第十五話 ていうか、院長先生の思惑はわからないけど、今回はリファリスと協力して事態を打開するんです!
い、院長先生が!?
「A級冒険者が……それはマズいですね。下手すれば連合王国軍が全滅しかねないです。それにしても……暗黒大陸にヒルダなんてA級冒険者いたでしょうか?」
「エカテルさん、ちょっと顔を貸してあそばせ?」
「え、何ですか? あいたたたたた!」
何故かメイドフォルムになったエリザに耳を引っ張られて、エカテルは路地裏へ消えていく。ていうか、いつの間にエリザが?
「…………と、とりあえずは……ソレイユに聞いてみようかしら」
動揺する心を必死に抑え、念話水晶でソレイユを……。
ブルブルブル!
あ、念話水晶が震えてる……?
「はい、もしもし」
『やっと出たよ〜、さーちゃん』
リ、リファリス?
『さーちゃんは通話中だったから、エリザに念話して事情を説明したんだけど』
「……そ、それじゃあ院長先生のことで?」
『エリザがそっちに飛んでいかなかった?』
ど、どうりでいないはずのエリザがいたわけだ。しかもメイドフォルムで。
「今はもう一人の仲間を引き摺ってったわ」
『成程ね。ならさーちゃんにはあたしから説明しよっか』
「お願い」
『まず、院長先生はもうA級冒険者じゃない』
「ど、どういうこと?」
『先日ギルド本部にフラりと現れて、冒険者の引退届を出して消えたそうよ。止める間もなかったみたい』
「本部はそれを受理しちゃったの?」
『止める権利はないからね』
ギルドの決まりには『冒険者本人からの引退届は、必ず受理しなければならない』というモノがある。上級冒険者がなかなか辞めさせてもらえない、という事態を避けるための決まりだ。
「……それで? 他に何か知ってる?」
『あたしに念話があった。もしかしたらさーちゃんを敵に回すかもしれないから、その時はさーちゃんを助けてやって、って』
……ギリ……
『さーちゃん、奥歯を噛み締めすぎると砕けるよ』
……ギリリ……バキッ
『あ〜あ、言わんこっちゃない』
……何それ? 私にケンカ売ることは覚悟の上で、いざとなったらリファリスには私の味方をしろと……?
「……どんだけナメてくれてるのよ、院長先生は……」
昔っからそう。いつだってそう。私のことを心配して、必ずフォローを入れてた。
「……冒険者として独り立ちした、今でさえ……!」
そして、敵対する状況になってさえも……!
『……さーちゃん、あたしにも院長先生の考えはわからない。だけど、院長先生は昔と何も変わってない。あたしと同じように、さーちゃんを心配してくれてるんだよ』
「……もしかしたら、今回の事態は院長先生の本意じゃないってこと?」
『じゃなきゃ、あたしにさーちゃんのフォローを頼まないでしょ』
……そうね。
「……わかったわ。リファリス、悪いけど全面的にフォローをお願い」
『覚悟を決めた?』
「ていうかさ、いい加減に院長先生にも、私達の成長を認めてもらわないとね」
『……そうだね。あたしもそれは思ってたよ。わかった、なら力ずくでも認めさせよう!』
「よっし、やったるか! リファ姉、早速なんだけど……」
私はいろいろと頼み込む。ていうか、リファ姉じゃないとムリ。
『ふむふむ……いいよ〜、ドンと任された。三日で調べてあげよう!』
「おお、流石リファ姉!」
『何の何の。久々に「リファ姉」って呼んでくれたからね。やる気MAXだよ! じゃね〜』
そう言うとリファリスは念話を切った。私、ついリファ姉って呼んじゃったのね……。
「……リファ姉ですか」
びくぅ!
「エ、エリザ……?」
「随分と親しげでございますね、サーチ様?」
や、やべえ。メイドフォルムのエリザは、ヤキモチがハンパないんだった……!
「いつもの私なら許すのでしょうが、今はメイドフォルムである以上、只では済みませんよ?」
さ、最新装備の強弱の盾と重力の盾を持ち出してきましたよ!? 本気みたいなんですよ!?
「ちょちょちょちょって待って! わ、私はただ昔の呼び名で言っちゃっただけで……!」
「む、昔の呼び名でイッちゃった!? 何てはしたない……!」
「変な風に変換するのは止めてくれるかな!?」
「問答無用! 天誅ーーーーっ!!」
だから待ちなさいって……ぎゃあああああああっ!!
「もういいでしょうか? ……って、何で二人ともボロボロなんですか?」
「な、何でもありませんですよ……オホホホ……」
「エリザさん、口調が変わってますよ」
「お気になさらず。それよりもサーチ様を手当てしてくださる?」
「あ、はい。サーチさん大丈夫ですか?」
「イタタ……だ、大丈夫大丈夫。ていうか、エリザ強くなったんじゃないの?」
「何を仰るかと思えば……この私があなた如きに遅れをとると思いまして?」
ム、ムカつく……!
「だったら今すぐに、あの世に送ってあげましょうか!?」
「上等ですわ! その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ!」
「止めてください!」
ぶわっ
「うぐ!?」
「けほけほ!」
「痺れ薬を散布しました。しばらく大人しくしてて下さい!」
………。
「あの〜……エカテル?」
「あ、あれ!? 何でサーチさんには効果がないんですか!?」
「私、毒は無効なのよ」
「はうう!?」
……私の足元では、痺れて動けないエリザが、恨めしそうに私を睨んでいた。
「……ちょっと仕返し」
バサッ
「……っ!! っっ!」
「あ、紫」
「本当だ。大胆ですね」
エリザの痺れが回復するまでの間、私はエカテルに院長先生のことを話した。
「そ、それじゃあサーチさんの育ての親がA級冒険者なんですか!?」
「元、だけどね。それに育ての親ってほどには、いろいろしてもらったわけじゃない。あくまで院長と保護された子供の関係でしかないわ」
「どちらにしても、サーチさんとしては戦いたくないんですよね?」
「それ以前の問題よ」
「……と言いますと?」
「戦いにならないわ。本気で殺し合いに発展したら、一秒で勝敗が決まるわね」
どちらが勝つかは、言う間でもない。
「な、ならどうするんですか!? そんな人が敵に回ったんじゃ、私達に勝ち目なんてないじゃないですか!?」
「その通りよ。正面からぶつかればね」
「……へ?」
確かに院長先生は強い。はっきり言ってバケモノクラスだ。数万の軍でさえ、一時間もあれば全滅だろう。
「だけど院長先生は一人なの。たった一人で全てを防ぐなんて不可能よ」
「……あ、つまりは、院長先生との直接対決を避けて、相手の首脳陣を一網打尽にできれば……」
「私達の勝利ってわけ。要は院長先生にさえ気をつけていれば、いくらでも勝機はあるのよ」
「……っ! よ、ようやく痺れが消えましたわ! あの二人、絶対に許さない…………ってあれ? ウチはここで何をしてるんや? リファリス様と会話したとこまで覚えとるんやけど……?」