れたわ。でさ、できるの?」
『おそらく。試した事がありませんので、仮定でしか言えませんが』
「じゃあよろしく」
そう言って念話水晶をエリザ達に向けた。
『いきます……≪石化魔眼≫!』
かちんっ
お、石になった。
『ふうう……やっぱり普通より魔力を消費しますね』
「ありがとう、助かったわ」
『いえいえ。サーチのお役に立てたのなら何よりです』
「ん。また念話するから。ちゃおー」
『ちゃ、ちゃお?』
念話を切ってから、早速馬車と石化したエリザ達を魔法の袋に詰め込んだ。
その日ヴィーは≪石化魔眼≫の反動で、本会議中に居眠りしてしまう失態を晒すことになったらしい。
「よし、私とセキトだけになったから、何とか山を越えられそうね」
ホタルんの光を最大にして、鬱蒼とした山の中を進む。意識を集中して気配を探るけど、小動物がいる程度だ。
「確かこのまま北側に出れば、今は使われていない旧街道にでるはず。とりあえずそこまで下りましょう」
まさか旧街道にまで、兵を配置してないだろう……という油断が痛かった。
「そこの女! どこへ行く!?」
し、しまった! ここにも配置されてたのか! 急いで踵を返し、来た道を戻る。
「こら、待てえ! 騎馬隊、行けえ!」
ドドドドド!!
ちぃぃ! 騎馬隊がいたのか! これはマズい! 山に戻っても宿場町の兵と挟み打ちされたら、もう逃げ場はない!
「エリザ達を石化するんじゃなかった……! どうしよう」
走りながら悩んでいると、セキトが私の前に回り込み。
「乗りなさい」
ま、またしゃべった!?
「早く!」
セキトに急かされ、私は背中に飛び乗る。
カッポカッポカッポカッポ……カポポポポポポポポポポポポポポ!
は、早い! めちゃくちゃ早いい!
ヒヒイン!
ばごっ!
「うぎゃ!」
ヒヒヒイン!
めごっ!
「うげっ!」
ヒィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィン!
ばごごごごごごごごごごごごごごっ!
「ぎゃ!」「ぐえっ!」「がは!」「うばらっ!?」
ヒッヒィン!
どごお!
「がは……! ひ、ひでぶぅ!」
ひでぶぅ出た!
「「「あ、あべしぃ!」」」
あべしも出た!
ヒヒイン、ヒッヒィンヒィン
カッポカッポカッポカッポ
……全員蹴り殺しちゃった。ていうか、百烈蹄?
「……ヴィーや私より先に、セキトがヒイヒイ言っちゃったわね……」
このまま旧街道を走破し、無事に私達は包囲網を突破した。
セキトの腹には、七つの傷が?