第十六話 ていうか、さあさあ急いで戻れや戻れ!
まずはリジーと合流するのが先決。急いで準備を終わらせ、オエードを出発する。その前に、一応ツボネさんに院長先生の件を報告したんだけど……。
「…………そうかい」
そう言って肩を落とし、それからは何も答えてくれなかった。目が少しだけ潤んで見えたのは、たぶん気のせいじゃないと思う。
「……もう少しゆっくり話したかったわね……」
間違いなくツボネさんは何かを知っている。だけど、それは絶対に教えてくれない。
「……たぶん院長先生から口止めされてるのね」
「ウチらが何を言っても、何をしても無駄なんやろなあ……」
「あの〜……強力な自白剤ならありますよ?」
……………。
「や、止めときましょう」
「さ、流石に悲しんでる人には酷やろ……」
「え〜……でもよく効くはずなんですよ、この自白剤」
「……何や、めっちゃやる気やな。実験動物を目の前にした、怪しい科学者みたいやで」
「じじじ実験のつもりはももも毛頭ないです!」
めっちゃ動揺してるじゃん!
「命令、自分で飲め」
「えええ!? 嫌です無理です鬼畜ですぅぅぅごっくん!!」
よし、飲んだ。実験開始。
「エカテル、好きな男性は?」
「な、何を聞いてくるんですか!? フリドリです」
おお、ちゃんと答えた。
「スリーサイズを上から順に」
「聞かないで! 聞かないで下さい……76・57・83です」
「スタイルええやん」
「止めてぇぇぇ! これ以上何も聞かないでぇぇぇ!」
いえいえ、これは実験ですから。
「なら初手繋ぎと初キッスと初Hを、具体的な情景を織り混ぜて話しなさい。もちろん、誰が相手だったかもね」
「嫌あああああああ! やっぱり鬼畜ですぅぅぅぅぅぅ!! まず初手繋ぎは……」
結局エカテルは私が聞いたことは、全て包み隠さず白状した。いやあ、スゴい効き目ねえ。
「もう嫌! もう止めて下さい!」
……流石に可哀想かな。
「なあ、サーチん」
「何?」
「どうせ奴隷紋で逆らえないんやから、わざわざ自白剤で喋らす必要はないんちゃう?」
………………そうね。
「それにしても、初めての相手はフリドリじゃなフガフガ」
「余計な事は言わなくていいんです!」
さて、またまた話は脱線したけど、急いで暗黒大陸に戻らないといけない。
「というわけだから、今すぐ船を出しなさい!」
「いやいや、急に迫られてもね……何の訳だかさっぱりなんだが」
「サーチさん、落ち着きましょう。ちゃんと事情を説明しないと」
あ、ごめんなさい。つい港についたタイミングで、馬車も載せられるくらいの船を発見したもんだから。
「実はかくかくしかじかで、至急船を出してほしいの!」
「いやいや、実際にかくかくしかじか言われても……」
「サーチん、一旦深呼吸しよか」
何よ、私は至って平常心よ。
「サーチさん、ここはお任せ下さい……ふーっ」
「うわっ!? ゲホゲホゴホ……い、いきなり何を………………ふぁ?」
あれ? 船長さんがいきなりトロンとした。
「ふぁ……は……ぁ……」
「ちょ、ちょっとエカテル! 一体何をしたのよ!?」
「これは相手の意思を奪って、暗示をかける為の薬です」
暗示!?
「ですからこの状態で……私達を暗黒大陸まで送りなさい!」
「ふぁ? ……わかりました……」
「貴方は私が手を叩いたあと、薬をかけられた後の記憶を失い、私の命令を忠実に実行します……はい!」
パンッ!
「……ふぇあ!? あ、あれ? 俺は一体……」
「じゃあ私達を暗黒大陸まで送って下さいね?」
「ん!? ………あ、ああ。そうだ。そうだったな。それじゃ乗ってくれ!」
……スゴいけど……怖。
「……エカテル、もしかして新薬を試したくてウズウズしてた?」
「へ!? そ、そんなことはありましぇんよ!?」
おもいっきり動揺してるじゃないの!
「……私達に試したら承知しないからね?」
「は、はい」
「……絶対命令! 私達を実験台にするのは禁止!」
「は、はいいっ!」
……エカテルって意外とマッドサイエンティストなのね……。
だんだんと遠くなっていくゴールドサン。さらば、エセジパングよ。
「このまま行けば確実にモンスターに遭遇するぜ? その時はあんたらに頼んでいいんだな?」
……あ、ゴールドサン→暗黒大陸間って、モンスターがいっぱい出るんだっけ。
「ん〜……仕方ないか。ドナタ、またテラロドンに露払いをお願いできない?」
「だいじょうぶだよ〜。もうしたにきてる」
「へ!?」
急いで海面を覗いてみると。
「な、何か巨大な影がいるわ……」
間違いない、海王テラロドンだ。
「…………船長さ〜ん、絶対にモンスターは出ないと思うわよ」
「はあ?」
……私の予言通り、暗黒大陸に着くまで一匹もモンスターが現れることはなかった。
「スゲえ……モンスターが一匹も出ないなんて、今まで一度もなかったのに……」
全部海王の腹の中だと思う。
「それじゃお代は金貨二枚になりやす」
「たっか! 相場の十倍以上じゃない!」
「……あのね、お客さん。船一隻丸々チャーターしたんだぜ? 普通はそれぐらいかかるだろうが」
…………そうね。
「……暗示かけるとき『タダで』って付け加えとくべきだったわ」
「何か言ったか?」
「い〜え、何でもありませんわ……はい、二枚」
「ありがとうよ。またのご利用を待ってるぜ!」
そう言って船長は意気揚々と引き返していった。
「ねえ、さーちん。あのふね、もういっかいごえいしてもらう?」
「もういいわ。海王にはよくお礼言っといて」
「はーい」
この船、帰りは大量のモンスターに追われることになり、九死に一生を得ることになる。ま、無事だったらしいからいいか。
またまた真っ暗な状態に戻った私達は、半分冬眠状態だったホタルんを起こして光ってもらう。
「久々やなあ……やっぱ太陽って偉大やわ……」
激しく同感。ていうか、それよりもリジー達に念話だ。
「繋がるかな……」
『………………はい、来々軒です』
「………………ラーメン一つ、出前で」
『ラーメン一つはお断りあるよ』
「ていうかずいぶんと余裕ね、リジー!」
『サーチ姉だって』
「……何をしょーもない事やってんねん」
はっ! そうだった!
「リジー、今暗黒大陸に戻ったんだけど、今はどの辺り?」
『正統王国手前のファストヤ砦』
ファストヤって……そこまで押し込まれてるの!?
「グリム達は!?」
『殿軍が敗退した時に行方不明になった』
……殺られたか……。
「私達もすぐに合流するから、それまで持ちこたえて!」
『努力する……と思われ』
思うだけじゃなく実行しなさいよ!?